月刊サッカーマガジン 2020年 08月号 [雑誌]
明治安田生命J1リーグ第2節、アウェイの等々力陸上競技場で川崎フロンターレと対戦した。試合開始直後の前半2分に先制点を許したアントラーズは、30分に追加点を決められてしまう。それでも、2失点目の直後となる31分にコーナーキックから相手のオウンゴールを誘い、1点差に迫る。後半に入ると試合の主導権を握り、川崎Fのゴールに幾度となく迫ったものの、ゴールを奪うことはできない。再開初戦は1-2と悔しい敗戦に終わった。
フットボールが帰ってきた。
新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、2月25日に公式戦中断が発表されてから、4月7日にはトップチームの活動休止という苦渋の決断を強いられる。それから5月17日までの間、選手たちは自宅待機となり、個々でのトレーニングを余儀なくされた。
5月18日、ようやくグループトレーニングを再開し、その10日後には全体トレーニングを再開した。選手たちのコンディションやモチベーションの低下が懸念されたが、各々のプロ意識の高さにも助けられ、元のトレーニングに戻すまでそれほど時間を要さなかった。ザーゴ監督も再開後に集まった選手たちを「スーパープロフェッショナルの集団だ」と高く評価していた。
全体トレーニング再開後、数度のトレーニングマッチを行いながら公式戦再開へ向けて準備を進めていく。中断期間に怪我人が復帰したことで、チーム内の競争力はさらに高まった。同時に過密日程を乗り越えるための、チームの結束力、団結力も高まっていった。様々な変化に直面してもやるべきことは変わらない。チーム一丸となって勝利を目指す。
そして、迎えた公式戦再開の当日。キックオフ約2時間前にスタメンが発表された。
ゴールマウスはスンテが守る。最終ラインは、右から内田、犬飼、町田、永戸が入った。ボランチは三竿とレオがコンビを組み、サイドハーフは右に土居、左に和泉、前線はアラーノとエヴェラウドが2トップを務める。ベンチには、曽ケ端、広瀬、関川、永木、遠藤、伊藤、染野が座った。
等々力陸上競技場に両チームのサポーターはいない。選手入場も両チーム別々に行われた。
そして、試合前には医療従事者の皆様への感謝の拍手と、そして感染症によって亡くなった方々への哀悼の意を示すため、黙とうが行われた。
19時3分、川崎Fのキックオフで試合が始まった。
アントラーズは立ち上がりからボールを支配され、川崎Fに攻め込まれる。2分、相手コーナーキックからの流れで右から登里にクロスを入れられると、ゴール前でフリーになった谷口に合わせられ、ゴールネットを揺らされてしまった。オフサイドにも見えたが、試合開始早々、アントラーズは0-1とビハインドを背負う展開となる。
失点からわずか2分後の前半4分、再びアントラーズがピンチを迎える。右サイド深くまで進入されると、大島にクロスを上げられ、ゴール前でフリーのレアンドロ ダミアンにヘディングで合わせられた。だが、これは守護神スンテが左手一本でボールを弾き、ゴールマウスを守った。
開始直後の失点から立ち直りたいアントラーズだったが、ビルドアップの局面でコントロールミスが重なってしまう。効果的な攻撃は仕掛けられず、もどかしい展開が続いた。
すると30分、アントラーズは再び失点を喫してしまう。右サイドの家長にアーリークロスを入れられると、伸びたボールはファーサイドで待つ長谷川のもとへ渡る。ワントラップから放たれた長谷川のシュートは、サイドネットに突き刺さった。アントラーズは2点を追う苦しい展開となった。
それでも、アントラーズは失点直後の31分にチャンスをつくる。和泉が高い位置でボールを奪うと、ボールを受けたエヴェラウドがミドルレンジから思い切りよく右足を振り抜いた。強烈なシュートはゴールを襲ったが、相手に当たりコーナーキックとなった。
そして、このコーナーキックから得点が生まれる。32分、キッカーのアラーノがニアサイドに質の高いボールを入れると、相手選手のクリアミスを誘い、ゴールへと吸い込まれた。アントラーズが再び1点差に迫る。
今シーズン初得点を奪ったアントラーズは、ここから勢いづき、徐々に試合の主導権を手繰り寄せていったが、決定的なチャンスはつくれない。
そして、このまま前半は1-2のスコアで終了。アントラーズの1点ビハインドでハーフタイムを迎えた。
後半はアントラーズのキックオフで始まった。球際の激しさは時間を経過しても、落ちることはなく、一進一退の攻防が続く。
55分、アントラーズがチャンスをつくる。エヴェラウドが強引なドリブルで相手選手を剥がし、局面を打開する。ゴール前まで迫り、相手選手に囲まれながらもシュートを放ったが、惜しくも相手GKの好セーブに阻まれ、得点には至らなかった。
得点が欲しいアントラーズは、60分に内田にかえて広瀬を、土居にかえて伊藤をピッチへ送った。
さらに、67分にはアラーノと遠藤を交代し、72分にはレオ、和泉を下げて、永木、染野を投入する。
選手交代で試合の流れはアントラーズに傾いた。途中投入された遠藤を中心にボールが巡るようになり、徐々にアントラーズに攻撃のリズムがうまれていく。
すると85分、アントラーズに決定機が訪れる。遠藤が左サイドを駆け上がった永戸へピンポイントのパスを送ると、永戸はダイレクトでクロスを入れる。これが相手のクリアミスを誘い、こぼれ球を染野がシュートした。決定的な場面だったが、惜しくもクロスバーに阻まれ、得点には至らなかった。
疲労の色が見え始めた川崎Fに対し、アントラーズはさらに攻勢を強める。87分、左サイドから遠藤が入れた絶好のクロスに染野が反応する。うまく相手選手の間でボールを受けた染野だったが、胸トラップが流れたところを谷口に倒され、シュートすることはできなかった。
最後まで川崎Fのゴールを狙い続けたアントラーズだったが、同点に追いつくことはできず、このまま1-2のスコアで試合終了のホイッスルをきいた。
非常に悔しい敗戦だが、次戦は4日後と残された時間は少ない。気持ちを切り替え、ホーム札幌戦の勝利のみを目指して、準備を進めていく。
【この試合のトピックス】
・染野が公式戦初出場
入場者数
天候 曇のち晴、中風 気温 26.4℃ / 湿度 77.0%
ピッチ 全面良芝
主審 飯田 淳平
副審 五十嵐 泰之 大川 直也
第4の審判員 榎本 一慶
監督コメント
ハーフタイム
鹿島アントラーズ:ザーゴ
・攻撃でも守備でも慌てす、一つ一つの精度を高めていこう。
・守備の時は全体的にコンパクトな距離を保つこと。
・ミスを恐れず、後半立ち上がりから積極的に戦おう!
川崎フロンターレ:鬼木 達
・得点差を忘れて、もう一度立ち上がりから点を取りにいこう。
・アタッキングサードでの精度を高めて、積極的にシュートを狙っていこう。
試合後
鹿島アントラーズ:ザーゴ
試合の立ち上がりに失点をしてしまい、そこから相手の流れとなってしまった。再開初戦という中で、選手たちも緊張しており、失点によってさらに緊張してしまった。その後、徐々に流れを取り戻し、自分たちのいい流れになってきたタイミングで再び失点をしてしまった。前半の終わりごろから後半にかけていい流れになり、得点をするということを目指してプレーしていたが、追加点となるゴールを決めることができなかった。
Q.後半はいい流れで試合を進めることができていたが、前半からの修正ポイントは ?
A. 右サイドでの攻撃が機能していなかったので、広瀬を入れて右サイドの活性化を図った。 広瀬を入れたことによって、後半、右サイドからの攻撃が増えた。後半は我々が試合をコントロールしている状況だったし、何度も相手のペナルティエリア内にクロスやパスが入っていた。エヴェラウドを左サイドハーフに持っていくことで、左サイドも活性化させながら伊藤に中央で起点を作ってもらうという狙いを持っていた。なので、後半はチャンスが増えたのではないかと考えている。
Q.染野選手の評価は?
A.今日は少ないプレー時間だったが、決定的な仕事をしてチャンスを演出してくれた。いい才能を持っている選手だし、トレーニング中も要求したことに対して取り組む姿から意欲というものを感じる。これからしっかりと指導をしていき、計算のできる選手になって欲しい。
川崎フロンターレ:鬼木 達
さまざまな方のおかげで公式戦を再開することができたので、嬉しく思っている。幸先よく2点を取ることができたが、その後すぐに失点をしてしまった。そこで、相手の力を引き出してしまったと感じている。後半は厳しい時間が続いたが、その時間帯を耐えられたことはとてもプラスになった。
選手コメント
試合前
【三竿 健斗】
ここまで準備をしてきた。それをピッチで表現していくことが一番大事。自分たちのスタイルがどこまで通用するか、チャレンジしていかなければいけない。個々の場面で球際や相手よりも走り勝つことなど、基本的なところで相手を上回っていかなければ勝負には勝てない。まずは先に失点をしないことが、勝利に近づくポイントだと思う。
【犬飼 智也】
相手はボールを保持するのがうまいチーム。ボールを奪いに行く時、ブロックを敷く時の判断は大事になってくる。自分や後ろのポジションの選手がしっかりと声を出してやっていきたい。勝つために自分の120%の力を出し切れるようにプレーしていく。
【土居 聖真】
相手は攻撃的なチーム。メンバーは去年からほとんど変わっていない。毎年、楽しさもあり迫力のある攻撃をしてくるので、そこは警戒していかなければいけないポイントとなってくる。
【エヴェラウド】
チームとしてやるべきことをトレーニングでできている。川崎フロンターレは非常に難しい相手だが、全員が練習してきたことを試合で表現することができれば、いい形になっていくと思う。今までやってきたことをファン・サポーターの皆さんに披露していきたい。
【レオ シルバ】
まずは、守備を安定させることが必要になってくる。守備を安定させながら、攻撃に転じる時は、攻撃陣の手助けができるようなプレーをしていきたい。あとは、ミドルシュートなど、ゴールを決めてチームの手助けをしていく。そのようなプレーをファン・サポーターの皆さんにみせていきたい。
【曽ケ端 準】
徐々にコンデションはよくなってきている。現在の自分のコンデションとしては非常にいい状態にある。無観客ということで、指示の声は通ると思う。そこの部分ではプラスになってくる。厳しい戦いが続くと思うが、勝利を求めてみんなで戦っていきたい。
試合後
【内田篤人】
試合開始直後にあのような形で失点してしまい、少し気落ちてしまった。チームとしても、個人としても、もっとできるはずと感じている。準備してきたことが発揮できなかった。ただ、後半はボールを回して、押し込める時間帯もあった。悪い部分ばかりではなかった。
【染野 唯月】
監督からは、「自分でボールを受けて、自信を持ってプレーをしていけ」と言われてピッチへ送り出された。シュートをクロスバーに当てたシーンは、FWとして決めなければいけない場面だった。チームを助けることができなかったということがすごく残念だった。
◆2020明治安田生命J1リーグ 第2節(オフィシャル)