<ゴン魂&秋田塾 炎の対談第1回>
日刊スポーツ評論家の元日本代表FW中山雅史氏(46)と同DF秋田豊氏(43)が、日本代表について激論をかわした。本紙で展開している評論家のコラボ企画「ゴン魂&秋田塾 炎の対談」として、3回連載で掲載。第1回はザッケローニ監督が就任当初からいまだにこだわる3-4-3システムについて。秋田氏は「やめた方がいい」と一刀両断し、中山氏は「サイドのスペースを突いちゃう」と、FW目線で言及した。【聞き手=盧載鎭、高橋悟史、栗田成芳】
W杯出場決定から約4カ月がたった。その間、東アジア杯、コンフェデレーションズ杯の公式戦を含め戦った国際Aマッチは10試合。それは、来年のW杯で勝つためにできる限られた実戦の場でもある。まずは、瞬く間に登場した新戦力の台頭から、2人が激論の口火を切った。
秋田 中山さん、1トップに柿谷選手が出て、1試合で「レギュラーでいいじゃん!」って思いませんでした?
ゴン やるな、とは思ったよ。
秋田 コンビが合いそうだしシュートもうまいですよね。
ゴン 前線のコンビネーションという意味では、スムーズに入っていると思った。それぞれのイマジネーションにはたけているのだろうけど。ただ、前線からの守備だよね。よくやっているけど、いろんな選手がW杯優勝を公言している以上、そこにいくための守備をしないといけない。そこにいくにはちょっとの甘さも排除していかないと、たどりつけない。本人たちが自覚しての発言だろうけど、しっかり改善していかないと。
秋田 それは本田圭佑選手しかりですよね。
ゴン そうそう。本田選手も言っているわけで、理解した上でテストマッチに対して意識がすごく上がっていると感じた。グアテマラ戦にしてもガーナ戦にしても発揮され、効果があった。ただそこが最低限のラインでなきゃいけない。そこからもっと高めないと。強豪相手に対応できるかどうかに、つながってくるんじゃないかな。
コンフェデ杯で3戦9失点。さらに8月のウルグアイ戦でも4失点を喫し、世界レベルを相手にした課題は、必然的に守備へとフォーカスされていった。ただ9月の親善試合で格下グアテマラに無失点。そしてガーナを1失点に抑え、一定の手応えを見せた。
秋田 前線からの守備が本当によくなりましたね。
ゴン 反応が早い。攻守の切り替えがすごく早かった。前で走ってくれることで、後ろも狙いやすい。
秋田 コンフェデ杯はボールロスト、イージーミスが多いからカウンターを食らう。グアテマラ、ガーナとの2試合はキープ力、攻撃力もよくなっているからDFラインを上げる準備ができたと思います。
ゴン 取りどころ、プレスするところを決める。DFラインがそろっていることは重要だよね。
秋田 DFラインを考えれば、4枚より3枚の方がコントロールしやすいと思うんです。トルシエの「フラット3」って言われていたけど、真ん中の選手が見えるしやりやすい。4人になるとコントロールしづらいところはあります。
ゴン 代表でも3バックやっているよね。でも4バックから3バックになったときは、攻撃的か守備的かどっちなのかな? ザッケローニ監督は攻撃的って言うじゃない? イマイチはっきりしないんだよね。
秋田 ザッケローニ監督は3枚でやりたいと思っていると思いますよ。
ゴン そうだよね。今あれだけ4バックでいい感じなのに、なんでここで3バックにするのか?
秋田 いくつか要因はあると思います。まずは高さ。コンフェデ杯で、高さでやられたことが多かった(9失点中3点がヘディング)。必ずクロスを狙ってくるから、中央に3枚いると十分対応できる。1枚多くなるだけですごく楽になる。これが1つ。あとは、内田、長友はどちらかというとウイングハーフタイプ。サイドバックタイプじゃなく、攻撃力をストロングポイントにした方がいいと考えているのかもしれませんね。
2人の激論は自然と、ザックが何度も試みる3-4-3のシステム論に。ただ1つ注意しなければいけないのは、ザックが言う3バックは一般的な「3人のセンターバック」ではなく、あくまでも「センターバック1人+両サイドバック」という点。だからこそ、秋田は気になった。
秋田 3バックの盲点はサイドの後ろのスペースがあくこと。サイドバックとウイングハーフの連係で、問題がすごく多い。例えばブルガリア戦(5月30日)のとき、右サイドバックの吉田選手と右ウイングハーフの内田選手が迷っていた。しかも2回あった。内田が相手MFを見るのか、もう1列前を見るのか。そこは整理しないと。それに、吉田選手が外に流れて、サイドで速いやつと1対1になったらキュンキュンってやられる。高い位置ならいいけど、深い位置で(リバプールFW)スアレス、(RマドリードFW)ベイルと1対1なったら確実にやられる。それなら吉田選手はどっしりと中にいて、相手をつぶすことの方が得策。中山さんならサイドで起点つくりますよね。
ゴン 突いちゃうね。でも、サイドにいったらもう1回ゴール前に行くのに時間がかかっちゃうけどね。
秋田 でもたぶん中に走ってると思いますよ、中山さんなら。もう1回ゴール前に入ってますよ。
ゴン ただ、こまめなラインコントロールをされたらFWは一番嫌だね。
秋田 あと、3-4-3はボランチの運動量がすごく必要。遠藤選手、長谷部選手も運動量多く走ってはいる。けどより守備的で運動量のある選手が1人いてもいいですね。
ゴン 汗かき出来るやつね。今の代表だと…。
秋田 (C大阪MF山口)蛍! 今回ガーナ戦で起用した。監督も気になっているんじゃないでしょうか。
いまだに模索し続ける3-4-3は形が見えてこない。W杯まで残り8カ月しかない。こだわってやるべきなのか、見切るべきなのか?
秋田 ザッケローニ監督がこの3-4-3を戦術的に構築できるなら、やるべき。でもここまでできていないってことは、監督が修正できていないということ。僕はやめた方がいいと思います。だって何回もチャレンジしていますよね? だけどブルガリア戦みたいな後手を踏むなら、4-2-3-1でやるべき。
ゴン 3-4-3は攻撃的というけど、中の攻撃の駒が少なくなるよね。特徴が出なくなると思う。
秋田 それが選手に落ちていないなら、監督の戦術的ミスになってしまいますからね。
<3バックで攻撃力低下>
データでザックジャパンの「3-4-3」を見ると、攻撃的システムのはずが、むしろ攻撃が低下する傾向が見られる。これまで実戦で実行した試合は8試合。しかし1試合通して戦ったのはわずか1試合だけ。合計291分間だった。その間の得点は2点。しかも1点はセットプレーからだった。
ザッケローニ監督が原則としているのは、片方のサイドに迫力を持って崩しきること。早い段階でのサイドチェンジは認められていない。その点で、ザック流の3―4―3の方がサイドに人数をかけて厚みを持たせることができる…はずだった。しかし90分換算でのクロス数は4バック時の18・7本に対して3バック時では17・6本と減少している。シュート数も同じく14・7本が13・9本に微減。ゴール前までの崩しが増えるわけでもない。
象徴的な試合はグアテマラ戦だ。日本は1試合を通して25本のクロスを上げた。だが3-4-3を採用した残りの15分間では0本だった。サイド攻撃強化のはずが、中山、秋田両氏が指摘する守備に加え、攻撃でも効果は発揮できていないのが現状だ。
◆中山と秋田 ともに98、02年W杯メンバーに選出された2人だが、代表の場で当初はすれ違いに選ばれていた。中山は90年初めて国際Aマッチに出場し、94年W杯米国大会出場をかけたアジア最終予選ではスーパーサブとして活躍。「ドーハの悲劇」も経験した。だが翌年にドイツで恥骨炎の手術を受け長期離脱。秋田が95年に代表初出場したときには不在だった。ともに出場したのは97年11月フランスW杯アジア最終予選カザフスタン戦(国立)。予選で苦しむ代表に中山が復帰即ゴール。秋田も決めた。Jでは磐田のストライカーと、鹿島のセンターバックとして両軍の黄金期を支えた2人。名勝負を繰り返し、タイトルを争った。
◆中山雅史(なかやま・まさし)1967年(昭42)9月23日、静岡県志太郡岡部町(現藤枝市)出身。藤枝東―筑波大を経て90年ヤマハ(現磐田)入り。94年Jリーグ昇格以降、個人タイトルは98年MVP、得点王2回(98、00年)。10年札幌移籍。J1通算355試合出場、157得点は歴代最多。国際Aマッチ53試合21得点。W杯は98、02年2大会連続出場。178センチ、72キロ。血液型O。
◆秋田豊(あきた・ゆたか)1970年(昭45)8月6日、名古屋市出身。愛知高、愛知学院大を経て93年鹿島入団。不動のセンターバックとして9タイトル獲得に貢献。04年に名古屋に移籍し07年からは京都で活躍。J1通算391試合出場23得点。98、02年日本代表W杯メンバー入り。国際Aマッチ通算44試合。180センチ、78キロ。血液型B。