http://www.soccer-king.jp/news/youthstudent/20140720/213367.html
カップを掲げる主将のMF前田泰良(鹿島) (C)山口剛生/Agence SHOT
73カ国1600チームが参加する世界最大級の規模感を誇る国際ユース大会、ゴシアカップ。そのB15(15歳以下男子)部門の決勝に臨んだU-14 Jリーグ選抜は、TSVハフェルゼン(ドイツ)を2-2からのPK戦の末に下し、日本勢として初めて頂点に立った。
「本当に夢のような経験ができました」。優勝チームがウィナーバスに乗って市内を凱旋するというゴシアカップ独特の優勝式典を終えたチームのエース、宮代大聖(川崎フロンターレ)は興奮冷めやらぬ様子でそう語った。全員で歌を唱和し、沿道からの歓呼の声に応えるという、まるで欧州でリーグチャンピオンになったかのような気分が味わえる「儀式」は勝利の美酒がいかに美味いかを教え込むかのような、そんな時間となった。
その酒が美味くなったのは、試合展開と決勝独特の緊張感による部分も大きいだろう。荘厳な音楽が流れる中で入場し、試合前には君が代も流れた。嫌でもテンションが上がるシチュエーションだが、「前半はみんなどこかおかしかった」とDF桑原海人(アビスパ福岡)が首をかしげたように、選手たちから平常心が感じられない。「ああいう大観衆の中でプレーするのは初めてで動揺した」とMF菅原由勢(名古屋グランパス)が言えば、「前半はよそ行きのサッカーをしてしまった」と原田武男監督も言う。ボールは圧倒的に支配すれども決定的なシーンは数えるほどという嫌な予感のする試合展開で、案の定FKとミドルシュートで失点。悪い意味で「日本らしい」試合展開で、前半を折り返した。
そしてハーフタイム、日本ベンチにこの遠征で初めての「落雷」が発生する。それまでは穏やかな姿勢で選手に接し続けていた原田監督が厳しい言葉を投げかけたのだ。「こんなものがお前らのサッカーなのか!」。それまでは優しい指導者の顔をしていただけに、「ビックリした」とMF岡崎駿希(京都サンガF.C.)は言う。激しい口調で選手たちを責め立てる様はある種のショック療法として見事に機能した。
後半の立ち上がりからスイッチの入ったJリーグ選抜の選手たちは、横への揺さぶりから縦に速く攻め切る姿勢を打ち出し始める。まずは後半11分、巧みなボールタッチから相手DFの頭上を浮き球で抜き去った宮代が、カバーに入ったDFにも粘り強く競り勝って反撃の1点を返す。さらに後半19分、今度はFW若月太聖(ヴァンフォーレ甲府)のパスを受けた岡崎が左足を一閃。打った本人も驚く強烈なシュートが見事にゴールネットを揺らし、試合は振り出しに戻った。
その後も攻め続けたJリーグ選抜だが、勝ち越し点は奪い切れず。しかし迎えたPK戦では5人全員が冷静に成功。1番手がポストに当てたハフェルゼンを制し、5-3で勝利。見事にカップを勝ち取った。原田監督は「子どもたちは試合をこなしながら成長してくれた」としつつ、「これはあくまで、一つの経験。この経験を個々人がいかに生かして、いろいろなモノへと変換していけるかだと思っている」と総括した。
なお、14歳以下の選手たちが欧州で見せたパフォーマンスにはインパクトがあったようで、試合後にはある欧州名門クラブのスカウトがJリーグ選抜の首脳陣に接触。二人の選手に対して練習参加のオファーを申し出る一幕もあった。遠く日本を離れてチャンピオンになった勝利経験は彼らの財産となるだろうけれども、彼らのサッカー選手としてのキャリアはまさにこれからなのだ。
文・取材/川端暁彦