「特に最後の5分に失点するチームっていうのは、前にも言いましたけど、本当に弱いチームだなとつくづく思いますし、こういった試合で同点にされるのは疲れた中での練習の甘さから来る部分が大きい」とエースFW鈴木優磨も浦和戦後に苦言を呈していた。
◆【J1前半戦を2位ターン。成長と停滞の中にいるJ1鹿島が首位に立つために(1)】「練習の甘さから来る部分が大きい」と鈴木優磨も苦言。鹿島はなぜ首位・町田を抜けないのか(サッカー批評)
◆【J1前半戦を2位ターン。成長と停滞の中にいるJ1鹿島が首位に立つために(2)】後半戦で問われる「手薄な選手層をどうするか」。柴崎、樋口ら控え選手の“貢献度”も必須テーマに(サッカー批評)
2024年J1も折り返し地点の第19節を迎え、今季初昇格を果たした町田ゼルビアが勝ち点39と首位をガッチリとキープしている。優勝候補と言われたヴィッセル神戸やサンフレッチェ広島などがポイントを取りこぼす中、彼らのシンプルかつしぶとく粘り強い戦いは目を見張るものがあるだろう。
こうした中、常勝軍団復活を目指す鹿島アントラーズは同37の2位で折り返した。ランコ・ポポヴィッチ監督体制で再出発した今季は開幕前に柴崎岳、鈴木優磨が負傷。本職のセンターバック(CB)が3枚しかいないなどチーム編成にも不安があり、苦戦を予想する声も多かった。しかしながら、前へ前へという意識を強く押し出すハイインテンシティのスタイルが機能。ここまで11勝4分4敗というまずまずの数字を残している。
「まずはしっかりとした信頼関係は作れた。自分たちのよさを前面に出し、苦手な部分は出さないような戦い方を徹底してやってきました」と指揮官も語ったが、知念慶のボランチへのコンバート、新助っ人FWチャヴリッチのジョーカー起用、ここ一番での佐野海舟の最終ラインの穴埋めなど、限られた現有戦力を最大限有効活用しながら、前半戦を乗り切った印象だ。
■「練習の甘さから来る部分が大きい」
とはいえ、「ここで勝ち切れていれば、町田と肩を並べられていたのに…」というタイミングは何度かあった。5月12日の東京ヴェルディ戦、直近の6月22日の浦和レッズなどは最たる例だろう。前者は3点をリードしながら3-3に追いつかれ、後者も前半終了時点では2-0だったのに、終わってみれば2-2という悔しい結果で2ポイントを失った。
「特に最後の5分に失点するチームっていうのは、前にも言いましたけど、本当に弱いチームだなとつくづく思いますし、こういった試合で同点にされるのは疲れた中での練習の甘さから来る部分が大きい」とエースFW鈴木優磨も浦和戦後に苦言を呈していた。
彼自身も前半戦だけで早々と得点を2ケタに乗せ、お膳立てからフィニッシュまで凄まじい存在感を発揮。明らかに大きな成長を感じさせる。その鈴木の背後にいる名古新太郎、師岡柊生、仲間隼斗の走力と推進力も目を見張るものがあるし、濃野公人と安西幸輝の両サイドバック(SB)もビルドアップやお膳立てによく絡んでいる。彼らの連動性が高まっているからこそ、今季前半戦の鹿島は総得点33というリーグ2位の数字を残せている。そこは前向きな材料だ。
■「僕たちはまだ完璧なチームじゃない」
だからこそ、守り切れるゲームを増やさなければいけない。総失点22と町田より6多い現状が2位止まりの一因であるのは紛れもない事実。鹿島が守り切れないというのは、常勝軍団の伝統を考えても許されることではない。そのあたりの要因を鈴木優磨はこう語っていた。
「浦和も後半からフォーメーションを変えてきて、僕らがうまく対応できなかった。前半のブロックを引いていた位置より2~3m後ろになって重たくなったのはありますし、僕らはセンターバック(CB)が強いんで『ペナ内の前で守ればいいや』という考えになりがち。そうなるとなかなかプレスも打てなくなる。
ブロックを引く時間帯も大事だし、鹿島の伝統でありつつも、もっと前から行ってラインを引くことをセットにしてやらないといけない。僕たちはまだ完璧なチームじゃないんで、出た課題を1つ1つ、つぶしていく作業が必要かなと思います」
その指摘は的を得ている。後半戦浮上のカギは失点数減少に他ならない。守備の要・植田直通中心に改善への大きな一歩を踏み出すことが重要だろう。
(取材・文/元川悦子)
(後編へ続く)
後半戦で問われる「手薄な選手層をどうするか」。柴崎、樋口ら控え選手の“貢献度”も必須テーマに
今季前半戦の鹿島アントラーズは、鈴木優磨の10点を筆頭に、新助っ人FWチャヴリッチが6点、大卒ルーキー・濃野公人が5点、名古新太郎が4点と幅広い得点源が生まれている。岩政大樹監督(現ハノイFC)が率いていた昨季までは鈴木優磨依存が明白で、それを改善すべくランコ・ポポヴィッチ監督を招聘した経緯もあった。そこに関しては一応の成果が出ていると言っていいだろう。
しかしながら、陣容的に充実しているのは2列目アタッカー陣だけ。FW、ボランチ、DF陣は戦力的に乏しいというアンバランスなチーム編成は後半戦も続きそうだ。
一部報道ではボランチの主軸で、いざという時は最終ラインにも入っている佐野海舟が海外クラブからオファーを受けているという話も出ており、今夏流出の可能性も高まってきた。となれば、ますます戦力的には厳しくなる。指揮官にとっては頭の痛い問題と言える。
■選手層拡大は急務の課題
そこで期待したいのが、柴崎岳や樋口雄太といったボランチをこなせるベンチメンバーのさらなる存在感アップだろう。特にキャプテン・10番・選手会長を務める柴崎はもっと稼働率を引き上げていかなければいけない。開幕前の宮崎キャンプで負傷し、5月下旬に復帰してから1カ月が経過するが、リーグ戦は4試合に途中出場しただけだ。
6月22日の浦和レッズ戦でも、武田英寿に1点を返され、2-1にされた直後の後半36分から登場。トップ下に入ってゲームを落ち着かせる役割を託されたが、浦和の怒涛の攻めを食らう形になり、十分な仕事を果たせたとは言い切れないものがあった。柴崎の実績と経験値を考えれば、今のパフォーマンスは物足りない。同い年の宇佐美貴史(G大阪)や宮市亮(横浜)が完全復活した今、彼はもっともっとやらなければならないはずだ。
それは終盤に入ってきた樋口や藤井智也にしても同様。彼らが先発組にそん色ないパフォーマンスを出せる状態にならなければ、この先も固定メンバーでの戦いが続くことになる。夏場の酷暑の時期になれば、消耗も激しくなり、終盤足が止まるといった事態に見舞われないとも限らない。それを回避するためにも、選手層拡大は急務の課題なのだ。
「途中から入る選手のクオリティを考えても、自分たちはどのチームにも劣ってはいないと思っている。自分たちは後半逆転して勝ってきた試合もあるし、追いついた試合もある。パワーは必ずあると思うんで、そういった選手たちにどううまく試合に入らせるかが自分の仕事」と柴崎に代わってキャプテンマークを巻き続けてきた植田直通は語気を強めていたが、ポポヴィッチ監督がもっともっと交代に踏み切れるような戦力を増やしていくことが必要なのである。
■移籍加入もフィットの時間も視野に
鈴木優磨、植田、関川郁万ら代えの利かない面々への依存状態も本当に何とかしなければいけない根深い問題だ。実際、すでに鈴木、関川、濃野はイエローカード3枚をもらっていて、いつ出場停止になってもおかしくない状況。6月最終週はガンバ大阪、ヴィッセル神戸との上位対決が待っているし、7月に入れば復調傾向の横浜F・マリノスも待ち構えている。そういった相手に勝ち続けなければ、町田をかわしてトップに立つことはできないだろう。
クラブ側は夏場の補強も視野に入れているはずだが、今季獲得したギリェルメ・パレジやミロサヴリェヴィッチのようにフィットするのに時間がかかるケースも少なくない。となれば、やはり今いるメンバーの底上げが早道。6月のU-23アメリカ遠征に参戦した松村優太、春先以降はベンチ外になっている津久井佳祐、6月16日のアルビレックス新潟戦でJ1デビューを果たした徳田誉といった人材が存在感を高めてくれれば理想的だ。
とにかく、後半戦で上昇曲線を描くのか、下降線を辿るのかは、チームの底上げ次第。失点減という課題も含め、やらなければいけないことは少なくない。
(取材・文/元川悦子)