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2022年8月23日火曜日

◆鹿島アントラーズが上を目指すには? 三竿健斗と鈴木優磨だけではキツイ。「チャンピオンになるチームというのは…」【コラム】(フットボールチャンネル)






明治安田生命J1リーグ第26節、湘南ベルマーレ対鹿島アントラーズが21日に行われ、1-1の引き分けに終わった。前節、鹿島は新体制初陣を勝利で飾ったが、今節は残留争いに巻き込まれつつある相手に苦戦。常勝軍団がさらに上を目指すためには、何が必要なのだろうか。(取材・文:元川悦子)


難敵に苦しんだ鹿島アントラーズ


 岩政大樹監督率いる新体制で8月14日の初陣・アビスパ福岡戦を2-0で勝利し、好発進した鹿島アントラーズ。だが、その勢いを持続しなければ意味がない。21日の相手・湘南ベルマーレはJ1残留争いに巻き込まれつつある分、危機感も闘争心も強い。しかも13日の横浜F・マリノス戦が台風で流れた分、鹿島対策を入念に行う時間があった。それだけに、鹿島にとって難しい相手なのは間違いなかった。

 新指揮官は前節を踏襲したメンバーを送り出した。入れ替わったのは出場停止のディエゴ・ピトゥカら3枚。今回は最終ラインに安西幸輝、三竿健斗が入り、ボランチも中村亮太朗が陣取る形となった。

「相手は背後へのボールを徹底してきた。特にサイドバック(SB)の背後へほとんど全てと言っていいくらいボールを入れてきた。自分たちも前進していきたかったので、セカンドボールを拾いやすい状況を作る準備をした」と指揮官は試合後に語ったが、そういった湘南の戦い方を事前にイメージし、選手たちに提示。そのうえでゲームに挑んだ。

 しかしながら、この日の鹿島は序盤からデュエルで負ける部分が目立ち、思うようにボールを拾えない。開始早々の8分には土居聖真が惜しいゴールチャンスを迎えたものの、得点の匂いが感じられたのはこのくらい。45分間通してバトルの部分で後手を踏み、ボールを奪われ、攻め込まれるという苦しい時間帯を余儀なくされた。


新監督がみせた対応策


「自分たちが準備してきたこと以前に、局面局面の球際の部分で負けていたり、セカンドボールの反応や予測がチームとしてできていなかった。当たり前のことをやって初めて戦術のことを話せる。ベルマーレとやる時はいつも物凄い熱量で向かってくるので、そこで上回らないといけなかった」と三竿も反省の弁を口にした。
 
 前半のデータを見ても、支配率こそ52%と相手を上回ったものの、シュート数は7対3と少なく、パス成功率も68%台。それだけミスが多かったということになる。理論派の岩政監督も停滞感を色濃く感じたはず。すぐさま修正を図るべく、後半頭から和泉竜司、エヴェラウド、キム・ミンテの3枚を投入。三竿をボランチに上げて樋口雄太と組ませ、鈴木優磨とエヴェラウドのコンビを最前線に配置することで主導権を握ろうと試みた。

 的確な対応が奏功し、後半の鹿島は多少、流れがよくなかった。後半8分には安西が左サイドから強引なシュートを放つなど、ゴールへの姿勢も増していく。そして迎えた14分、右サイドで和泉が畑との競り合いからセカンドボールを保持したところからビッグチャンスが生まれる。

 和泉からパスを受けたエヴェラウドがDFをかわし、背後を抜けた樋口へパス。次の瞬間、リターンを受け、左足を一閃。数少ないチャンスを決めきり、先制点を手に入れたのだ。

「相手より走るとか球際で勝つとか根本的な部分でずっと湘南に優位に立たれてきたけど、得点のところはそこで取りきってゴールにつながった」と和泉も安堵感を吐露した。


三竿が試合後に嘆いたのは…


 こういう展開になったのだから、鹿島としては虎の子の1点を守りつつ、攻めに出てきた相手の裏を取って追加点を挙げるような形に持ち込みたかった。伝統的に「ウノゼロ勝利」を得意とするチームだけに、そのDNAは鈴木優磨や三竿ら鹿島在籍年数の長い選手たちには刻み込まれていたはずだ。

 にもかかわらず、彼らはワンチャンスから失点してしまう。後半29分の湘南の右CK。茨田陽生の精度の高いボールをファーサイドで大野和成がヘッドで折り返し、ニアで合わせたのが瀬川祐輔。序盤から再三決定機を逃していた背番号13にフリーで飛び込まれ、鹿島守備陣としては致命的な1点を献上してしまった。

「セットプレーで同点にされるっていうのは弱いチーム。それが今のウチを表している。内容が悪い中でも勝ち点3を取れていたらまた違ったけど…」と鈴木優磨も神妙な面持ちで語っていたが、勝負どころで守り切れない脆さを彼らは露呈してしまったのだ。

 結局、試合は1-1のドローでタイムアップの笛。鹿島は新戦力・エレケを投入し、もう1点を取りに行ったが、それも実らなかった。岩政体制初の連勝も叶わなかったが、やはりそれ以上に気になるのがデータだ。

 支配率は最終的に48%と下回り、シュート数も14対5と大差をつけられた。パス成功率は前半より若干上がって70%まで回復したが、走行距離やスプリント回数でも湘南に凌駕される形となった。そういう苦しい内容と結果を招いたのも、やはりデュエルや競り合いの部分で勝ち切れなかったからだろう。

 自身も失点に絡んだ三竿は、自分たちの「サッカーIQの低さ」を嘆いていた。


タイトル奪還に必要なものとは…


「今の僕らはピッチで判断する力がまだまだ足りない。1人がこうだと考えても、周りが反応しなかったら、その考えはないに等しいんで、もっとサッカーIQを上げないと。用意してきた戦いができないんだったら、自分たちで応用していかなきゃいけない。チャンピオンになるチームっていうのはいろんな戦い方ができる。それをこれから身に着けていかないといけないと思います」

 三竿が自戒の念を込めてこう話すのも、2018年にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)制覇を果たした頃のチームを知っているからだろう。当時は小笠原満男(アカデミー・テクニカルダイレクター)を筆頭に経験豊富な面々がいて、臨機応変に戦い方を変えることができていた。賢さや判断力というのは紛れもなく常勝軍団の強みだった。

「常に考えてはやっていますけど、それが優磨や僕だけだとキツイ。今は真面目な選手が多いですけど、いやらしさとか相手が嫌なプレーが何なのかを考えながらやらないと、今の時代のサッカーは勝てない」と彼は改めて強調していた。

 岩政監督は徹底した分析を踏まえて勝利への最短距離を導き出せる指導者だが、それを選手が忠実に遂行するだけではタイトルは奪還できない。その厳しい現状を再認識したうえで、鹿島は前に進んでいくしかない。27日の次節・川崎フロンターレ戦まで時間は限られているが、まずは球際やハードワークという原点に立ち返り、個々が戦える集団にならなければいけない。今こそ選手たちの自覚が問われる。

(取材・文:元川悦子)




◆鹿島アントラーズが上を目指すには? 三竿健斗と鈴木優磨だけではキツイ。「チャンピオンになるチームというのは…」【コラム】(フットボールチャンネル)


◆充実の日々を送る鹿島CB関川郁万。“初めての経験”で掴んだ手応え。「タイトルを取れればもっともっと成長する」(サッカーダイジェスト)






昨季は13試合止まり。今季はすでに24試合


 野心に溢れた眼と闘争心に満ちた表情は昔と何も変わらない。9月には22歳を迎える鹿島のCB関川郁万が充実したシーズンを送っている。

 8月21日に行なわれたJ1第26節の湘南ベルマーレ対鹿島アントラーズの一戦。上位に位置する鹿島は岩政大樹体制となって2試合目で、優勝争いに踏み止まるためには前節に続いて勝利が必要な試合だった。しかし、1-0で迎えた74分にCKから瀬川祐輔に同点ゴールを献上。1-1で勝点1を分け合う結果となった。

 最終ラインを束ねる者としては、リードを守れなかったのは痛恨の極みだろう。CBのポジションでフル出場を果たした関川は試合後、悔しさを言葉に込めながら湘南戦を振り返った。

「セカンドボールを拾う回数が少なかったので、押し込みに行く場面やそういった時間帯に自分たちの流れで行けなかった。(得点も)自分たちの力ではなく、相手のミスでのチャンスでしたし。ミスを突けたのはいいけど、もっと意図したボールの運び方をしないといけない。大樹さんからも提示はありましたけど、もっとやっている選手が試合の流れを見てやっていかないといけないと感じます」

 個人としては、高校時代から武器とする競り合いの強さを示した一方で、ビルドアップやフィードでは課題を残す内容だった。鋭い縦パスを入れる機会は限られており、攻撃の出発点としては改善すべき余地が少なくなかった。

 だが、そうした課題を感じられるのも試合に出続けているからこそ。昨季は13試合しかリーグ戦に出場できなかったが、今季はここまでリーグ戦26試合中24試合に出場し、そのほとんどがスタートからの起用となっている。

 試合を重ねるごとに成長の跡を示している。「初めての経験なので難しさは感じます。身体の疲れもそうですし、今年は特に過密日程になっているので、キツさもあって、違う大会もあって、非常にタフ」と言いながらも、大きな手応えも掴んでいる。

「今季はシーズンを通じて試合に出られていて、自分にとって悪いプレーもありながら、成長できている実感は少なからずある」


悔しさを噛み締めつつ、次の試合に目を向ける




 レギュラー格としてピッチに立っていなければ、今の関川はないだろう。昨季はポジションを掴めそうで掴めないシーズンだった。出場機会を得ても、次の試合では外から戦況を見守るケースもしばしば。「去年は試合に出られていないことが多かったので、何をしてもダメだったし、何をしたらいいのかが分からない状態で過ごしていた」とは関川の言葉。試合で得られた収穫や課題を即座に活かせず、なかなか成長スピードを上げられなかった。また、コンディションが良かったとしても、試合に出られない日々に頭を悩ませる時もあったという。

「パッと試合に使われて(上手くいかなかった)……。大樹さんも言っていましたけど、自分が良い状態の時にチャンスが来ないというのは、こういうことだとも思いましたし」

 ただ、そこで腐らずに取り組めるのが関川の良さでもある。難しい状況に置かれてもトレーニングに励み、苦手なフィードやビルドアップの改善にも取り組んできた。そうした努力が身を結び、背番号5に変更となった今季はレギュラーとして活躍する。

 開幕戦では脳震盪の影響で45分の出場に留まり、続く2節もパフォーマンスが上がらずにハーフタイムで交代となったが、その後は持ち直してポジションを明け渡さなかった。継続して試合に絡んでいる点は昨季の経験があったからこそで、思うようなプレーができなかったとしても次に繋げているのは成長の証だろう。

 湘南戦後の表情を見ても、ドロー決着の悔しさを噛み締めつつ、次の試合に目を向ける姿が印象的だった。話す言葉も高校時代やルーキーイヤーと比べて、大きく変わってきたように思える。当時はうまくいかないと感情が表に出たり、言葉にも表われていたが、落ち着いた振る舞いで振り返りができるようになった。プロサッカー選手として一人前になりつつある関川は現状と向き合いながら、さらなる飛躍を誓う。

「充実したシーズンになっている。ここでタイトルを取れれば、もっともっとチームとしても個人としても成長するし、チームがより良くなるのでもっとやっていきたい」

 岩政新監督のもとで羽ばたけるか。高校時代から将来を嘱望されてきた守備者が“本物のCB”になるべく、残りのシーズンも全力を尽くす。

取材・文●松尾祐希(フリーライター)