ACLも見据えた補強
フットボールチャンネルでは、Jリーグ開幕に向けて、Jクラブの補強動向を診断していく。今季の目標に向けて、効果的な補強を行うことができたクラブはどこなのか。今回は6年ぶりのリーグ奪還を目指す鹿島アントラーズを取り上げる。
最終節まで優勝争いを演じ、最終的に3位でフィニッシュした鹿島アントラーズ。今シーズンは、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)にも出場するため、即戦力を補強。現在のチームの輪郭を色濃く残しつつ、新たなピースを組み込んだ。国内はもとより、アジアのタイトルも貪欲に狙っていく。そんな姿勢が見られるオフシーズンだった。
期待されてきた若手が期待通りの活躍を見せた昨季
昨シーズンの開幕前、鹿島の評価は決して高くなかった。有望な若手がひしめき、未来への期待は大きかったが、インパクトを残すにはまだ時間がかかる。そのように見られていたのだが、蓋を開けてみればその若い選手たちが目覚しい活躍を披露。優勝を逃したことは課題だが、“ヤング鹿島”はリーグの中で眩い光を放った。
特に柴崎岳、昌子源、土居聖真という92年組の3人はJ1全試合に出場した。それぞれボランチ、センターバック、トップ下とセンターラインでプレーし、鹿島の躍進の原動力となった。小笠原満男ら黄金世代の後を引き継ぐべき彼らが独り立ちしたことは、クラブの未来にとっても有益と言える。
他にもルーキーのカイオは8得点を記録するという嬉しいサプライズをもたらし、2年目の植田直通はCBの一角を担った。今年1月に行われたアジアカップでは、追加登録ながらメンバーに選ばれている。
トニーニョ・セレーゾ監督は、たとえ若手であっても積極的に起用する。ダヴィが負傷離脱した後、本職のCFは赤崎秀平しかいなくなってしまった。大卒1年目であり、ダヴィに比べるとまだ心許ないが、ピッチに立ち続けることでシーズン終盤にはコンスタントにゴールを決めている。指揮官への恩返しとなったはずだ。
そして、中堅・ベテランのパフォーマンスも高かった。手薄とみられていた左サイドバックにはこの年に加入した山本脩斗が定着し、優勝争いを演じたチームの立役者といっても差し支えない活躍を見せた。遠藤康も自身初となるシーズン10得点を記録するなど、攻撃を牽引。充実ぶりを伺わせた。
小笠原は試合途中で交代する機会が増えたが、それでもピッチで見せる闘志剥き出しのプレーは味方の道標となり、ゲームメイクも衰えていない。曽ヶ端準は今シーズンもリーグ戦全試合フル出場を果たし、チームを最後尾から盛り立てた。
そんな中で中田浩二の引退は鹿島にとって大きな出来事だろう。出場機会は減ったが、若手に与える影響力は絶大で、最終節のサガン鳥栖戦で敗れた後、中田を勝利で送り出せなかったことを皆が悔やんでいた。今シーズン、中田の意志を継いだ選手たちがどのような戦いを見せるかは、ひとつの注目点だ。
前線と最終ラインに厚みをもたらす高崎とファン。金崎は熾烈な2列目の争いに
今シーズンはACLに出場するため、例年以上にチームの総合力が重要になる。新加入選手たちに求められることも多くなるが、厳しい戦いに備えて鹿島は補強を進めた。
最前線には徳島ヴォルティスから高崎寛之を獲得。最下位でJ2に降格した徳島で30試合7得点を記録している。ダヴィや赤崎とはタイプの異なる選手だけに、周囲との連携を深めれば大きな武器になりそうだ。
ブラジル人FWのジネイの獲得を発表したが、その後のメディカルチェックに引っかかり白紙に戻った。ダヴィも左膝の負傷から復帰するには時間がかかる。その分、高崎にかかる期待は増しているが、プレシーズンマッチでも得点を奪っている。赤崎にしても今シーズンに懸ける思いは強いだろう。
最終ラインにはファン・ソッコを加えた。クラブ史上3人目の韓国人選手はSBもCBもこなせる守備の専門家。ACLでは激しい闘いが繰り広げられるが、そのマルチロールぶりはチームの助けになる。
そして、ポルトガルでプレーしていた金崎夢生もレンタルで獲得。以前にも鹿島が獲得を目指したことのあるアタッカーは、最も熾烈な2列目のスタメン争いに加わる。元々あった高い能力に海外の経験が加わった金崎にも注目だ。
鈴木隆雅がJ2栃木での武者修行から復帰。大阪桐蔭高校から加入した久保田和音は、年代別日本代表候補にも選ばれており、正確なパスに加えゴール前へ走り込んでいくこともできる。ボランチには小笠原、柴崎という“最高のお手本”がおり、成長が期待される。
ユースからは大橋尚志と鈴木優磨が昇格を果たした。大橋は豊富な運動量でピッチを駆け続けることができる。Jユースカップを10大会ぶりに制したチームを支えた。鈴木はユースのタイトル獲得に貢献したストライカーで、ボックス内で勝負強さを発揮する。タイプの違うFW陣の中に割って入ることができるだろうか。
補強面と総合力それぞれの診断結果
補強診断 B-
即戦力2人には大きな期待がかかる
今季も1トップを採用するにしてもセンターFWの枚数は少ないか。シーズン中に負傷離脱する可能性もあるだけに、ピッチ内で最大限力を発揮するだけでなく日ごろのケアも怠ってはいけない。ファンはバックアップ以上の能力を持っており、各ポジションでのレギュラー争いを活性化させる存在になりそうだ。
総合力診断 A-
シーズン中に大化けする可能性も。取りこぼしは要注意
チームの未来を担う若手が覚醒し始め、今シーズンも更なる成長が期待できる。また、去年は自信を掴んだ一方で、3位に終わった悔しさも同時に感じているはず。伸び盛りのチームだけにシーズン中に更なる進化も期待でき、またそれが求められる。
昨季は大方の予想を大きく上回る結果を手にしたが、優勝を義務付けられるクラブだけに3位では誰も納得できない。最終節の後、鈴木満常務取締役強化部長はこんなことを話している。
「このシチュエーションで負けちゃいけない。これで勝って終わっていたら本当に力になるんだから」
タイトル獲得にはまだ何かが足りなかった。今年はそれを探すシーズンとなる。セレーゾ体制3年目、鹿島の本当の力が問われる。