内田篤人/大迫勇也ふぅ〜っと深呼吸ストレッチ [ ウチダラボ ]
鹿島アントラーズは28日、AFCチャンピオンズリーグ・プレーオフでメルボルン・ビクトリーと対戦した。54分に失点した鹿島は0-1で敗れ、グループステージ出場を逃している。元日に天皇杯決勝を戦ったチームとザーゴ新監督に与えられた準備期間はあまりにも短かった。それでも、戦況をベンチで見守ったDF内田篤人は常勝チームで戦う矜持と、久々に本戦出場を逃した無念さを露わにした。(取材・文:藤江直人)
内田篤人が露わにした喪失感
セピア色になりかけている記憶を必死に検索した。自分が在籍したシーズンで、鹿島アントラーズがAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の本大会に出られなかったことはあったのか。フィールドプレーヤーでは最古参となる31歳、内田篤人が弾き出した答えは残念ながらちょっとだけ違っていた。
「ACLに出ていない年、オレ、知らんもん。一回あるぐらい、かな。ほとんど出ているからね」
正確には内田が清水東高から加入した2006シーズンと、いま現在も背負う「2番」を元日本代表の名良橋晃から引き継いだ2007シーズンに、アントラーズはACLを戦っていない。いずれも前年のリーグ戦における成績が振るわず、上位に与えられる出場権を手にできなかったからだ。
一転して2007シーズンからは、前人未踏のリーグ戦3連覇を達成。必然的に内田も2008シーズンから3年連続でアジアの舞台にも立ち、ブンデスリーガでプレーした約7年半の歳月をへて復帰した2018シーズンに、アントラーズは悲願のアジア王者を獲得。昨シーズンもベスト8へ進出した。
特に直近となる過去2シーズンの残像が、強烈に焼きついているからこそ喪失感も大きい。本大会へストレートインすることができず、プレーオフに回った今シーズン。ホームにメルボルン・ビクトリー(オーストラリア)を迎えた28日の一発勝負で、アントラーズはまさかの苦杯をなめさせられた。
「いままでもそうしたなかで勝ってきた」
相手の約3倍となる17本ものシュートを放ち、そのうち13本を枠内に飛ばしながらゴールネットを揺らすことができない。相手ゴールキーパーの美技に防がれるたびにMF土居聖真が、名古屋グランパスから加入したMF和泉竜司が、新外国人のFWエヴェラウドが天を仰いだ。
54分にはまさかの形から失点を喫した。昨夏まで浦和レッズでプレーしたFWアンドリュー・ナバウトが放ったシュートが、ブロックへ飛び込んだ新加入のDF奈良竜樹の足にヒット。コースを変えた一撃は、守護神クォン・スンテの頭上を越えてゴールに吸い込まれた。
「(次へ向けて)気持ちを切り替える、というものじゃない。そんなに簡単なものじゃないから」
冷たい雨が間断なく降り続くなかで、失点を挽回できないまま終えた90分間をベンチで見届けた内田が振り返る。ややぶっきらぼうな口調が悔しさと、本大会の舞台に立つことなくACLを制覇する可能性を失った無念さを際立たせる。昨シーズンに小笠原満男から引き継いだキャプテンを、今シーズンからは23歳のMF三竿健斗へ託した内田はさらに言葉を紡いでいる。
「先に点を取りたかったよね。しかも、早いうちに。みなさんも感じたかもしれないけど、試合が始まって15分、20分で、レベル的には負けるような相手ではないと思った。ただ、よく言っていることだけど、チャンスがいっぱいあるのに点が入らない試合は負けちゃう。それでも、そういう試合だった、では片付けられないんだよね。新チームが立ち上げられた直後と言っても、いままでもそうしたなかで勝ってきたわけだからね。特にウチは一発勝負に強い、と言われてきたチームなので」
新指揮官に与えられた時間はわずか12日間
ヴィッセル神戸の前に一敗地にまみれ、ACLのプレーオフへ回ることが決まった元日の天皇杯全日本サッカー選手権大会決勝をもって、2017シーズンの途中から指揮を執ってきた大岩剛監督が退任。現役時代は柏レイソルでプレーした経験をもつ、ザーゴ監督にバトンが引き継がれた。
もっとも、初陣となるACLプレーオフへ向けて、50歳のブラジル人指揮官に与えられた時間は20日間だった。天皇杯決勝から中6日という異例のスケジュールで新体制をスタートさせたが、初日に汗を流したのは昨シーズンのプレー時間が少なかった選手と、新加入選手だけだった。
天皇杯決勝までフル稼働した主力選手たちと故障がちだった内田には、選手統一契約書に「最低限の期間」として明記されている2週間のオフが与えられた。合流したのは宮崎市内での合宿が大詰めを迎えていた16日。全員がそろってからわずか12日間で、実戦形式の練習をほとんど行っていない状況を踏まえれば、準備期間が十分だったとはさすがに言えない。
初さい配を振るったザーゴ監督はメルボルン戦へ、6人の新加入選手を先発として送り出した。前出の和泉、奈良、エヴェラウドに、永戸勝也と広瀬陸斗の両サイドバックとMFファン・アラーノ。新戦力のパフォーマンスが決して悪かったわけではない。
昨年12月7日の明治安田生命J1リーグ最終節をもって、オフに入っていた日本人選手たちは、再三にわたって右サイドからクロスを供給した広瀬を筆頭に新たな可能性を示した。28歳のエヴェラウドは高さと強さを、23歳のアラーノは後方の広瀬らと決して悪くはない連携を見せた。
「一番恐れているのは…」
「勝っていれば評価は全然違っていたと思うけど、自分としては昨シーズンの後半戦よりはよかったと思っている」
一時は4冠独占の可能性を膨らませながら、勝負どころの秋以降に失速。天皇杯決勝を含めて不甲斐ない戦いを演じ、結局は無冠に終わった昨シーズンの終盤戦よりも可能性を感じさせたと、1996年から強化の最高責任者を務める鈴木満取締役フットボールダイレクターは努めて前を向く。
ただ、他のJクラブの追随を許さない20個ものタイトルを獲得し、いつしか常勝軍団と呼ばれたアントラーズを縁の下で支えてきた鈴木ダイレクターは、こんな言葉をつけ加えることも忘れなかった。
「やっぱりメンタルもフィジカルも選手間でバラつきがある点が、チーム全体の集中力みたいなところにつながっていかない」
昨シーズンだけでなく、リーグ戦と天皇杯の二冠を獲得した2016シーズンからアントラーズはフル稼働してきた。2017シーズンは最終節で連覇を逃して精神的なショックを長く引きずり、2018シーズンもFIFAクラブワールドカップを戦った関係で最も遅くオフに入ったチームとなった。
「一番恐れているのが、ずっと主力で出場してきた選手たちの気持ちが燃え尽き症候群というか、なかなか高ぶってこないような状態に少しなってきていること。何年もこういう状況になっていると必ずどこかにしわ寄せがくるし、昨シーズンもけが人が続出した時期があったので」
チーム全体での始動を遅らせてまでも、主力選手たちにあえて2週間のオフを取らせた理由を、鈴木ダイレクターはこう説明する。半ばぶっつけ本番でもACLプレーオフで勝てれば、と抱いていた淡い期待は脆くも崩れ去ってしまったが、準備期間の短さを問われた内田はおもむろに首を横に振った。
(取材・文:藤江直人)
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