仕事で恥をかかないビジネスマナー (日経文庫) [ 日本経済新聞出版社 ]
サッカージャーナリスト 大住良之
アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)もグループステージが大詰めにさしかかり、残すは最終の第6節(5月21、22日)だけとなった。
F組のサンフレッチェ広島がすでに1位突破を決定したが、E組の鹿島アントラーズは山東魯能(中国)をホームに迎える最終戦で引き分け以上なら2位通過する。G組の浦和レッズは同じ勝ち点の北京国安(中国)とやはりホームでの直接対決。勝ちか無得点引き分けなら2位通過となる。ただH組の川崎フロンターレは厳しい状況だ。アウェーでシドニーFC(オーストラリア)に勝ったうえ、ホームで蔚山現代(韓国)と戦う上海上港(中国)が引き分け以下でようやく2位通過となる。
今季は、鹿島、浦和、川崎という関東地方の3クラブが出場したこともあり、そのすべてのホームゲームを取材することができた。痛切に感じたのは、「Jリーグのクラブはもっと韓国や中国のクラブと対戦する必要がある」ということだった。
日本のクラブはテクニックに優れ、戦術面の規律も取れている。一方、韓国のクラブは相手ゴールに向かっていく迫力にあふれ、よりダイナミックなサッカーをする。そして中国のクラブは世界レベルの外国人選手が大物外国人監督の下でチームをけん引している。
いずれも他にない特徴とともに、それぞれの長所、短所をもつ日・中・韓のクラブ。その対戦を増やせば、互いにレベルアップを図れるのではないか――。そう感じたのだ。
■日本のクラブ、韓中に対して負け越し
しかもこの3カ国は現在のアジアのクラブ・サッカーをリードしている。ACLは2009年以後、1カ国からの出場が最多4クラブに増え、強豪クラブが集まって文字どおりアジアで最高峰のクラブを決める戦いとなった。そのなかで、18年までの10大会で、日・中・韓が計8回もの優勝を飾っているのだ。韓国が4回、日本と中国が2回ずつである。まさに日・中・韓の3カ国は、互いにしのぎを削ってレベルを高め合っているのだ。
ACLでは、4クラブで1グループをつくり、ホーム・アンド・アウェーの計6試合を行う。ACLが現在の形になった09年以降、アジアの東半分で組まれるE組からH組、計16クラブには、わずかな例外を除いて日・中・韓の4クラブが含まれている。すなわち、ACLのグループステージは「日・中・韓の対決」といっても過言ではない状況だ。
09年から今季の最終節前まで、日本のクラブは延べ88試合を韓国のクラブと、そして80試合を中国のクラブと戦い、韓国とは32勝19分け37敗、中国とは25勝28分け27敗と、いずれも負け越している。
直行便があればわずか2~3時間の飛行での移動。時差も中国との間で1時間あるにすぎない。しかしアウェーの厳しさは国内試合の比ではない。しかも相手は日本のサッカーにない特徴をもち、日本のクラブはそれを乗り越えるための技術とフィジカル、戦術能力だけでなく、ホームの試合運営や、不案内なアウェーの地でさまざまな手配をしなければならないことなど、「クラブ」としての総合的な能力も問われる。チームとともにクラブスタッフを鍛えられるのも、アジアでの戦いなのだ。
■Jリーグ全クラブが韓中と真剣な戦い
そうした強い刺激のある中国・韓国クラブとの対戦を、ACL出場の各シーズン4クラブだけでは惜しいように思うのだ。たとえばプロ野球の「交流戦」のように、毎シーズン、Jリーグ(J1)の全クラブがその体験を享受できないだろうか。
現在、JリーグはACLの日程に合わせて「ルヴァンカップ」を実施している。今年でいえば、ACLのグループステージは3月の第2週と第3週、4月の第2週と第4週、そして5月の第2週と第4週の火曜と水曜を使って開催されているが、Jリーグは同じ週の水曜日にルヴァンカップの予選リーグを行っている。ACLに出場していないJ1の残り14クラブにJ2の2クラブを加えた16クラブを、4クラブずつのグループに分け、ホーム・アンド・アウェー方式の各チームの6試合、すなわちACLと同じ形の予選リーグにしているのだ。
韓国のKリーグクラシック、中国スーパーリーグと話し合い、両国のクラブを加えて4クラブずつでリーグをつくり、ACLと同じ日程で戦ったらどうだろうか。
「ルヴァンカップの改革案」としてではない。重要なのはJリーグの全クラブが中国・韓国との対戦を、しかも単発の親善試合としてではなく、何らかのタイトルをかけて真剣な戦いを毎年行うことだ。ホーム・アンド・アウェー、計6試合の戦いで最終的に勝つために何をしなければならないのか――。それに正面から向き合うことで、クラブを、そしてリーグを成長させ、発展させ、世界のトップリーグに迫っていくことが最大の目的だ。
もちろん、中国と韓国のクラブ、リーグの成長の力にもなるだろう。だがそれも大歓迎だ。互いに切磋琢磨(せっさたくま)するライバルとの競争こそ、アジアのサッカーが世界のトップクラスに追いすがる最大の力となるからだ。