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2017年9月23日土曜日
◆結局、鹿島と何が違うのだろうか。 浦和の「勝負強さ」問題はまだ続く。(Number)
どんなトレーニングでも妥協せず、厳しく取り組む姿勢が、目に見える結果になって表れたとき、人はそれを「勝負強さ」と呼ぶのかもしれない。
天皇杯ラウンド16は、浦和レッズ対鹿島アントラーズという昨季のチャンピオンシップ決勝と同じ顔合わせになった。
埼玉県熊谷市で行われたゲームは、金崎夢生の2ゴールで鹿島が先行し、浦和がズラタン、武藤雄樹のゴールで追いついたものの、中村充孝と土居聖真のゴールで突き放した鹿島が4-2で勝利し、連覇に向けてひとつコマを進めた。
2点のアドバンテージを守り切れなかったのは鹿島らしくなかったが、浦和に傾いた試合の流れをすぐに断ち切り、勝ち越したあたりはさすがだった。
「2-2になったあとの、要所の集中力が……」
浦和の同点ゴールから5分後の74分、浦和陣内で鹿島がスローインを獲得する。伊東幸敏が投げ入れたボールをレオ・シルバがワンタッチで落とし、土居がワンタッチでゴール正面にパスを入れると、フリーになっていた中村充孝がこれまたワンタッチでゴール左隅に蹴り込んだ。
「練習でもスローインの受け方はやっていた」と明かしたのは、この日4ゴールすべてに絡んだ土居である。スローインから、わずか4秒――。狙いどおりの形で鹿島は決勝ゴールをもぎ取ったのだった。
浦和からすれば、終了間際に奪われたダメ押し点もさることながら、追いついた直後に、スローインからあっと言う間に取られた決勝ゴールのダメージは、大きかった。
「2-2になったあとの、要所の集中力というか、鹿島のほうが試合運びに関してうまいと感じましたね……」
そう振り返ったのは、堀孝史体制になってから出場機会を増やしている矢島慎也だ。この日は58分から出場して流れを変え、2点を追いついた場面も突き放された場面もピッチで迎えただけに、思い知らされたものが多いようだった。
「今の浦和は、サッカー的にはどんな相手にもやれていると思うんですけど、セットプレーでの失点が多い。この前の磐田戦もセットプレーでやられているし……。細かいところのマークの受け渡しとか、マークの浮きとか、突き詰めていかないと。そういうのは、練習の一つひとつから始まると思うし……。鹿島がどういう練習をしているのか分からないですけど、僕は岩政大樹さんとやっていたので――」
小笠原の危機感が、チームの雰囲気を締めるのか。
この2年間、矢島は試合経験を積むためにファジアーノ岡山に期限付き移籍していた。そこで目にしたのが、鹿島のOBである岩政のセットプレーの練習ひとつとっても妥協せず、細かく、厳しい姿勢だったという。
「大樹さんの姿を見てきただけに、鹿島もピリピリとした雰囲気の中でやっているのかなって。それは今の浦和にはないもので、セットプレーの練習にしても、ふわっとした感じで終わってしまう。結果論ですけど、こういう試合で鹿島はちゃんと勝つし、浦和は最近鹿島に競り負けているイメージがあるので、やっぱり細かいところから、熱量を持ってしっかりやっていかないといけないと思いましたね」
セットプレーやスローインのマークの仕方など、子どもの頃から何十年もやってきたわけで、それをどこまで細かく、厳しく、突き詰められるか。
先日、鹿島のキャプテンである小笠原満男からこんな話を聞いた。
「20代の頃はダッシュをサボっても、疲れているんだろうって思われたけど、今は少しでも手を抜けば、終わりが近いなっていう見方をされる。だから、今はそれを見せない戦いだし、引退のプレッシャーとの戦い。走れない、勝てないなら、俺がいる意味はないですからね」
チーム最年長の38歳がこの危機感、このテンションで日々のトレーニングに臨んでいるのだから、鹿島のトレーニングの雰囲気は推して知るべしだろう。
土居「叩いてやろうと思いました」
ちなみに鹿島の選手たちは、この日の浦和のメンバーを試合前のミーティング中に知った。そこには柏木陽介の名前も、ラファエル・シルバの名前もなく、最も警戒すべき興梠慎三の名前も、ベンチメンバーの中にあった。
そこで大岩剛監督は「舐められていると捉えてもおかしくないメンバーだ」と熱弁して、選手の心を焚き付けた。
むろん、浦和が舐めたなんてことはなく、負傷やコンディションの問題でメンバーを入れ替えたわけだが、鹿島からすれば、レギュラーメンバーではないという事実がすべてだった。土居が言う。
「前線の選手が予想とだいぶ違った。僕らがこの一戦に懸けていた想いは強かったですし、剛さんからも熱い言葉というか、『こういうメンバーで来ているぞ』って言われて、高まっていた気持ちがさらに高まったというか、叩いてやろうと思いました」
鹿島の勝利をもぎ取る力を語るうえで、こうした大岩監督のモチベーターとしての手腕も見逃せない。
勝負を分ける神は、日々の細かな意識にこそ宿る。
かつて鹿島の一員として数々のタイトル獲得に貢献した興梠は「それ(鹿島の勝負強さ)は感じたし、その半面、(自分たちの)勝負弱さも感じた。それに尽きます」と振り返った。
鹿島にとっては、2点のリードを守れなかったわけだから、反省点の多い試合だったに違いない。だが、悪くても勝ち切れる強さが、常勝クラブのゆえんでもある。
「浦和が嫌がるところを突けたのはいいことだと思うし、これからも相手の嫌がるプレーを続けたいと思います」と土居は自身に言い聞かせるように、言った。
「勝負の神は、細部に宿る」というのは、日本代表を二度率いた岡田武史監督が好んで使うフレーズだったが、まさに鹿島の勝負強さも、細部を疎かにしない日頃の姿勢によって築き上げられたものなのだろう。
勝負強さと勝負弱さを分けるもの――。それは、戦力の差でも、戦術の違いでもなく、日々の意識、日常のトレーニングに潜んでいる。
結局、鹿島と何が違うのだろうか。浦和の「勝負強さ」問題はまだ続く。