http://www.sanspo.com/soccer/news/20141028/jpn14102815470003-n1.html
2015年1月のアジアカップ(オーストラリア)前の日本代表シリーズは11月2連戦(14日=ホンジュラス、18日=オーストラリア)のみ。これまで武藤嘉紀(FC東京)や皆川佑介(広島)や坂井達弥(鳥栖)といった年代別代表経験すらない新顔を大胆に選んできたハビエル・アギーレ監督だが、本番前最後のテストの場となる今回は長谷部誠(フランクフルト)や吉田麻也(サウサンプトン)といった実績ある面々を呼び戻してチェックするのではないかと見られている。2014年ブラジル・ワールドカップ(W杯)のコロンビア戦後、「日本代表からの引退を考えている」と揺れる胸中を吐露した内田篤人(シャルケ)の復帰も有力視されるところだ。
彼が本当に代表に区切りをつけるのか否かというのは、新生・日本代表発足時からの注目ポイントだった。だが、初陣となった9月シリーズの時点では、ブラジルで酷使した彼自身の右太ももの状態が芳しくなく、代表招集は不可能だった。それでも9月23日のブンデスリーガ・ブレーメン戦でようやく戦線復帰を果たし、チャンピオンズリーグにも出場するようになったため、10月2連戦(10日=ジャマイカ戦、14日=ブラジル戦)では呼び戻されるのではないかと期待が高まった。だが、10月1日に明らかにされたメンバーリストには内田篤人の名前はなし。「欧州組は10日前に決めてクラブに通知しなければならない」とアギーレ監督は説明しており、内田がコンスタントにプレーできる状態なのかを把握しきれなかったことから、招集を見送ったことを示唆した。
あれから1カ月近い時間が経過し、内田のコンディションは日に日に上がっている。シャルケは10月7日に2012-13シーズン途中から指揮を執っていたイェンス・ケラー監督が成績不振のために解任され、ロベルト・ディ・マッテオ新監督が就任したばかり。そのイタリア人指揮官にも内田は重用され、コンスタントにピッチに立っている。アギーレ監督が選手を選ぶ際に最も重視する「クラブで調子の良い選手」という条件に彼は十分該当しているのだ。内田自身もブラジル大会で惨敗した後「やめるとは言っていない」と繰り返しており、もはや迷いは払しょくしたはず。再び日の丸を背負って戦う覚悟はできているだろう。
実際、今の日本代表サイドバック候補たちの状況を見ても、内田には戻ってきてもらいたい現実がある。9月・10月シリーズでは右サイドバックに酒井宏樹(ハノーバー)と酒井高徳(シュツットガルト)が起用されたが、酒井宏樹はウルグアイ戦(札幌)で失点に直接絡む致命的なミスをして、10月2連戦では外されてしまった。最近はケガもあって25日のドルトムント戦を欠場している。高徳の方もブラジル戦(シンガポール)でネイマール(バルセロナ)を止め切れずに先制点を献上してしまうなど、守備面での脆さを垣間見せた。本人も「守りの方は篤人君の方が上」とコメントしているだけに、守備を安定させようと思うなら、どうしても内田が必要なのだ。
加えて言うと、内田とともに岡田武史、アルベルト・ザッケローニ両監督体制で貢献してきた長友佑都(インテルミラノ)がこのところ精彩を欠いている。ジャマイカ戦(新潟)でも信じられないバックパスから相手にゴールを与えてしまいそうな場面を見せるなど、どうも彼らしくないパフォーマンスが目についた。それも、今季インテルミラノで不慣れな右サイドに起用されていることで戸惑いが生じ、試合にコンスタントに出られなくなっているのが原因だろう。長友は、ピッチ上でタフに戦い続けることで右肩上がりの成長を遂げてきた。その勢いがなくなっているのは大いに気がかりな点だ。そういう不安材料もあって、国際経験豊富な内田に戻ってきてほしいとアギーレ監督も日本サッカー協会の強化スタッフも強く望んでいるに違いない。
内田が日本代表の右サイドバックに復帰すれば、吉田らセンターバック陣との連携もスムーズになるだろうし、右FWに入る本田圭佑(ACミラン)と生かし生かされる関係を構築することも可能なはずだ。2008年1月のチリ戦(東京)で国際Aマッチデビューを果たして以来、内田は中村俊輔(横浜FM)、松井大輔(磐田)、岡崎慎司(マインツ)、清武弘嗣(ハノーバー)といった個性豊かなアタッカーの特徴を自分なりに把握し、彼らの良さを出すような努力を惜しまなかった。
そういうインテリジェンスと的確な判断力があるから、内田はシャルケでも移籍当初から重用されてきた。ブラジルW杯でも勇敢に戦ったそのハイレベルな経験を駆使し、アギーレジャパンの流れを前向きな方向へと導いてくれることを期待したい。(Goal.com)
文/元川悦子
1967年長野県松本市生まれ。94年からサッカー取材に携わる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は練習にせっせと通い、アウェー戦も全て現地取材している。近著に「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由」(カンゼン刊)がある。