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2018年11月8日木曜日

◆鹿島ACL先勝はボランチの妙にあり。 三竿健斗が記した2戦目への誓い。(Number)






 ボランチ。ポルトガル語で「ハンドル」を意味する言葉だ。アントラーズの守備的MFの2人が、まさにその言葉通りに攻守の舵取り役となって、勝利を手繰り寄せた。

 11月3日、AFCチャンピオンズリーグ決勝第1戦。

 堅守速攻。相手のペルセポリスは、堅い守備から前線のアリプールとメンシャの2人を中心に、鋭いカウンターでゴールに迫るサッカーを得意としていた。

 ただ、分かってはいても普段対戦しない中東のクラブが相手、そして初めてのACL決勝という舞台に、戸惑いが生まれた。

 レオ・シルバが「決勝という舞台で誰しも緊張はあるもの。チームとしても立ち上がりに影響があった」と言えば、昌子源は慣れない相手のサッカーに「(動きが)硬かった」、安部裕葵も「相手はタイミングが違った。ディフェンスやオフェンスの仕方が違っていた」と前半の立ち上がりを振り返る。 


大岩監督が伝えたメッセージ。

 前半、チームとして相手を受けてしまったことで、勢いを与えたと考えた大岩剛監督は、ハーフタイムに1つの言葉を選手に伝えた。

「勇気を持って守備ラインを押し上げよう」

 全体を前に押し上げることで、サイドが使えるようになる。そして、相手を横に広げられれば、中央でのコンビネーションから攻撃を仕掛けられるようになる。それは前半を終えて、ピッチで戦った選手も感じていたことだった。

「前半から、右サイドで作れば左サイドが空くことは分かっていた。ハーフタイムに、もっとワイドにサイドを使って攻めていこうと話していた」(山本脩斗)

 ピッチを広く使うことで、後半は徐々に主導権を握り始めた。


流れを変えたレオ・シルバ。


 固い流れをプレーで、そしてゴールパフォーマンスで変えたのが、レオ・シルバだった。58分、土居聖真とのワンツーから左足での「強さよりもコースを狙った」シュートは、ロシアW杯でC・ロナウドのPKを阻止したイラン代表GKべイランヴァンドの手をすり抜け、ゴールネットを揺らした。

「ハーフタイムに大岩監督からの修正指示を受けて、後半はみんなが狙いを定めてプレーできていた。得点シーンは練習でやっている通りの攻撃ができた」

 ゴール後は「来い、来い」とチームメイトを呼び集めた。

「ゴールは全員がボールに関わっている。みんなで喜びを分かち合おうと思った」

 レオ・シルバのもとに、選手が集った。ピッチにいた選手だけでなく、ゴール裏でアップしていたベンチの選手たちとともに喜びを分け合った。そして、何度も両手を上下に振り上げ、スタジアム全体を真っ赤に染めたサポーターをあおった。


三竿のボール回収から追加点。

 渾身のゴールパフォーマンスは、「チームに一体感を生んだ」と昌子もうなずいた。

 もう1人のボランチ三竿健斗は、ロングボール主体の相手攻撃に対して、セカンドボールを拾うことがカギと踏んでいた。

「ロングボールが多くなることは分かっていたので、そのファーストボールをしっかり競ることと、僕はそのセカンドボールを予測して全部拾うことを意識していた」

 70分、西大伍が倒されて得た右サイドでのFKをセルジーニョが蹴ると、ゴール前のこぼれ球に背番号20が素早く反応した。「ヘディングは飛ばない」と、胸トラップに切り替え、右足ダイレクトで右のセルジーニョへ。彼のACL5戦連続となるゴールをアシストした。

「セカンドボールを拾えるかどうかで、自陣でプレーするのか、相手陣内でプレーするのか変わってくる。その積み重ねが相手を押し込む1つのキーになったのかなと思う」

 三竿健斗がセカンドボールを拾い続けたことで、じわじわと相手陣内へ押し込むことにつながった。

「ここに来るだろうっていう予測をするなか、自分のところに来る回数が多かったので、それはコンディションがいい状態だと思うし、高い集中力でやれている証かなと思う」

「本当の決勝はここから」

 この日、1点目の後にはレオ・シルバが、2点目の後には三竿健斗が、今季最多の3万5022人が駆けつけた満員のカシマスタジアムをあおった。

「ONE FAMILY」

 選手、スタッフ、サポーター、クラブ一丸となって、2-0で“前半90分”を勝利した。Jクラブ最多となるACL32勝目となった。

 1週間後に行われる“後半90分”の第2戦は、10万人とも言われる相手サポーターに囲まれ、時差のあるテヘランでの戦いとなる。

「本当の決勝はここから始まると思っている」

 レオ・シルバは喜びも束の間、すぐに表情を引き締めた。

 第2戦のポイントはどこにあるだろう。三竿健斗はすでに次の戦いを見据える。

「今日と同じくファーストボールを競ることと、セカンドボールをみんなが拾って戦うこと。よりキーになるのはセットプレーだと思う。まず絶対に失点しないこと。できたらセットプレーから点を取る。それが、一番大事」

 ACLというタイトルはJリーグ最多19冠を誇るアントラーズが獲ったことのない唯一のタイトルである。そのチャンスが目の前にある。決勝第2戦は11月10日(土)日本時間24時キックオフ。

 高校2年から毎日サッカーノートを書き続けている三竿健斗は、試合後こう書き記した。

「まだ前半が終わっただけ」