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2016年7月26日火曜日
◆「穴を埋める」ではなく、自分の色を。 主力不在の鹿島と浦和で輝く選手達。(Number)
http://number.bunshun.jp/articles/-/826119
穴を埋める。という言葉が、嫌いだ。
サッカーの世界では、主力選手が移籍したり、ケガをしたり、代表に招集されて、新たな選手が抜擢されるときに、この言葉がよく使われる。チーム力のマイナスをどれだけ抑えられるか、というニュアンスで。
でも、それではあまりにも志が低いんじゃないの? と、感じてしまう。たとえ普段、出場機会に恵まれていない選手でも、彼らはれっきとした「プロ」だ。主力選手がいないのは、むしろチャンス。代役として「穴を埋める」のではなく、「穴に居座って、コンクリートでガチガチに固めてやる」くらいの気持ちでいるべきなんじゃないの、と。
例えば鹿島アントラーズの中村充孝の考え方は、こうだ。今季の彼は、ファーストステージ開幕からカイオと左サイドハーフのレギュラーを争ってきた。ところが7月初旬、カイオのアルアイン(UAE)移籍が決まった。
「俺も、穴を埋めるって表現は好きじゃないですね。もちろんカイオは素晴らしい選手です。俺よりもカイオのほうが良いと思う人はいるだろうし、どちらを試合に使うかは、監督が決めること。ただ、俺自身は『カイオにも負けていない。俺のほうが勝っている』と思いながら常に準備してきたし、試合に使ってもらえるようになってからは、それを証明することに集中していた」
セカンドステージ開幕から先発出場を続ける彼は、第2節サンフレッチェ広島戦から3試合連続ゴールを記録。カイオのいなくなった左サイドを、見事に自分の居場所にした。
“穴だらけ”になるはずだった鹿島対浦和。
主力不在のポジションを「穴」と表現するならば、7月23日のセカンドステージ第5節、鹿島対浦和レッズは“穴だらけ”の試合だった。どちらのチームも、主力選手がリオ五輪代表チームに招集されたからだ。鹿島からはDF植田直通とGK櫛引政敏が、浦和からはFW興梠慎三とDF遠藤航がブラジルへと旅立った。
彼らがいないことが「穴」となるのか、むしろチームの総合力を上げるための「チャンス」とするのか。これが、鹿島と浦和の「伝統の一戦」を観る上での重要なポイントだった。
前半、鹿島のファン・ソッコがズラタンを抑える。
前半、五輪組不在の影響を全く感じさせなかったのは、鹿島だ。
「前半の守備に関しては、非常に良かったと思います。自分たちからプレッシャーに行く形で、レッズさんがいつもの状態じゃないと感じていたので。プレッシャーの掛け方は非常に良かったんじゃないかと思います」
石井正忠監督が語ったとおり、浦和のビルドアップに対して高い位置から激しくプレッシャーをかけ、パスワークを寸断する。興梠のいない浦和の1トップに入ったズラタンへの縦パスに対しては、植田に代わって出場したファン・ソッコが厳しく体を寄せてポストプレーを許さない。この力強さは植田に負けず劣らず。左右両足からの正確なビルドアップでも貢献した。
後半に入っても鹿島の勢いは止まらず。60分には山本脩斗のクロスを土居聖真が右足で合わせて先制に成功した。
李忠成「慎三とは違う形でそれ以上のプレーをしたい」
ところが、ここから状況は一変する。流れを変えたのは、後半開始から浦和の1トップに入っていた李忠成だ。
62分、右サイドのスペースに走り込んだ柏木陽介のクロスに対して、ファン・ソッコのマークを外した李が右足で合わせて同点に持ち込むと、73分にはカウンターから武藤雄樹のシュートをGK曽ヶ端準がキャッチミスしたところを見逃さず、素早く押し込んでゲームをひっくり返した。
「今季はコンディションも良かったので、1トップをやってみたいと思っていた。慎三がいなくなって、代役としてではなく、慎三とは違う形でそれ以上のプレーをしたい」
李ともう1人、興梠と遠藤のいない浦和に、プラスアルファをもたらしたのが57分からボランチに入った青木拓矢だ。彼は前半から圧倒されていたセカンドボール争いで孤軍奮闘し、73分のゴールシーンでは、自陣深くからうまく小笠原満男の前に体を入れてボールを運び、武藤へ正確なパスを通している。
「ベンチから見ていても、鹿島の選手はすべてにおいて出足が速くて、セカンドボールを拾って2次攻撃、3次攻撃につなげてくる。そこで自分が出たときは、セカンドボールを取ることを意識していた。最近はコンディションも良くて、ようやく自分らしいプレーが出せるようになってきた。それも、天野賢一コーチが居残り練習に付き合ってくれて、良いトレーニングメニューを組んでくれたおかげです。今、僕が意識しているのは続けること。五輪組がいないことは、考えていない。試合に使われる、使われないじゃなくて、とにかく続けることを考えています」
「穴だらけ」どころか見どころ満載の好ゲーム。
1トップに李、柏木を2シャドーの一角に上げ、ボランチに青木を置く形にしたことで、中盤の守備力とフィジカルの強度が高まった。これは今後の五輪期間中も、貴重な戦略となる。そしてなにより、五輪組に代わって出場した浦和の選手たちが「穴を埋める」とは考えていなかったことが、2-1の勝利以上に大きなこの日の収穫だろう。それは、遠藤のいない3バックの真ん中に入った那須大亮の言葉が象徴している。
「誰かの代わりということじゃなくて、選手はそれぞれ色が違う。試合に出た選手は、その色を出せばいいし、色が出せれば、チーム力が下がるようなことはない」
鹿島の中村やファン・ソッコも含めて、各選手が「色」を出しながら積極的にプレーする。3万249人の声援に後押しされるように、互いが意地と意地をぶつけ合った90分間は、「穴だらけ」どころか見どころ満載の好ゲームになった。