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2020年1月15日水曜日

◆「僕のなかには答えがある」 鹿島・上田綺世は本当に「久保竜彦以来の逸材」なのか?(REALSPORTS)



上田綺世 Ayase.Ueda


ジュニアのためのスポーツ食事学 みんなで一緒に強くなろう [ 柴田麗 ]


2019年は上田綺世にとって激動の1年だった。大学生選手としては9年半ぶりとなる日本代表選出、優勝を争う鹿島アントラーズでのJリーグデビュー。多くの期待と、それ以上に多くの批判を浴びた。

2連敗で史上初のグループステージ敗退が決定したAFC U-23選手権タイ2020では2試合に出場し無得点。東京五輪に挑む五輪代表のエース候補として結果を出せずに苦しんでいる。

語り手によってその評価が大きく分かれる上田綺世とは、いったいどれだけの力量を持った選手なのだろうか?


(文=田中滋、写真=Getty Images)


“久保竜彦以来の逸材”と森保一監督が高く評価


昨年6月に開催されたCONMEBOLコパアメリカブラジル2019で日本代表としてデビューを飾った。唯一の大学生選手として参加しただけでなく、東京五輪世代のエース候補として注目を集めて3試合に出場。しかし、多くの得点チャンスに絡みながらもゴールをあげることができなかった。その後も、この年代のエースとして活躍を期待され、昨年末のEAFF E-1サッカー選手権2019のメンバーにも選出された。しかし、ここでも3試合に出場し無得点。上田綺世は多くの批判を浴びた。

一方で、起用する森保一監督は“久保竜彦以来の逸材”と高く評価。フル代表の大迫勇也と並び、絶大な信頼を寄せている。上田綺世は、どれだけの力量を持った選手なのだろうか。

Jリーグで結果を出すのは早かった。初先発となった9月1日の清水エスパルス戦で2得点。1点目は、永木亮太のクロスがファーに流れてきたところを着実に頭で捉え、2点目は、速攻の場面で逆サイドに開き、遠藤康の正確なクロスを高い打点のヘディングで叩き込む。両耳に手を添え、沸き立つゴール裏の歓声を味わう姿は、夏にベルギーへ移籍した鈴木優磨のあとを見事に引き継ぐ存在が登場したことをうかがわせた。試合後は、当然のごとく取材陣が殺到した。

「まだまだ自分のストロングを出したいと試合中は思っていましたけど、ああやって要所、要所で使ってくれた。だから取れた2点かなと思います」

アシストを出した遠藤康は、試合中ずっと「綺世に取らせたい気持ちは僕もあった」と言う。前半早々、上田を狙ってスルーパスを出したのも遠藤。惜しくもシュートは外れてしまったが、若いセンターフォワードにゴールを決めさせて気持ちもプレーも楽になってもらいたい、というのはベテラン選手の親心でもある。

「シーズン途中から入ってきたFWなので、ゴールを決めることがあいつの自信になるだろうし、たぶんこれから日本を背負っていくようなFWになると思う。どんどんゴールを決める手助けをしたいと思います」

田代有三、興梠慎三、大迫勇也といった日本代表FWと共にプレーしてきた遠藤は、上田の非凡な才能をそう称した。プレースタイルとしては、その田代と大迫にイメージを重ねていた。

「鹿島でいうと有三さんとサコが混ざった感じですかね。ヘディングが強くて足下もうまい。言ったらミドルも打てる。そういうところはもっと貪欲に狙ってもいいと思う。周りのことを気にしすぎてパスを出しているところもあるので、もっともっと自分を出してほしいなと思います」


上田はまだまだ力量を測られている段階


しかし、鮮烈だった先発デビュー戦のイメージは、試合を重ねるごとに色褪せてしまう。コンスタントにゴールをあげることはできず、鹿島の公式戦でも、その後は10月の松本山雅FC戦の1得点のみ。大岩剛監督は先発や交代の切り札としてさまざまな場面で出場機会を与えたが、その采配が日の目を見ることはなかった。

活躍できなかった理由は単純だ。彼にパスが入らなかったからである。上田綺世がゴールを狙う動きを始めるのはペナルティエリアのずっと外。1本のパスが通ればゴールに直結できるポジションを取って、虎視眈々とそのチャンスが来るのを待ち続けた。

ところが鹿島アントラーズは“上田綺世のチーム” ではない。どちらかと言えば上田はまだまだ力量を測られている段階にある。一瞬の駆け引きで相手を抜き去ろうとする上田の動きは、味方選手からすればあまりに小さく、ゴール前に張りついているだけにしか見えない。ゲームに関わる回数は少なく、パスの出し手と感覚が合った場面も数えるほど。試合後は「もう少し合わせていく必要があると思います」という主旨のコメントが繰り返された。

「もの足りない。わかるよ、日本代表に選ばれて大変だと思う。でも、もっとやってくれないと困る」

温かい視線で見守りながらも、厳しい言葉で現実を突きつけたのは、上田と同じく若くして日本代表を任されてきた内田篤人である。

「チームのためにできることが少ない。点を取るだけだったら最後の15分だけでいい。FWは、それ以外にもやることはある。そうなると(伊藤)翔のほうがいい」

大学時代は、それでよかったのだろう。森保監督が惚れ込むように、上田の身体能力は驚くほど高い。特に跳躍力は目を見張るものがある。無理な体勢からでもシュートを打てる、体の強さもある。そこで勝負されると上田に勝てるDFはいなかったはずだ。

だからといって、上田綺世が器用にいろいろなことをやれるようになればいいのか、と言えばそれはわからない。たぶん、これまでも何度となく、そうした指摘を受けてきたはずだ。しかし、上田綺世を上田綺世たらしめてきたのは、そうした周囲の声をすべてかき消す結果を出してきたからだ。


「僕のなかには答えがある」


もしかしたら、鹿島の試合と日本代表の試合では、試合への意気込みや意味合いが違うのかもしれないが、少なくとも鹿島ではいつも次のように語っていた。

「僕のキャリアにおいて信頼を得るために点を取ることは絶対に重要なこと。僕が意識するのはチームを勝たせる。そこだけです」

常に、自分が点を取るためにどうすればいいのか、思考を特化する。頑固と言えば頑固なのだろうが、彼はそのやり方を貫くことで数々の壁を乗り越えてきた。

確かに、まだ幼いところはある。法政大学サッカー部から日本のトッププロ集団である鹿島に籍を移したとき、練習量が減ったことで体重を増やしてしまった時期もあった。そこからコンディションを戻すのに苦労したのも間違いない。

しかし、ゴールを決めることで周りを納得させてきたのが上田綺世だ。シュートを外し続けたときも、上田は「僕のなかには答えがある」と表情を変えなかった。頑固一徹、ゴールを狙い続けるFWがいても面白い。

<了>




◆「僕のなかには答えがある」 鹿島・上田綺世は本当に「久保竜彦以来の逸材」なのか?(REALSPORTS)