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2015年12月17日木曜日
◆高円宮杯で未来のA代表CB発見! 優勝の鹿島ユース、町田浩樹への期待。(Number Web)
http://number.bunshun.jp/articles/-/824746
高さがあって、左利きのCB。
今、日本のどのクラブも欲しがっている存在だ。近代サッカーにおいて、CBに求められる要素は多岐にわたる。フィジカルの強さや、空中戦で相手を凌駕できる高さとバネはもちろんのこと、高いDFラインをカバーする瞬間的な判断力、スプリント力や、攻撃を組み立てるビルドアップ能力、そして正確なフィードや縦パス……。
ただ守れればいいという考えはもはや通用しない。中盤の攻勢から、全体攻撃のスイッチを入れる役割まで、幅広くこなさないといけない。
ところが日本サッカー界では、CBというポジションで、すべてを兼ね備えた大型選手がなかなか出てこない。そもそも、ボランチがCBに転向するケースが多いという事実もある。日本代表において、今野泰幸、吉田麻也、森重真人がCBをこなしているが、3人とも本職はボランチだ。今野は東北高校時代、トップ下とボランチをこなし、吉田は名古屋U18時代にシャドーの一角とボランチを、森重は広島皆実高校時代はボランチとしてプレーしていた。全員がプロになってからのコンバート組なのだ。
ゆえに……近年の日本には「生粋のCB」がいない。さらに冒頭で述べたように、大型で左利きという条件がつくと尚更いない。
左利きのCBが求められるのはなぜか。
では、なぜ左利きがいいのか?
それはビルドアップや攻撃のスイッチを入れるパスを出すとき、右利きのCBが左CBとしてプレーをすると、ボールを持ち出して右サイドに大きな展開を入れるときに、余計なボールタッチとステップが必要になり、ワンテンポ、ツーテンポ遅れてしまうからだ。
このワンテンポ、ツーテンポの誤差が、レベルが上がれば上がるほど、チャンスやスペースを一瞬にしてふいにしてしまう原因になる。右に右利きのCB、左に左利きのCBを置くことで、ビルドアップやミドルパスやロングパスの精度は格段に上がる。ゆえに左利きのCBは重宝されるのだ。
大型の、生粋の、左利きのCB――これをすべて兼ね備えているのが、鹿島アントラーズユースの町田浩樹だ。
188cmの高さを持ち、空中戦の強さとラインコントロール、左足のフィードを得意とするCBだ。
CBという「天職」。
「中学1年生のときにCBを任せられるようになって、そこからずっとCBをやっています。個人的にはCBと言うポジションが大好きで、『守備の要』だし、責任が凄く重い。そこにやりがいを感じますし、相手FWとの駆け引きが凄く楽しいんです」
小4で鹿島アントラーズつくばジュニアユースに入り、左利きということもあって左MFでプレーしていた。中学入学時、クラブが主導となって選手それぞれの成長予測(身長が何センチまで伸びるかなど)をする骨の検査を行うと、町田少年は「185~186cm」という数値を叩き出した。彼の父親の身長が191cmあるということもあり、将来的なことを考えて、鹿島アントラーズつくばジュニアユース昇格と同時に、CBにコンバートされたのであった。
中学の3年間でCBというポジションの楽しみをすぐに見つけ出し、「天職」として成長を欲し始めた。鹿島ユースに昇格すると、1年目にして早くも頭角を現し始め、着々とCBとしてのキャリアを積んでいった。その過程で、鹿島だからこその環境が彼に大きな刺激を与えたことは間違いない。
鹿島ユースはトップチームと同じクラブハウスを利用し、練習もすぐ隣りのグラウンドで行っている。ゆえに交流も深く、トップチームの練習や紅白戦にすぐに参加できるなど、恵まれた環境にあるのだ。
中田浩二、小笠原満男の大きなアドバイス。
町田はその環境の恩恵を大きく受けたと言える。トップチームの練習に参加すると、中田浩二(現クラブ・リレーションズ・オフィサー、サッカー解説者)や小笠原満男に価値観を変えるようなアドバイスを何度ももらったという。
「自分の中でCBは『相手を止めること』、『空中戦で勝つこと』、『攻撃の起点になること』だけが重要だと思っていた。でも、もう1つ重要なことがあることを教えられたんです」
あるとき、中田からラインコントロールについて指摘を受けた。「ただラインを揃えてオフサイドに掛けるだけでなく、相手にプレッシャーをかけたり、スライドしながらスペースを消すなど、ただ周りを操るだけでなく、相手との駆け引きをしながらやるように」と指摘を受けたのだ。
なかでも彼の中で一番大きく影響を受けたのが、小笠原のアドバイスだった。今年2月、トップチームの宮崎キャンプに帯同した彼は、Jクラブとの試合にCBとして出場。動き出した敵FWにパスが出た瞬間、町田は「奪える」と判断し、猛ダッシュをかけたが次の瞬間、ワンタッチで入れ替わられ、ピンチを招いてしまったのだ。
「そこは奪いに行くんじゃない。コースを切るところだ」と小笠原に一喝された。試合後、話を聞きに行くと「CBの仕事はボールを奪うことだけじゃない。相手の流れを切ることも重要な仕事なんだ」とアドバイスを受けたという。この言葉を聞いた瞬間、これまでの自分の考え方が間違っていたことに気がついた。
リーグ最少失点を実現した「気づき」。
「僕はCBとして、インターセプトをするとか、ラインを統率する、良いパスを通すとか、『綺麗なプレー』ばかりしようとしていました。そうじゃなくて、切るところは切る、ボールに行くところは行くと、メリハリをつけないといけない。中田さんのアドバイスもそうですが、『綺麗なプレー』というより、もっと『賢いプレー』をしていかないといけないことに気付いた」
この「気付き」は少年を大人にした。
CBにとって大事なのは、格好ではなく、相手にとって嫌なことを常にすること――。
相手との駆け引きで上回り、時には華麗に、時には激しく、時には泥臭くプレーをしないといけない。自分の考えとプレーに整理が付いた町田は、更なる成長を遂げた。
鹿島ユースとしてプレーしている今季のプレミアリーグイーストでは、鉄壁の守備の中心にいた。カウンターのときには一気にラインを押し上げ、ここは我慢という場面ではラインを下げて強固なブロックを構築。CBとして相手に傾きかけた流れを切る守備を見せ、個としても、精度の高い左足のキックでカウンターの起点として十二分に機能した。逞しく成長したCBに牽引されたチームは、18試合でリーグ最少の12失点で、初優勝を勝ち取るに至る。
G大阪の攻撃と鹿島の堅守の勝負。
そして、ウェストの王者・G大阪ユースとの間で行われた、高円宮杯U-18サッカーリーグ2015チャンピオンシップ。
ユース世代の真の日本一を決めるこの一戦。G大阪ユースはFW高木彰人、MF堂安律、市丸瑞希というトップ昇格メンバーを軸に、攻撃的なサッカーを展開するチームなだけに、町田が中心となって構築する堅守との攻防は、最大の注目ポイントだった。
試合が始まると、町田の動きが重いのがすぐに分かった。「何かがおかしい」と思いながら、試合を見ていると、ボールに対する出足が明らかに遅い。ベンチの熊谷浩二監督もすぐに異常を感じ取ったようで、アンカーの千葉健太を呼んですぐに対応策を施していた。
「試合前のミーティングで、アンカーの千葉には、ラインを高くしてDFラインに吸収されないように指示をしたが、町田のコンディションが良くなく、相手の2列目に飛び出されてしまっていたので、千葉に町田のカバーを指示しました」(熊谷監督)
試合後、町田本人に話を聞くと「体調を崩してしまいました……。もっと出来ると思ったのですが、難しい面もありました」と、発熱によりコンディションが万全ではなかったことを告白した。
結局、試合中に町田のコンディションが悪いことに気付いてから、その観察ポイントを「コンディションが悪い中で、どんなプレーの工夫が出来るか?」を見極めることに変えた。
将来、日本を代表するCBになれるように。
コンディションが悪い中でも成長の跡が伺えたポイント……それが「流れを切るプレー」だった。
いつもの鋭い出足でボールを奪うプレーができないと判断し、下がってくる千葉とのコミュニケーションを密にし、後ろが重くならないようラインコントロールする。積極的に空中で競り合い、ルーズボールやセカンドボールでは、はっきりとしたクリアをする。自分のプレーで味方がもたつかないように、はっきりとしたプレーを心がけ、敵の攻撃リズムを次々と分断していったのだ。
1-0のまま試合終盤に入ると、彼の集中力がより研ぎ澄まされていくのが分かった。徐々に出足が鋭くなり、85分を過ぎた頃にG大阪ユースの猛攻を受けるようになると、ボールに対する鋭いプレスをかけ始めた。90分には中央をドリブルで侵入して来た選手に対し、一気に間合いを詰め、そのまま左サイドまで追いやってバックパスを選択させた。クロスに対してもほとんど競り負けること無かった完封勝利。優勝に大きく貢献した。この試合、G大阪ユースは5本のシュートしか打てず、枠内シュートはゼロだった。
「コンディションが悪いからこそ、シンプルにやろうと思った。周りも助けてくれたし、ラインコントロールとクリアだけは、自分が中心となってやろうと思った。気持ちも弱気になるのではなく、強気な気持ちを持って、頭は冷静にしてやることを意識しました」
中田と小笠原の「教え」をきっちりと自分のものにし、高校最後の試合で逞しさを見せた町田。
「大型の、生粋の、左利きのCB」は、鹿島という素晴らしい環境でスクスクと育っているんだな、と感じた――将来、日本を代表するCBになれるように、だ。
町田は来年には鹿島のトップチームの一員となり、小笠原、昌子源、植田直通ら周りの教えを受けながら着実に成長していくはずだ。そして、いつの日か日本サッカー界全体で重宝される存在となってくれるに違いない。