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2018年12月17日月曜日

◆アジア王者になっても変わらぬ“鹿島らしさ”…2年ぶりの大舞台は“リベンジ”ではない?(サッカーキング)






「クラブ史上初のアジア王者」「20冠目の主要タイトル」――、そんな快挙尽くしの栄冠にも、当の選手たちは喜びに浸っている様子はなかった。今年11月、鹿島アントラーズはAFC・チャンピオンズリーグ(ACL)を勝ち抜き、悲願のアジア制覇を成し遂げた。チーム創設から25年、数多くのタイトルを積み重ね、節目の20冠目をビッグタイトルで飾ってみせた。約2週間後、準決勝で殊勲のゴールを決めた山本脩斗と内田篤人に話を聞く機会をもらった。すると、言葉の節々から他のクラブにはない“鹿島らしさ”を感じさせてくれた。

インタビュー・文=加藤聡
写真=ゲッティイメージズ


 長く、険しい戦いだった。今季のACLは、水原三星(韓国)、シドニーFC(オーストラリア)、上海緑地申花(中国)とのグループステージから始まった。鹿島は各国の強豪が名を連ねたグループで勝ち点を重ね、2位で決勝トーナメントに進出。勢いそのままに1回戦では上海上港に4-3(2戦合計)、準々決勝では天津権健に5-0で快勝を収めた。中国の強豪を立て続けに破り、激動の準決勝を迎えた。

 グループステージで対戦した水原との再戦となった準決勝は、いきなり苦しい状況となる。ホームの1stレグ、開始早々にオウンゴールで失点すると、6分には追加点を許し、いきなり2点のビハインドを背負った。それでも、常勝軍団の底力は違った。鹿島は前半に1点を返すと、84分にはセルジーニョのゴールで同点に追いつく。そして、後半アディショナルタイム、セットプレーのこぼれ球を内田篤人が押し込んで、ついに逆転に成功した。

 アウェイの2ndレグでは、山本脩斗が魅せた。25分、セットプレーからヘディングで合わせて、先制点をマーク。その後は一時逆転を許すも、西大伍とセルジーニョのゴールで再逆転に成功。2戦合計6-5の乱打戦を制して決勝戦へと駒を進めた。


殊勲のゴールにも意識したのは“次”





「特に。『半分終わっただけ』という意識でした。『リーグ戦も、ACLも、天皇杯も』というチームなので、1試合目を獲れたことは良かったですけど、チームとしては何も終わっていなかったから『また次だね』って感じ」。内田に聞いてみるとそう話した。準決勝1stレグで決めた決勝点のことだ。

 山本も同じだった。準決勝2ndレグで決めた貴重な先制点について、「いつも通りでしたね。あの試合はしっかりした守備からチャンスがあればと。僕が最初に点を獲りましたけど、まだまだ時間は残っていたので、『ここからだな』って思っていました」と話した。その言葉通り、勝負は“ここから”だった。後半に入ると3点を立て続けに奪われ、2点リードから一転、ビハインドを背負う苦しい展開となった。

 アウェイの地で逆転を許し、普通ならずるずると悪循環に陥ってもおかしくない状況だった。しかし、鹿島は揺るがなかった。上述の通り、2点を奪い返し再逆転してみせた。

 思い返せば、2年前のJリーグチャンピオンシップも同じだった。浦和レッズと対戦したファイナルでは、ホームの初戦を0-1で落とし、アウェイの2ndレグでも先制点を許した。にもかかわらず、堅実な試合運びでペースをつかむと2点を奪い、王座を勝ち獲った。他にも思い当たる節は多々ある。その度に鹿島はタイトルを勝ち獲り続けてきた。山本も内田も殊勲のゴールを挙げながらも、一喜一憂しないで“次”を見ていた。2人の言葉は20冠目を手にした鹿島の“常勝”たる所以を表していた。


大アウェイで掴んだアジア王者。そのとき内田は…


 決勝戦でも“鹿島らしさ”は随所に表れた。ペルセポリス(イラン)と対戦した1stレグ、ホームゲームながら硬さが目立ち、序盤から押し込まれる展開が続いた。それでも、身体を張った守備でピンチをしのぐと、少ないチャンスをモノにして2得点を奪った。守備陣も奮起し無失点に抑え、2-0で勝利。アジア制覇へ王手をかけた。

 2ndレグは10万人超の相手サポーターが詰めかけたアウェイに乗り込んだ。ここでも大声援を受ける相手の猛攻を受けたが、粘り強い守備で難を逃れた。極限状態の中、集中したプレーを90分間貫き通し、スコアレスでタイムアップ。激闘の連続を勝ち抜き、ついにアジア王者へと上り詰めた。それでも……、

「ACLを獲ったときはもちろん嬉しかったですし、年間を通じて目標にしてきたところなので、みんなが喜んでいました。でも、日本に帰ってきてからはリーグ戦があったので、チームとしては切り替えていました」(山本)と、喜んだのはその時だけだったようだ。実際、このとき鹿島はリーグ戦を2試合を残し、来季のACL出場権を争っていた。さらに、天皇杯も準々決勝まで勝ち上がり、タイトルを懸けた戦いを控えている状況だったのだ。アジアを獲っても、その次へ――、タイトル獲得が“宿命”ともいえる常勝軍団は、常に目の前の戦いにだけ目を向けていた。

 ちなみに、内田は左太ももを負傷したため、決勝戦には帯同しなかった。優勝を決めた2ndレグは「俺、テレビでサッカー見ないので」と観戦しなかったという。理由は「夜中だったし(笑)」とのことだ。しかも、チームメイトとも決勝戦については話をすることもないようで、「脩斗さんがやってくれると信じていたので(笑)」と笑って話した。


世間は2年ぶりの“再戦”に期待も、鹿島にとっては「1つの大会」



「レアルへのリベンジの舞台」。2大会ぶりに出場を決めたクラブ・ワールドカップについて、サッカー界の熱は高まっている。

 同大会が日本で開催された2016年、鹿島はJリーグ王者として出場した。準決勝まで勝ち上がると、南米王者のアトレティコ・ナシオナル(コロンビア)を倒して決勝戦へ進出。世界王者を懸けてレアル・マドリードと対決した。しかし、柴崎岳(現・ヘタフェ)の2ゴールで、一度はリードを奪うも、クリスティアーノ・ロナウド(現・ユヴェントス)のハットトリックに沈んだ。

 優勝とはならなかったが、ヨーロッパ王者を相手に演じた激闘は記憶に新しい。タイトルを懸けて世界トップレベルのスター軍団を相手にしようと、いつも通りの戦いができる。タイトルが懸かった試合を多く経験してきた鹿島特有の強みと言えるだろう。

 そのレアルは、チャンピオンズリーグ3連覇を達成し、今年もヨーロッパ王者としてクラブW杯に登場する。鹿島は初戦に勝てば準決勝で2年ぶりに相対することとなる。

「前回はJリーグチャンピオンとして、開催国枠で出場しましたけど、今回はACLを獲って出場するので、日本代表として、アジア代表としてしっかりしたプレーをしないといけない」。来る再戦へ向けて山本はそう意気込む。一方、2年前ドイツでプレーしていた内田は、レアルとの一戦も「見てないっすねぇ…」と話した。



 少し心配したい点もある。今季の鹿島はとにかく試合数が多い。2月中旬にACLのグループステージが始まると、同下旬にはJリーグが開幕。その後はルヴァンカップ4試合、天皇杯5試合を含め、計57試合を戦ってきた。次に控えるクラブW杯初戦は、実に58試合目の公式戦なのだ。疲労の影響もあってか、5日の天皇杯準決勝では浦和レッズに敗れ、決勝進出を逃した。

 それでも内田は、「それに関しては別に。だったら来シーズンまでのオフが短くなるので、『来シーズンの頭の方が大変だな』『オフが短くなるな』って思いますね。他のチームとはオフの準備期間が違うから、『なんでこの時期にやらせるのかな?』って(笑)」と冗談交じりに疲労の影響を否定してくれた。そして、クラブW杯への意気込みを聞くと、

「(クラブW杯)なければオフでしたけどね。……嘘です(笑) アジアを獲って手にした出場権なので、他のチームが見て『鹿島、もっと本気でやってくれよ』という試合はしたくないです」(内田)

「やるからには優勝目指します!」(山本)

“リベンジ”という見方が多いが、彼らにとっては「1つの大会」にすぎないのかもしれない。ヨーロッパ王者との再戦を迎えようとも、きっと“鹿島らしさ”を見せてくれるだろう。鹿島のクラブW杯初戦は15日、グアダラハラ(メキシコ)と対戦する。




◆アジア王者になっても変わらぬ“鹿島らしさ”…2年ぶりの大舞台は“リベンジ”ではない?(サッカーキング)