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2017年5月30日火曜日
◆Jリーグ鹿島の番記者を直撃。勝ちにこだわるサッカーが「世界一になる日」(週プレNEWS)
鹿島アントラーズあるところに、この男あり。サッカー専門紙『エル・ゴラッソ』で鹿島の番記者を務める男・田中滋は10年間練習場に通い続け、ACL(アジアチヤンピオンズリーグ)で鹿島が海外勢と戦えばアウェー遠征に同行する。
2009年には『常勝ファミリー・鹿島の流儀』でクラブ哲学を世に流布させ、選手、スタッフ、サポーターから「ゲルさん」の愛称で親しまれる男は「世界一に迫った日」に何を思ったか。
柳沢敦を心の師と仰ぎ、少年時代から「モレリアII」を愛用する鹿島サポーターの週プレ編集・オギワラが、『世界一に迫った日 鹿島アントラーズ クラブW杯激闘録』を上梓した田中氏を直撃した!
* * *
―鹿島アントラーズの番記者生活10年目を迎える田中さんにとって、Jリーグ下剋上優勝、クラブW杯準優勝、天皇杯優勝を成し遂げた昨季終盤の1ヵ月はどう感じましたか?
田中 08年からほぼ毎週、鹿島に通っていますが、チームが強くなる瞬間を初めて見た気がしました。最初に見たときはJリーグ3連覇中(07~09年)の強い鹿島でしたから。
それからチームは試行錯誤しながら世代交代を目指し、浮き沈みを繰り返してきた。カップ戦は何度か優勝していますが、リーグは獲れていなかった。クラブW杯での大健闘もあり、番記者冥利(みょうり)に尽きるシーズンでした。
―レアル・マドリードに善戦し、鹿島は世界中のサッカーファンから注目を集めましたよね。
田中 いろんな人から「日本が世界で勝つためには、ああいうサッカーをすべきだよね」と言われました。「鹿島がやっていることを日本代表でもやるべきだ」と。自分も長年そういう思いで取材を続けてきたので、実際に世界最強チームであるレアル相手にその実力を示せたのは感慨深かったですね。
結束力を高めて守りつつゴールを狙い、戦う姿勢を見せていく。みんなで助け合って勝ちにこだわることが、世界と戦うためには必要だと証明されたわけですから。
―鹿島のサッカーが、日の目を見たような思いです!
田中 日本ではどうしても「攻撃的なサッカー=おもしろいサッカー」と認識されがちですが、鹿島がクラブW杯で大健闘したことでその風向きも変わってきたと思います。今のJリーグを見ていても、鹿島だけ違う土俵で戦っているような気がすごくする。おこがましいですが、鹿島はこれだけ勝っているんだから、ほかのチームはもっとマネをするべきだと思うんですよ。
―でも、マネするチームは見当たりませんよね?
田中 正確にはマネできないのかもしれません。ひとつ決定的な理由を挙げるとすれば、ほかのチームには小笠原満男がいないからでしょうね。チームとしてうまくいかない時期って、選手はみんな不安になるんです。そんなときに小笠原選手が「これでいいんだ!」と言うだけで圧倒的な説得力がある。
満男と同期の曽ヶ端選手もそう。彼らはただのベテランじゃなく、これまでに鹿島で16冠を獲得してきたレジェンド。歴史の生き証人たちが現役プレーヤーとして、若手にクラブ哲学を直伝できるのが鹿島の強さの秘訣です。そういう環境に身を置くことで、若手はおのずと「鹿島の選手」になっていきます。
―番記者として10年クラブに密着していれば、選手の成長も目の当たりにしますよね。
田中 遠藤選手とかはどんどん言うことが小笠原満男と一緒になってきているんですよ。「鹿島=小笠原満男」みたいなところがあるので「鹿島ってこういうクラブなんだよ」っていうのを態度でも言葉でも示せる小笠原満男の“直系”の選手が出てくるのは、ホッとするというか安心するというか感慨深いものがある。
内田篤人選手(シャルケ04)も早い段階から「鹿島の選手」になっていましたね。彼は「わかっている選手」だから、いつかドイツから戻ってきて鹿島のキャプテンマークを巻いてほしいです。
―「わかっている選手」?
田中 長年、取材をしていて気づいたんですが、選手のコメントって3段階くらいあるんです。最初は自分のことしか語れません。でも少し成長してくると、自分がどう動いたらチームが勝てるかを考えた発言が増えてくる。そして最終的に、チームがどう機能したら勝てるようになるかを考えた言動を見せるようになる。遠藤選手なんかはもう3段階目ですよね。「わかっている選手」がどれだけいるかが、強さにつながっていくんです。
3連覇したときはそういう選手しかいませんでした。(大岩)剛(ごう)さん、満男さん、ソガさん、本さん(本山雅志)、新井場さん(徹)、中田さん(浩二)、岩政くん(大樹)、篤人くん、青木(剛[たけし])くん。そりゃ強いはずですよ。今のチームもあの1ヵ月を経て、「わかっている選手」は確実に増えています。
―鹿島はACLグループリーグを首位で突破し、広州恒大(中国)とホーム&アウェーの2連戦(23日・広州天河体育中心、30日・カシマスタジアム)を迎えます。しかし、ACLでの過去最高成績はベスト8。クラブW杯では善戦しましたが、アジアの戦いは未知数ですよね?
田中 クラブW杯より大変だと思います。相手は鹿島対策を立てて挑んでくるはずです。クラブW杯のとき以上にチームが成長しなければACLは勝ち抜けません。でもレアルとあれだけやれたという経験が自信になっている。登山にたとえれば、エベレストに登ったってのと一緒。今までだったらリードされて諦めてた試合も、最後まで希望を持って戦えるようになったと土居選手も言っていました。
―今年こそ、『世界一になった日』を書いてほしいです!
田中 タイトルがかかった試合で120%、150%の力を出せるのが鹿島アントラーズ。それを一戦必勝でやれるかどうかですね。
―最後に、鹿島を10年取材し続けて、何かご自身に変化はありますか?
田中 どうですかね…。勝ちにこだわり、練習から一切手を抜かない鹿島の選手を毎日見てるからかわかりませんけど、他人に対する要求が厳しくなったかもしれませんね。
例えば、奥さんや子供に対して、細かいことでついつい厳しく注意してしまい、後で怒られます。家に小笠原満男みたいなのがいたら面倒くさいですよね…。まあ鹿島のせいにしてるだけで、元々の自分の性格なのかもしれないですけど(笑)。
●田中 滋(たなか・しげる)
1975年生まれ、東京都出身。上智大学文学部哲学科卒。2008年よりサッカー新聞『エル・ゴラッソ』の鹿島アントラーズ担当記者として取材を続ける。09年に初の著作となる『常勝ファミリー・鹿島の流儀』(出版芸術社)を上梓。自身のWEBマガジン『GELマガpowered byEl Golazo』を責任発行
■『世界一に迫った日 鹿島アントラーズ クラブW杯激闘録』(スクワッド 1600円+税)
鹿島アントラーズは昨年、年間勝ち点3位からチャンピオンシップを勝ち上がり、奇跡の下剋上でJリーグ優勝を成し遂げた。そのわずか2週間後には「クラブ世界一」をかけてレアル・マドリードと死闘を繰り広げ、世界中のサッカーファンの度肝を抜いた。鹿島の番記者として10年クラブに密着取材を続けてきた田中滋氏が「あの日」の舞台裏を徹底取材。どんな相手でも勝ちにいく、鹿島の伝統「ジーコスピリット」の神髄を凝縮した一冊
http://wpb.shueisha.co.jp/2017/05/29/85374/