「センターフォワードよりも自分に合ってる部分もある」
現地時間2月19日に行なわれたサークル・ブルージュ対クラブ・ブルージュのダービーマッチ。2017年には日本代表がベルギー代表と対戦したヤン・ブレイデル・スタディオンは、試合開始前から発煙筒が焚かれ、凄まじい熱気に包まれた。
ここまで25試合を終えて、8位とプレーオフ(PO)圏内につけているサークル・ブルージュとしては、宿命のライバルに勝利し、より上の位置に浮上する足掛かりを築きたかった。
ベルギー移籍1年目ながら、早くも10ゴールをマークする上田綺世は3-4-2-1の左シャドーで先発。立ち上がりから凄まじいハイプレスをかけに行き、ボールを奪おうとする。そして開始5分には、右CKの場面でヘディングシュートを狙う。これは惜しくも得点には至らなかったが、ゴールへの鬼気迫る思いが如実に出ていた。
直後には左サイドからのドリブル突破で、対面に位置する相手の右サイドバックのデニス・オバイを抜き去る果敢な仕掛けを披露。最前線を主戦場にしていた鹿島アントラーズや日本代表ではあまり見せたことのない局面打開にも意欲的に挑み、プレーの幅を広げていることが窺えた。
「最前線じゃない分、新しい自分の武器とか、求められるタスクの種類が違ったりしている。守備面もそうだし、攻撃も含めて、センターフォワードよりも自分に合ってるような部分もあるのかなとも感じてはいます。
それでも僕は『センターフォワードをやりたい』というジレンマを抱えながら、今季プレーしてきました。そういうなかで、『自分じゃなきゃできないオリジナリティ』をどう新しいポジションで作っていくかをずっと考えて取り組んできた。動き出しや攻撃性といった部分にはこだわりを持ってやってきました」と上田は語っていたが、もがきながらも2シャドーの一角に陣取る自分に磨きをかけている様子だ。
その後、サークル・ブルージュは相手に一瞬で背後を突かれて、VAR判定の末に失点。前半を0-1の劣勢で終えると、後半開始直後にケビン・デンキーが同点弾をゲット。これでリズムを取り戻したが、再び1点をリードされてしまった。
「2失点目の後、少しメンタル的にも疲労感がどっと表われた時間帯があった」と上田も話したが、彼は闘争心を持ち続け、攻守両面で献身的なプレーでチームを引っ張る。その姿勢が奏功し、78分にリスタートからティボ・サマーズが同点ゴールを奪う。
上田自身はその後、決勝点を挙げるチャンスが何度かあったが、この日は欲しいポイントでラストパスをもらえない場面が多く、残念ながら無得点。チームも2-2のドローに持ち込むのが精一杯だった。
「今日は確かになかなかボールが来なかったのはあります。9番(デンキー)にも『ニアに釣ってくれれば、左にいる自分がフリーになるから』と話したりするし、(マイロン・ムスリカ)監督も言ってる。自分はそれを言いつつやりつつ、日々トライしています。そういう作業を7、8か月続けてきて、少しは僕の考えも浸透してきたのかなと感じます。
このチームはそこまでテクニカルじゃないし、見た通りの蹴って走ってっていうスタイル。そこで活躍できることに価値があると思う。僕は『どういう環境に行っても点を取るのが理想』とずっと言ってますけど、チーム事情とか環境とかを言い訳にせず、結果を出すというのを追い求めています」と本人はどこまでも前向きだった。
「結局のところ、やっぱり点を取るのが一番信頼される」
“ブルージュ・ダービー”で得点に絡む仕事はできなかったものの、今季の上田はすでに二桁得点を奪っている。リーグ戦で8試合を残した段階でこれだけの数字を挙げるというのは、賞賛に値すると言っていい。
「僕自身は特に何も変化していなくて、常に自分の感覚のアップデートをしている結果だと思います。シャドーのスタイルっていうのは僕にはよく分からないし、セオリーを知らない。セオリーは分からなきゃいけないんですけど、自分にとって未知な部分がたくさんあって、それを勉強しながら、ここまで来ています。
例えば、センターフォワードだったら、どこで力を抜くかを考えながらメリハリをつけるというセオリーが僕の中にありますけど、今のポジションだとそれがない。自分の中で常に駆け引きしながら、守備やマークを良い意味でサボりながら、どのくらい前に力をかけられるかを模索し続けています。
ただ、結局のところ、やっぱり点を取るのが一番信頼される。攻守両面で貢献しつつも、そこにこだわっていくのが大事。『ここで自分が出せる』と思った時にエンジンをかけたことが噛み合って、1、2月の3試合連続ゴールも生まれたのかなと思っています」
1つ1つのプレーを熟慮し、自分なりに納得したうえで、貪欲にチャレンジを続ける上田。彼が初挑戦の異国で進化を続けられるのは、こういった思慮深さと積極性を持ち合わせているからだろう。
彼自身の中では「センターフォワードをやらせてもらえない自分」に対してのもどかしさや苛立ちはもちろんあるというが、この経験も必ず先々に活きてくるはず。もともと多彩なシュート力には定評があったが、それ以外にも仕掛けやチャンスメイク、前からのハイプレスなど様々なタスクをこなせるようになれば、欧州5大リーグへのステップアップや日本代表での定位置確保も見えてくるのではないだろうか。
「『移籍1年目でこの結果』とか『このチームで二桁』とかよく言われるんですけど、自分はそれ以上に決定機を外している。多分、外してきた決定機は50個くらいはあると思う。そういうのを沈めていくのと同時に、もっともっと数字を伸ばしていくのはできるはず。そう考えて、常にゴールを目ざしてやっていきます」
自分に甘えを許さず、常に厳しさを持って上田は前進を続けていく。そんな彼の未来はきっと明るいはずだ。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
◆最前線に入れない悔しさを糧に、2シャドーの一角で数字とプレーの幅にこだわる…ベルギー移籍1年目、上田綺世の今【現地発】(サッカーダイジェスト)