
明治安田生命J1リーグ第20節が8月5日(日)に開催。9位・鹿島アントラーズはホームに8位・清水エスパルスを迎える。その勝ち点差は1。この落とせない一戦に懸ける19歳の若武者がいる。その秘めたる決意とは。
■初めてJ1フル出場を果たした吹田の夜
「個の力で点を取って、チームを助けることができれば良かったんですけど。失点をした後、メンタル面で相手にペースを握られてしまったことが反省点だと思います」
息苦しい熱帯夜、悔しきドローに終わった吹田の夜。7月28日の第18節・ガンバ大阪戦でJ1では自身初となるフル出場を果たした若き才能は、走り抜いた90分を冷静に振り返っていた。
苦しみながらも先制に成功し、時計の針を進めていたアントラーズ。しかし70分、守護神の頭上を越えたボールがゴールに吸い込まれてしまう。1-1。痛恨の失点、残りは20分強――。勢いに乗った青黒が嵩に懸かった攻撃を仕掛けてくる中、試合はオープンな打ち合いへと推移していった。「失点の後、もちろん皆が勝ちたいのでゴールを目指しましたけど…」。過酷な消耗戦に身を置いた背番号30は、その苦しき時間をこんな言葉で描き出していた。
「失点の後、もちろん皆が勝ちたいのでゴールを目指しましたけど、サッカーはポンポン、点が入るスポーツではない。僕自身、冷静さもあったとは思いますが、“何とかしないといけない”という思いが強く出過ぎてしまいました。そういう気持ちももちろん大事ですし、それをうまく利用することができればと思います」
■プロ2年目の夏、不可欠な存在となる
7月11日の中断明け初戦から、その名は常に先発リストに刻まれている。鹿嶋で迎えた2度目の夏、プレータイムはすでにルーキーイヤーを上回った。不可欠な存在となったからこそ、求める水準はさらなる高みへ導かれる。吹田でのラスト20分、胸に刻んだ反省点。どん欲に、そして冷静に――。安部裕葵は今、荒波に揉まれながら「柔軟性のある芯」を強く逞しく磨き上げようとしている。
「うまい選手ではなく、チームを勝たせる選手になりたいです。そんな選手になれるように頑張ります。たくさん選手がいる中で、期待をしてもらっていると感じます」
「“何とかしないといけない”という思いを、うまく利用することができれば――」。吹田の熱帯夜、消耗戦の余韻が残るピッチを横目に紡いだ心境こそ、さらなる高みへの道標だ。絶えず前向きのベクトルを放ちながら、同時に試合運びの妙を身に着けるべく腐心している今を突き進んだ先に、安部はさらなる高みへと到達するに違いない。

「結果が出せない時もあるでしょうけど、そこで何ができるかだと思っています」。青黒、青赤との対峙は不甲斐ない結果に終わった。だからこそ、今夜。踏みとどまるために、再び浮上するために、今節・清水エスパルス戦は真価を問われる一戦だ。
「先輩たちの共通点は、自分を持っていること。周りに流されていないんです。自分は芯が強いと言われますけど、柔軟性のある芯だと思います。自分にあったものを取り入れていきたいです」
「柔軟性のある芯」という言葉を教えてくれたのは、ちょうど1年前のこと。その芯は今、そしてこれから、どれだけ磨き上げられるのだろう。全ての経験をスポンジのように吸収し、そして糧にして突き進む19歳。安部裕葵、進化の道のりはどこまでも。
19歳、2年目の夏の成長と課題。鹿島・安部裕葵が持つ「柔軟な芯」【J1第20節・鹿島vs清水】