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2020年3月25日水曜日

◆【2020の注目株13】鹿島の18歳、荒木は錠前破りのロックピッカー(サッカーマガジン)






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現在、Jリーグは開幕戦を終えて中断中だが、この連載では再開後のリーグ戦でさらなる活躍が期待される各クラブの注目選手を紹介していく。連載第13回は、鹿島アントラーズの高卒ルーキー、MF荒木遼太郎を取り上げる。


文◎北條 聡


切れ味抜群の次世代型兵器


 狭い囲いの中でも決定的な仕事ができるかどうか。いまや攻撃陣の値打ちはそこに集約されるのかもしれない。つまりは小さなスペースを最大限に利用できる者たちだ。

 時間がない。空間もない。そうした状況を少しも苦にしないタレントが鹿島アントラーズに加わった。荒木遼太郎――この春、高校を卒業したばかりの18歳が、いきなり特殊技能をフル活用して重要なキャストに躍り出た。

 途中出場ながら、高卒新人では内田篤人以来の開幕デビュー。2列目の右サイドに送り込まれ、サンフレッチェ広島の分厚い防壁をモノともしない見事な立ち回りをみせた。アクションの基点が外であれ、内であれ、手際よくフィニッシュまで持っていく。とにかく仕事が速いのだ。

 秘密は最初のタッチだろう。何しろ「止める→かわす→運ぶ」という一連の作業を一発で処理してしまう。もう寄せ手の付け入る隙もない。予備動作に細工を施した時点で、あらかた片がついている。そこにボールを手なづける繊細なタッチを重ね、やすやすと網をかいくぐるわけだ。

 しかも、そこからギアを上げて、敵のゴールに向かう意欲が素晴らしい。守備者に休む暇を与えず、一気に攻め切ることの利得を知っているからか。急がば急げ。優先順位を間違えない。いかにも鹿島の伝統を受け継ぐ者にふさわしい。急いては事を仕損じる――とも言うけれど、筋金入りのプロ集団なら話は別。有能な人ほど仕事が速い。荒木もその一人だろう。

 名門の東福岡高の出身。その切れ味鋭い仕掛けはかつて同じ道をたどり、常勝軍の一翼を担った本山雅志を彷彿とさせる。他方、偉大な先達とはまた違った個性や魅力にあふれているのも事実。同じ高卒新人の立場から身を起こし、海外組へと転じた安部裕葵にも似て、寄せ手をはがす作法が現代風にアレンジされた次世代型兵器だ。

 この人をカギ穴に差し込めば、次々と扉も開きそうな気がしてくる。車のカギが開かなくなったときに使う『ロックピッカー』のようだ。こういう人こそ本当のキーパーソンと呼ぶんじゃなかろうか。密度の高い守備ブロックの中へ放り込まれた途端、存在感を失う「大駒モドキ」も少なくない。ザーゴ新監督が難局打開のジョーカーとして荒木を懐に抱えておきたくなるのも分かる。





 今季の鹿島はチームの設計を見直し、発展途上の段階にあるが、攻撃の局面で両サイドバックを高い位置に押し上げ、幅を取る手法は従来のそれと変わらない。これに伴い、2列目の左右の担い手に防壁の内側に潜ってハーフスペースを攻略する仕事が求められる点も同じだ。荒木は外からの崩しも優秀だが、ブロック内での破壊工作こそ、例の特殊技能が存分に生かされる。

 ならば、いっそスタメンで――と話を進めたくなるが、現時点では切り札としての大きな値打ちと周囲との兼ね合いという2つの側面が秤にかけられそうだ。後者について具体的に踏み込めば、点取り屋のエヴェラウドと中盤の仕掛人ファン・アラーノという助っ人との関係性だろう。

 事の良し悪しはさておき、ザーゴが監督である以上、おそらく攻撃陣における最重要キャストはこのブラジル人ペア。彼らと「共犯関係」を取り結べる人材がスタメンに近づくことになるのだろう。生かし、生かされる間柄だ。開幕戦を見る限り、新助っ人と周囲との連係は道半ば。まだまだ手探りの段階という印象が強い。

 目下、ピンで輝く荒木も味方と密接にリンクしながら局面を打開する絡み方の面では発展の余地がある。もっとも、これらは監督目線を想定した見立てに過ぎない。あれこれ考えすぎて、持ち味を失っては本末転倒だろう。固有の武器を前面に押し出すことに意味のある切り札的な起用はこの厄介事を回避するための知恵かもしれない。

 ただ、公式戦で3連敗。おまけにノーゴールとあっては、この生きのいい若者を長い時間ベンチに座らせておく余裕があるかどうか。中断期間を経て、荒木がブラジル人ペアと以心伝心みたいな間柄になっていても別に驚きはしない。男子三日会わざれば、刮目して見よ――である。その姿を再び拝める日が楽しみだ。

Profile
あらき・りょうたろう◎2002年1月29日生まれ、熊本県出身。中学時代はロアッソ熊本のジュニアユースでプレーし、中学卒業後は東福岡高校に進学。2018年にはU-16日本代表に選出され、AFC U-16選手権で2ゴールを挙げる活躍を見せた。昨年10月に鹿島アントラーズへの加入が内定。今季ルヴァンカップ初戦でプロデビューを果たした。MF。170cm、60kg




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