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2017年11月8日水曜日
◆ゴールの余韻に浸ることなく…。 「試合を閉じた」アントラーズの強さ(Sportiva)
鹿島アントラーズの強さを垣間見たのは、得点直後だった。
11月5日、浦和レッズがAFCチャンピオンズリーグ決勝に進出した関係で、他のカードに先立って「鹿島vs.浦和」のJ1第32節は行なわれた。
勝てばJ1連覇を大きく手繰り寄せる一戦で、鹿島が試合を決めたのは後半35分だった。右サイドバックの西大伍が上げたクロスに、MFレアンドロが大外から走り込む。右足でうまく合わせると、GK西川周作の股間を抜く値千金のゴールを決めた。待望の得点に攻撃陣は抱き合って歓喜する。殊勲のレアンドロはベンチに駆け寄ると、同郷であるDFブエノと熱い抱擁を交わした。
彼らが喜んでいるなかで目を引いたのは、その後の行動である。キャプテンマークを巻くMF遠藤康のほか、DF陣が中心となって自然に集まると、何やら話しはじめた。DFリーダーの昌子源がその場面を振り返る。
「まずは剛さん(大岩剛監督)に(その後を)どうするのかを聞いた。守り切るのか、それともちょっと前から行って相手にアプローチするのか、という話をしました。でも、そこは最終的に自分らで判断したところが大きい。だから、(金崎)夢生くんから判断して、(前から守備に)行くところと行かないところもあった。そこはうまく対応できたかなと思います」
得点した余韻に浸ることなく、すぐさま鹿島の選手たちは、その後どう戦っていくかを話し合っていたのである。それも自然に……。
結果的にレアンドロの得点を守り切った鹿島は、1-0で勝利する。アディショナルタイムを含めれば約15分。FW高木俊幸やDF森脇良太を投入して反撃に出てくる浦和に対して、ほぼシュートすら許さず、危なげなく試合をクローズした。レアンドロの得点直後にDF伊東幸敏と交代した遠藤も、リードを奪ったことに安んじることなく、すぐに切り替えたチームメイトに頼もしさを感じていた。
「こういうプレッシャーのかかった試合で、みんなの成長というのをすごく感じましたね」
昨季、リーグ優勝や天皇杯優勝を経験したMF土居聖真やDF山本脩斗が「決勝戦のようだった」と表現した試合は、いわゆる「硬い試合」(土居)となった。それだけに前半から際立ったのは、互いに攻撃ではなく守備だった。
前半は最終ラインでボールを回して好機をうかがっていた浦和に対し、鹿島は前線からうまくプレッシャーをかけてボールを奪っていった。だが、互いに運動量が落ちてきた後半になるとオープンな展開となり、浦和がボールを前に運ぶ回数も増えた。それだけに鹿島にとっては、決して内容が伴っていた試合ではないことは、土居も認める。
「シーズンを通して考えると、うまくいかない試合ってあるじゃないですか。今日はそのうちの1試合だった。前半はよかったけど、特に後半は相手も失点したなかで、ずっといい守備をしていたから、(自分たちは)チャンスというチャンスが作れていなかった」
それは守備の要である昌子の証言を聞いてもわかる。
「後半に関しては、時間が経つのが長く感じました。それはもしかしたら、自分が追い詰められていたのか、それとも体力的にまだまだいけると思っていたからなのかはわからないですけど、長く感じましたね」
実際、鹿島の選手たちは、浦和の反撃の圧力を感じていたのだろう。それでも焦ったり、慌てたりしないところに鹿島の強者たるゆえんがある。ふたたび土居が言う。
「流れが悪いからといって、チーム自体も悪いというメンタルにならない。ここを我慢すれば、自分たちの流れが来るというのをみんながわかっている。そこは本当に経験だと思います。
昨季の経験が確実にチームに浸透している。悪いときにどうしなければならないかというのを、ひとりやふたりではなく、チーム全員がわかっているというか。それは毎試合じゃないけれど、前節のコンサドーレ札幌戦も含めて、今季はより多くの試合で感じている。今日のように決勝戦みたいな硬い試合でほしかったのは、結果だけ。内容なんていらないですから」
白熱したゲームは、最少得点差で決着がついたように、決して一方的な展開だったわけではない。前半終了間際にはFWラファエル・シルバがゴール前で決定機を得るなど、浦和にもこのパスがつながれば、通ればという好機はあった。
ただ、鹿島は相手に流れが傾きかけた後半も、選手ひとりひとりがそれを理解し、把握していたからこそ、耐えるところは耐え、仕掛けるところは仕掛けるという適切な働きをした。終わってみれば、浦和のシュートが3本だったことが、その表れであろう。結果的に、彼らは後半、相手に決定機を許さなかった。
昌子が勝敗を分けたポイントについて言及する。
「試合前に剛さんが、『今日の試合は、見ている人や、やっている人も気づくか気づかないかくらいの小さな、細かいディテールで勝敗が決する』と言っていた。それは横1センチのポジショニングかもしれないし、僕らの攻撃だったり、レアンドロの外が空くという一瞬の隙だったりするのかもしれないけど、そういう小さなことで試合は決まったと思います」
大岩監督や昌子が言う「小さいこと」の差こそが、得点後すぐにチームとしての戦い方を示し合わせていた姿にも見て取れた。得点が決まる直前には、オーバーラップしてFW金崎夢生との連係からゴール前に侵入するなど、攻守に貢献した山本が言う。
「集中して決勝のような戦い方がみんなできていたのではないかと思う。本当にみんな落ち着いていたし、こういう舞台で緊張するようなチームじゃないですからね。プレッシャーがあるなかでも、しっかり自分たちのプレーというのができたかなと思います」
浦和戦に勝利したことで、2位・川崎フロンターレとの勝ち点差は7に広がった。これにより、18日に行なわれる試合で川崎Fがガンバ大阪に敗れれば、鹿島のJ1優勝が決まる。遠藤は「早く優勝を決められればいつでもいいですけど」と言いつつ、「僕らはもう1月1日まで試合ができる状況にないので、あと2試合勝ちたい。特にホーム最終戦は」と話してくれた。
土居にしても「残り2試合は勝ちたい」と言い、山本も「少し期間は空きますけど、あと2試合勝てるように準備したいと思います」と語り、スタジアムを後にした。
細部にこだわる――。得点後も、勝利後も、勝敗が、優勝が決まるまで、結果にこだわる鹿島に慢心など存在しない。そこに、鹿島の鹿島たる強さがある。
ゴールの余韻に浸ることなく…。「試合を閉じた」アントラーズの強さ