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2019年1月8日火曜日

◆「この流れは2、3年続く」流経大柏の 名将が語る高校サッカーの傾向(Sportiva)



関川郁万 Ikuma.Sekigawa


優勝候補の筆頭が下馬評どおりの強さを示し、2年連続でベスト4に駒を進めた。

 1月5日、フクダ電子アリーナで行なわれた全国高校サッカー選手権の準々決勝。流通経済大柏(千葉県)は開始早々に奪った虎の子の1点を守り抜き、東北の古豪・秋田商業(秋田県)に1−0で競り勝った。




 スコアは1点差ながら、両者の間には大きな実力差が横たわっていたように思う。

 立ち上がりからハイプレスを仕掛ける流経大柏に対し、秋田商は思うようにボールを持つことができない。奪われたボールは一気に背後へ蹴りこまれ、流経大柏のスピーディなFW陣にDFが1対1の状況に持ち込まれてしまう。なんとかブロックやクリアに逃げるも、スローインやCKを立て続けに与え、リスタートからあわやという場面を作られてしまった。

 先制点の場面も、スローインからだった。今大会の流経大柏の最大の武器となっているのは、ロングスロー。10番を背負うMF熊澤和希(3年)が投げる驚異の放物線は、ゆうにペナルティエリア内まで到達し、CKやFKと同等の威力を秘めているのだ。

 6分、その熊澤のロングスローをFWの岡本竜(3年)がヘディングで合わせる。このシュートは相手にブロックされたが、こぼれ球をボランチの八木滉史(こうし/2年)が押し込んで、先制に成功。その後も、鹿島アントラーズ入りが内定している今大会注目のCB関川郁万(いくま/3年)がCKから惜しいヘディングシュートを放つなど、得意のリスタートから次々に決定的なチャンスを迎えた。

 後半に入っても、流れは変わらない。流経大柏のプレスの強度は衰えず、高い位置でボールを奪ってはリスタートの機会を何度も獲得。もっとも追加点を奪うことができず、終盤は鋭く背後を突く秋田商の攻撃にややてこずったが、関川を中心とした堅守は崩れることなく、そのままタイムアップの笛を聞いた。

「ロングスローが武器では情けないと思っていますし、もう少し流れのなかで取れたシーンもあったと思う」

 流経大柏の本田裕一郎監督は、苦笑いを浮かべながら試合を振り返った。しかし、こうも続ける。

「技術だけを見ると首をひねるところがあると思うが、戦い方としてはいい内容だった」

 多くの名手を育ててきた高校サッカー界の名将は、選手たちのパフォーマンスに一定の評価を与えていた。

 今大会の流経大柏の戦いは、たしかに技術的な部分では他を圧倒しているわけではない。ハイプレスとハードワークを徹底し、まずは相手に自由を与えないことを最優先事項とする。ボールを奪えば手数をかけずに縦につけ、少ない人数で相手ゴールに迫るサッカーを展開する。

 そこには小気味よいパスワークや、アタッキングサードでの連動性といった創造性は存在しない。準優勝した昨年のチームも、ハードワークという部分では共通するが、攻撃軸を担ったテクニシャンの菊地泰智(現・流通経済大1年)がいた分、攻撃面にはよりアイデアや多様性があった。

 しかし、今年のチームはインテンシティの部分がさらに強調されている。技術よりもフィジカルや走力といった面が、より求められているのだ。

 その理由を本田監督は、次のように説明する。

「今大会は、プレスが早いチームが勝ち上がっている。全国に出ているチームで、ポゼッションがうまいチームは少なくなっている。おそらく、この流れは2、3年は続くでしょう。

 ただ、そこでひと皮むけて、次の方向に向かうのかなと感じている。この早いプレスをかいくぐるために、技術やパスワークのレベルが上がっていくのではないでしょうか。

 そういう意味で、今大会は高校生のことを考えると、非常にいい内容の大会。もっとプレスをかけて、そのなかで使える技術が本物だと思う。いい傾向じゃないかと私は思っています」

 もちろん、指揮官は「もっと冷静につなげる場面はあった」と、指摘を忘れない。ただし、求めるのはそこではなく、あくまでプレー強度をいかに高められるかにある。

「もっとハードなゲームをしなければダメ。ひたすらプレスにこだわっています」

 そう主張する指揮官の狙いを、選手たちも十分に理解している。関川は追加点を奪えなかったことを反省する一方で、チームの揺るぎないスタイルに自信を見せた。

「少ないスコアでも勝ち切れるのが自分たちのよさ。点差が少ない分、ディフェンスラインとして無失点で抑えるのが大事になってくる」

 ポゼッションスタイルが謳歌したのは、もはや過去の話。世界のサッカーの潮流は、確実に日本の育成年代にも影響を与えている。その意味で流経大柏のサッカーは、その最先端にあると言えるかもしれない。

 もちろん彼らには、昨年、前橋育英(群馬県)に決勝で敗れた悔しさも原動力となる。

「(終了間際に失った)去年の決勝点は今でも夢に出てきますし、起きたら涙を流しているほど。振り切ろうと思っても、振り切れるものではない」

 関川は、その屈辱をバネにこの1年間を過ごしてきたことを明かした。

「トーナメントは守備からです」

 そう語る本田監督には、ノックアウト方式を勝ち上がるノウハウも備わる。

 高いインテンシティとリベンジの想い、そして名将が操る確かなマネジメント能力。2007年大会以来二度目の全国の頂点へ――。流経大柏はその舞台を整えている。




◆「この流れは2、3年続く」流経大柏の 名将が語る高校サッカーの傾向(Sportiva)