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「勝負の年代」にラストピースが加わった。
来季に向けて、鹿島アントラーズが高卒選手4人を獲得した。
鹿島ユースからトップ昇格となるGK山田大樹、U-18代表でも活躍するFW染野唯月(尚志高)、東福岡高校で10番を背負うMF荒木遼太郎と注目選手の内定を続々と発表。そして最後に加わったのが、静岡学園高校のMF松村優太だ。
鹿島が4人の高卒選手を一挙にクラブに招き入れたのは、2016年以来となる。だが、今回のように高体連出身選手を多く獲得したのは9年前までさかのぼらなければならない。
その2011年シーズン入団組といえば、柴崎岳(青森山田高、現・デポルティーボ・ラ・コルーニャ/スペイン)、昌子源(米子北高、現・トゥールーズ/フランス)、梅鉢貴秀(関西大学第一高、現・ツエーゲン金沢)、そしてユースからトップ昇格を果たした土居聖真と、錚々たるメンバー。
さらにもっと遡れば、本山雅志(東福岡高、現・ギラヴァンツ北九州)、小笠原満男(大船渡高)、中田浩二(帝京高)、山口武士(大津高)、中村祥朗(奈良育英高)、そして下部組織から昇格したGK曽ヶ端準が加わった1998年シーズンが代表的だ。
鹿島がこだわる高卒選手の育成。
歴史を振り返ってみても、鹿島という伝統あるクラブに貢献した実力者たちばかり。鹿島のスカウト・鈴木修人氏はこう語る。
「鹿島といえば、生え抜きの選手が主軸になる。そう考えると今は生え抜きが少ない状況にあると思います。鹿島の魅力は高卒選手を生え抜きで育てて、世代交代をしっかりとやっていくこと。椎本(邦一スカウト担当部長)さんを始め、クラブの伝統の1つとして、ずっと大事にしてきました。
日本代表を多く育てて、日本のサッカーに貢献することこそが鹿島の魅力だと思っていますので、高卒の生え抜きにはかなりこだわらないといけないクラブの精神だと思っています」
鹿島では、これまで数多くの高卒選手を獲得し、日本代表、海外へと羽ばたかせていった実績がある。今回の4人にも大きな期待を寄せているのだろう。だが、近年は海外移籍の若年化が加速しており、現に2017年に瀬戸内高校から加入し、今季から10番を背負っていたMF安部裕葵は、夏にFCバルセロナB(スペイン)へ渡っている。
こういった時代の流れも肌で感じていた鹿島フロントとは、早くから選手獲得に動き出していた。
松村優太の武器は「ドリブル」。
今回の4人の中で驚きだったのは松村だろう。鹿島ユースの山田、荒木は高校1年時から、染野は昨年の大ブレイクで一気にその名を轟かせていた。この3人に比べると、松村のネームバリューはやや劣る。
しかし、彼のプレーを一度見たことがある人は、鹿島が獲得に動いた理由がすぐに分かるかもしれない。松村には明確な「武器」がある。
彼の持ち味はずばりドリブル。それを得意とする選手は数多くいるが、松村の繰り出すリズムは一味違う。ドリブラーの悪癖として、ボールばかりを追う「ヘッドダウン」が指摘されるが、松村は常に顔が上がっている。仕掛けている最中でも周囲の状況をしっかりと確認。瞬時にドリブルコースを見極め、足のあらゆる箇所を使ってボールタッチを繰り返し、パスへ変える判断も早い。ボールを受ける前から2手、3手先の情報まで察知するだけでなく、50mを5秒8で駆け抜ける爆発的なスプリント力、そしてボディーバランスも併せ持っているのだ。
鹿島スカウトが受けた衝撃。
椎本、鈴木の両スカウトも彼のドリブルの質の高さに驚愕し、獲得への意欲を一気に高めていた。
「今年3月のヤングサッカーフェスティバルで染野唯月(当時、日本高校選抜)を見に行ったら、対戦相手の静岡県ユース選抜に松村がいて、そこで初めて見たんです。椎本さんと2人で『こんなドリブルをする選手がいるんだ』と衝撃を受けましたね。
ドリブルをしながら周りが見えているからこそ、行ける時は行くし、シンプルにクロスを上げることもする。まずああいうタイプが今の鹿島にはいない。ドリブルであれだけ仕掛けられるのは今時珍しいと思っていて、素走りも速いし、彼はちょっと違った。これで追いかけようと思った」(鈴木)
それゆえ、オファーを出したのも松村が最後だったという。
因縁の相手から奪ったゴール。
第98回全国高校サッカー選手権静岡県大会。選手権出場をかけた県予選で、松村は圧巻のプレーを見せた。
準決勝の相手は昨年度王者の浜松開誠館高校。ここ2年連続で決勝で敗れ、選手権出場を果たせていない静岡学園高校にとって、因縁の相手だった。
4-1-4-1の右サイドハーフで出場をした松村は、開始早々から質の高さを見せつける。7分、中央でボールを持った松村は飛び込んできた相手DFをファーストタッチで交わすと、一気に加速。「いい形で1枚目をはがせたので、このまま行けば突破できるんじゃないかと思った」と、食いついてきたもう1枚のDFを右アウトサイドでかわし、ゴール方面にさらにスピードアップ。自らにスルーパスするような大きなタッチで抜け出すと、気付けばGKと1対1。GKと交錯したが、その際もボールの場所を見逃さず、倒れ込んだ状態から右足を振り抜いて無人のゴールに突き刺した。
後半に入ってもその威力は増すばかり。42分、右サイドでDFの間をこじ開け、ペナルティーエリアに侵入すると、鋭い切り返しで一気に4人抜き。「GKが飛び出してくるのが見えたので、かわせるなと思った」と、最後の砦まで抜きにかかると、相手GKもたまらず、松村の足に手をかけた。自ら獲得したPKを落ち着いて決め、リードを2点に広げた。
DFの間をすり抜ける松村。
ただ、圧巻だったのはPKを決めた直後のプレーだった。
松村は右サイド深くでボールを受けると、相手DF2人がマークに来ているのを視野に捉える。1人を自分のゾーンに引き入れるべく、一度右にボールを持ち出して食いつかせると、そのまま一気にターン。カバーに切り替えたもう1人との間にドリブルで割って入った。その際、ボールが自分の足元深くに入ったため、右足を前に踏み込み、左足のインサイドでボールを擦り上げるように回転をかけてDFの股の間を通す。そのまま左足を前に踏み出して、2人の間をすり抜けていったのだ。
そこから、ペナルティーエリア内深くまでドリブルすると、ニアサイドのスペースに走りこんだ味方へクロス。シュートは相手のブロックに阻まれたが、この一連の松村のプレーには、才能と魅力が凝縮されていた。
スラスラと解説する18歳。
2-0での勝利に貢献し、昨年のリベンジを果たして3年連続の決勝進出を果たした。その直後、彼にこのプレーの狙いを聞いてみた。
「右サイドを駆け上がったときに、一度止まってみたら、相手のDF2枚がガッと僕の方に食いついてきていたんです。よく相手を見ると、2人の間が空いていた。よく海外の選手なんかもゆっくり持ち出してからアウトサイドでカッと間に入っていくプレーをよくするので、そういうイメージを持っていました。
ただ、間に割って入ったときに、最後は左のアウトサイドでボールを触って前に運ぼうと思ったのですが、ボールが自分の左後ろにあったので、左足インサイドの方が相手の股を通せると思ったんです。感覚の部分が大きいと思います」
スラスラと言葉が出てきた。それだけ意図的にプレーしているという証拠である。ここから話は彼のドリブルへの哲学に及んだ。
「相手の出方を見てしっかりと判断できるように、ボールと自分のタッチの関係性を意識してやっています。1人目をかわして、2人目で取られてしまったら意味がない。何人来ても抜いていけるようなドリブルを心がけています。そのためにボールタッチの角度など、細かい部分にも意識しています」
染野、荒木らと切磋琢磨して――。
今、彼の視線の先には自身初となる高校選手権出場がある。16日に控える富士市立高との決勝戦しか映っていないだろう。だが、さらにその先には名門クラブでの切磋琢磨の日々が待っている。
「染野選手と荒木選手にはそれぞれ良さがあると思います。でも、それと同じように僕には2人にはない良さがあると思います。なので、自分が一番武器にしている良さを存分に出していくことができれば、やっていける。そこは自信を持ってやりたいと思います」
山田はユース出身として期待が集まるGK、今季途中に法政大から加入したFW上田綺世と染野は世代を代表するストライカー、荒木はFWからボランチまでこなせるセントラルプレーヤー。そんな「勝負の年代」のラストピースとして、サイドアタッカーの松村が加わった。
この先、彼らはどんな成長を見せてくれるのか。鹿島の「本気」が伝わる彼らのプレーをぜひ一度見てほしい。