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2021年10月25日月曜日

◆鹿島アントラーズは「キレイなサッカーをしてもしょうがない」。希望をつなぐ背番号8の黒子の働きとは?【コラム】(フットボールチャンネル)






明治安田生命J1リーグ第33節、FC東京対鹿島アントラーズが23日に行われ、1-2で鹿島が勝利した。鹿島にとってAFCチャンピオンズリーグへの道が開かれる3位以内への道のりは厳しいが、希望をつなぐ勝利となった。鹿島の前線で身体を張る土居聖真は、黒子の働きでチームに貢献している。(取材・文:元川悦子)


「勝てない鹿島はいらない」


 常勝軍団・鹿島アントラーズにとって2021年はクラブ創設30周年という記念すべきシーズン。今季開幕前は「タイトル獲得」を大目標に掲げていた。

 しかしながら、物事はシナリオ通りには進まなかった。開幕から足踏み状態を強いられ、4月にザーゴ前監督解任という一大事が起きる。後を継いだレジェンド・相馬直樹監督が素早く立て直したかと思われたが、川崎フロンターレに引き離され、早々とJ1優勝の目がなくなった。

 YBCルヴァンカップも準々決勝で名古屋グランパスに破れ、残っているのは天皇杯だけ。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場圏内のJ1・3位以内も厳しくなりつつあり、クラブ全体が焦燥感を募らせている。

 こうした苦境にサポーターも苛立ちを隠せず、苦杯を喫した10月2日の前節・横浜FC戦後には「勝てない鹿島はいらない」という横断幕も掲示された。相馬監督らは厳しい現実をひしひしと受け止め、23日のFC東京戦まで3週間がかりで入念な準備を進めてきた。

「何が何でも勝つっていうことをやろう」と指揮官は選手を鼓舞し、この重要な一戦に挑んできた。

 FC東京も今季無冠が決まったとはいえ、長友佑都を筆頭に能力の高い選手が揃う集団。相馬監督は相手の出方を見つつ、シンプルに長いボールを多用する作戦を採った。前半18分には相手が攻め込んだ隙を逃さず、素早い逆襲に打って出る。ディエゴ・ピトゥカが持ち込んで上田綺世につなげ、ラストパスがゴール前の土居聖真へ。背番号8の左足シュートはGK児玉剛に阻まれたものの、効果的なシーンだった。


してやったりの先制ゴール


 土居は37分にも決定機に絡む。ファン・アラーノが出したパスに反応した上田綺世がシュートを放った瞬間、鋭い飛び出しを見せ、ゴール前に詰めていたのだ。が、ここでも中村拓海に寄せられ、コントロールしきれなかった。鹿島生え抜きの29歳のアタッカーは悔しさを募らせたことだろう。

 こうしたトライが前半アディショナルタイムの先制点につながる。右サイドの遠目の位置からディエゴ・ピトゥカが蹴ったFKにヘッドで合わせたのはアルトゥール・カイキ。「この2週間トレーニングで繰り返しやってきた形」とブラジル人FWはしてやったりのゴールで鹿島に1点をもたらしたのだ。

 こうなるとFC東京もギアを上げないわけにはいかなくなる。中村と長友の両サイドバックは仕掛ける回数が増え、アダイウトンが前線に出ていくシーンも目立ち始める。そんな相手にダメ押しの一発をお見舞いしたのが上田綺世だった。

 後半20分。相手からボールを奪い、ファン・アラーノ、上田、レオ・シルバとパスがつながる。右サイドを上がったファン・アラーノが再びパスを受け、前方に抜け出した土居に展開。背番号8は巧みなドリブルでジョアン・オマリの寄せをブロックしながらマイナスのクロスを入れた。ここに走り込んだのが背番号18。上田の右足シュートは青木拓矢にブロックされたものの、すぐさま左足を一閃。ゴールに流し込んだ。

 今季13点目を奪ったエースFWは嬉しそうに、次のようにコメントした。


チャンスを生む黒子の働きをしていたのは…


「僕はちょっと遅れてたんですけど、ファーにカイキが入ってくれたので、マイナスが空いた。右足で一発で決められれば一番よかったけど、いいところにこぼれたんで決めきれました」

 この後、FC東京の渡邊凌磨に1点を返され、2-1にはなったものの、上田の一撃が決め手となり、鹿島は2試合ぶりに勝利。ACL圏内に何とか希望をつなぐことができた。

 この一戦で特筆すべきなのは、決勝ゴールをアシストした土居の黒子の働きだろう。前半から彼と上田は繰り返し得点機を演出していたが、2人がいい距離感で前線をかき回したからこそ、FC東京守備陣に綻びが生まれたと言っていい。

「横浜FC戦からの準備期間に特に何かを詰めたということはないですけど、お互いの特徴を理解しているからこそ、息の合った部分を出せた。僕が推進力を持って背後に出るところを聖真君が生かしてくれた。前半、聖真君が外したシーンも、僕が縦に行くことを分かっていた。そういう動きをうまく利用してくれたと思います」と上田も背番号8との関係性に手ごたえをつかんでいる様子だ。

 今季の土居はリーグ全33試合出場のGK沖悠哉に次ぐJ1・31試合出場。ゴールは5点と上田や荒木遼太郎よりは少ないものの、神出鬼没な動きで敵を大いにかく乱している。この日も一瞬の飛び出しでゴール前に侵入するプレーで複数のチャンスを作っていた。

「聖真のいいプレスから決定的なスルーパスも出せた」とカイキも話していたが、彼自身の献身性とハードワークも今のチームには不可欠な要素に違いない。

 加えて言うと、彼はアカデミー出身で、生え抜きの年長者。小笠原満男、内田篤人といったレジェンドたちとともに戦い、強い時代を経験した数少ない存在だけに「常勝軍団の伝統を守らなければいけない」という意識は誰よりも強いはずだ。


「キレイなサッカーをしていてもしょうがない」


 2020年8月の内田の引退試合の際にも「篤人さんも先輩たちの背中を見て育って、それを表現して鹿島に還元してくれていたと思いますし、本当に僕もずっと身近で肌で感じて、行動や言動、すごく心に響く言葉をたくさん見たり聞いたりしてきました。鹿島の先輩たちの姿というのは受け継がれていると思います」としみじみと語っていた。

 偉大なレジェンドからクラブの未来を託された人間が前節・横浜FC戦後に掲示されたサポーターの横断幕を間に当たりにしたら、危機感を覚えないわけがない。

「それが素直なサポーターの感情。変えられるのは僕ら選手。まずは自分たちが勝たないといけない。どんなにキレイなサッカーをしていてもしょうがない」。上田は全員の思いを代弁していたが、土居はそれをピッチで体現しようとゴールに突き進んでいた。

 飽くなき闘争心と勝利への渇望がFC東京撃破という形で結実したのは朗報だ。が、彼らには重要な戦いが残されている。27日には今季唯一、残されたタイトル・天皇杯のかかった川崎戦が控えているし、J1の3位以内を巡るリーグ終盤5戦もある。24日に第33節が行われる3位・ヴィッセル神戸、5位・名古屋グランパスに比べると鹿島の置かれた状況は厳しいが、かすかな可能性を信じて勝ち星を積み重ねていくしかない。

 昨季も最終節でセレッソ大阪に勝てず、ACL出場を逃している。その苦い経験を年長者の土居は忘れてはいないはず。だからこそ、前線のリーダーとして若手や外国籍選手たちをけん引しなければならない。

 背番号8の本当の戦いはここからだ。


(取材・文:元川悦子)


◆鹿島アントラーズは「キレイなサッカーをしてもしょうがない」。希望をつなぐ背番号8の黒子の働きとは?【コラム】(フットボールチャンネル)





◆【鹿島】アルトゥール・カイキのゴールは「助け合って形にしていく」の象徴。陰のアシストでも貢献!(サッカーマガジン)






鹿島アントラーズに自信を与えたのは、前半アディショナルタイムの先制ゴールだ。明治安田生命J1リーグ第33節のFC東京戦。目標の3位入りには負けられない一戦で、落ち着かない前半のラストにアルトゥール・カイキがヘッドで決めた。追加点にも絡んで、勝利の主役になった。


■2021年10月23日 明治安田生命J1リーグ第33節(@味スタ/観衆11,172人)
FC東京 1-2 鹿島
得点者:(F)渡邊凌磨
    (鹿)アルトゥール・カイキ、上田綺世


強調するのはトレーニングの成果


 不格好でも勝ち点3を持ち帰る。その一点で鹿島アントラーズはまとまっていた。その意欲の塊を、アルトゥール・カイキがゴールという形にしてみせた。

 J1第33節、FC東京とのアウェーゲーム。目標の3位をもぎ取るためには負けるわけにはいかなかった。序盤から前線にどんどんボールを送り込む戦いになって落ち着きがなかったが、前半のアディショナルタイムに右サイドでFKを得た。キッカーはディエゴ・ピトゥカ。左利きだからゴールに向かうボールを蹴ってくる。

「この2週間、トレーニングする期間があった中で、繰り返しやってきたものが形に表れたと思います。ゴールに向かうインスイングのボールを(ファン)アラーノ選手と(ディエゴ)ピトゥカ選手が練習してきて、ピトゥカ選手から良いボールが上がってきました。自分もタイミングよく入り込むことができたと思うので、ゴールにつながったと思います」

 滞空時間の長いキックに合わせてやや遅れて動くと、フリーになっていた。相手に捕まらない絶妙のポジションに入って、確実にヘッドでゴール右に送り込む。7試合ぶりのゴールがうれしい先制弾になった。相馬直樹監督の言葉を借りれば、「​​勇気をもらえるゴール」だった。

 ところでこのFKは、アルトゥール・カイキが右サイドで組み立てに絡んで、縦パスで走らせた常本佳吾がファウルを受けて得たものだ。キックオフのときのオリジナルポジションは左サイドハーフで、このときは右サイドハーフのファン・アラーノと入れ替わっていた。

「ディフェンスに入る前のプレーで、逆サイドまで展開して自分が関わる形は試合の中で起こり得る。それは僕だけじゃなくほかの選手も、何をやらないといけないかをみんな理解しています。例えば、土居(聖真)選手は中でプレーしていたんですけど、サイドに流れる機会があれば、自分たちは暗黙の了解でポジションを入れ替えるということをやっていました。チーム一丸となってトレーニングしたことが形となって表れたと思います」

 追加点となった65分の上田綺世のゴールの場面では、今度は左サイドで「アシスト」している。カウンターで右サイドを突き進む間に、アルトゥール・カイキは左から一気にゴール前に迫った。上田は「カイキがファーに入ってくれたので、マイナスが空きました」と、相手の意識を自分からそらせてくれたからフリーで打てた。その陰の貢献に感謝したのだった。

 そしてもう一度、アルトゥール・カイキはトレーニングの成果を強調するのだ。

「この2週間、トレーニングを積む期間があって、良い形で結果につながりましたし、この試合もほかの試合と同様に、積み重ねていく試合の一つだと思います。チームとして3位以内に入るという目標を掲げている中で、大きな1勝だと思います。今後もこれを継続していくことが大事だと思いますし、ピッチ内で助け合って形にしていく作業を継続していくことが大事だと思います」

 助け合いの象徴としてのゴールと陰のアシスト。3位の座はあきらめない。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE


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