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2017年2月25日土曜日

◆鹿島・石井正忠監督が明かす、 クラブW杯「準優勝」の舞台裏(Sportiva)


石井正忠監督(鹿島アントラーズ)インタビュー(前編)

 昨季はJリーグ1stステージ及び年間優勝を飾り、天皇杯も優勝。クラブW杯では決勝でレアル・マドリードに敗れたものの見事な戦いを見せた鹿島アントラーズ。今季もゼロックススーパーカップを制し、AFCチャンピオンズリーグ初戦で蔚山現代を下すなど、滑り出しから好調だ。その強さの秘密はどこにあるのか。Jリーグ開幕直前、石井正忠監督に聞いた。

――昨年終盤の快進撃はお見事でした。その要因は?

「クラブW杯であのような成績(準優勝)を収めることができたのは、チャンピオンシップからの流れが大きかったです。セカンドステージの最後、4連敗しましたが、ラスト2試合の内容はすごくよかった。上向いているという感触を、その時点でつかむことができていました」



――むしろ、いい感じでチャレンジャーの立場に回れましたね。

「チャンピオンシップのトーナメントも、端からの(3位からの)勝ち上がり。クラブW杯もそうした形。確かにその辺もよかったのだと思います。セカンドステージは成績が出なくて、僕自身、いったんチームを離れました(8月末、4日間休養)が、それもきっかけとしてあると思います」

――ファーストステージ優勝。セカンドステージは一転して低迷(11位)。世間の声は耳に入ったと思います。

「ファーストステージで優勝して、チャンピオンシップへの出場権を得ました。セカンドステージの成績がどうであろうと、勝ち点がどうであろうと、チャンピオンシップの勝者が、Jリーグのチャンピオンになるというレギュレーションですから、それに従っていけばいいのだと」

――セカンドステージは、選手をたくさん起用していました。

「それは常に意識していて、可能性を広げようと、複数のポジションをこなすことができるような練習をしてました」

――それはファーストステージ優勝という貯金があったから?

「そのような予定を立て、計画通りうまく進むと期待していたんですが、実際には途中でチームに一体感がなくなってしまい、立て直しにずいぶん時間を要しました。でも、それが、最後の最後に生きたと思います」

――石井監督の監督観についてですが、監督というイメージはどこから来ていますか。

「おこがましいですけど、オズワルド・オリベイラ。選手のモチベーションの高め方がうまく、スタッフにもやりがいを感じさせていた監督です。僕が現役時代の時は、ジョアン・カルロス。日本人選手とブラジル人選手とを区別なくフラットな目で見てくれる監督でした。

 僕個人としては、押しつけたり、教え込むというのではなく、選手の能力を最大限発揮させるためには何をすればいいかに主眼を置いています」

――目指しているサッカーの中身とは?

「まずは守備の安定です。1点取られても、我慢し同点に追いついてしまえば、逆に相手は焦り出す。試合をコントロールできるはずだと。自信は、試合をやるごとについていきました。特に、守備の面で落ち着いた対応ができていた。Jリーグの最後の2試合でそれができて、チャンピオンシップまでの間にもう一回徹底させたんです。再度、守備の安定を図った。結果的にそこがよかったかなと」

――相手ボールの時に強かった印象があります。監督の現役時代のポジションは守備的MFでしたね。

「選手時代は、実は自分からボールを奪いにいくタイプだったんです。インターセプトを常に狙っていました。前へ出て奪う楽しさを知っているので、鹿島もそうしたチームにしたいんです。でも、勝利を前提に考えると、クラブの伝統を引き継ぎ、しっかりとした守備から入りたい。それでいながら、やはり自分たちから積極的にボールを奪いにいく。僕はこのスタイルをどんどん積み重ねていきたい。監督が僕に代わってから、前からのディフェンスは、意識できてきていると思うんです」

――昔の鹿島とはちょっと違いますね。堅守と言われますが、後ろでじっと守るイメージは薄い。鹿島のルーツはブラジルにあると思いますが、プレッシングという意味でヨーロッパ的。他のJリーグのクラブに比べると、それはより鮮明になります。

「そこを見てもらえているというのは僕は嬉しいです。クラブW杯でも、強い相手にただ引くのではなくて、自分の方からも奪いにいくという姿が大勢の人に伝わったから、喜んでいただけたのかな、と」

――レアル・マドリード戦のボール支配率は61対39。かつてサントスがバルセロナと戦った時が71対29(2011年、結果は4-0でバルサ)で、そうなったら絶対に勝てない。見てる人もつまらないだろうなと思います。ですが、最初の何分かを見て、これは期待できる、いけるかもしれないと閃(ひらめ)きました。よく引きませんでしたね。一歩間違えば、大敗もあり得るというのに。

「それでも打ちに出ていった。そこが嬉しかったです。決勝だから強気にいけたこともあります。ミーティングでも『相手を引き込むんじゃなくて、自分たちのスタイルを最後まで貫こうよ』って話しました。

 まず、クラブW杯に臨むにあたり最初に話したのは、『4試合戦おう』ということでした。で、さらに『4試合勝つ』。ミーティングの最後に、クラブW杯のトロフィーを写真で見せて、『これを獲りにいこうよ』と。それが、試合が進む中で『現実味を帯びてきたね』という話も出てきて、決勝に進む頃には全選手が疑いなくそちらを向いていた。

 もうひとつ、『鹿島はJリーグ発足の10チームに入ることが当初、”99.9999”パーセント不可能と言われたクラブだった』と、その経緯を示すYouTubeの映像を見せたんです。当時の川淵(三郎)チェアマンが出演した番組なんですけれど、その画面の右上に、小さい番組のサブタイトルが入っていたんです。『日本のサッカーが世界一になる日』。前日、その映像を見てそれに気がつき、思わず鳥肌が立っちゃって、これは選手に見せないわけにいかないとなり、『20何年前のこの映像に”日本が世界一になる日”って書いてあるよね。これってまさに、我々の明日の姿じゃないか』という話をしました」

――それにしてもあのような展開になるとは。

「でも、絶対に勝てない相手とは思っていませんでした。僕はバルセロナが好きで、バルサのようなサッカーがしたいなと思って試合を結構見ているのですが、それだけに、バルサにはカウンターで得点は奪えても、徹底的に繋がれて、結局は前の3人にゴールを獲られちゃうんだよな、というイメージしか抱くことができません。ですがレアルには、普段あまり試合を見てない分、そうしたイメージが湧いてこなかったんです」

――日本人はバルサの方がやりにくいのではないでしょうか。戦い方に差があるイタリアやチェルシーのようなチームは、バルサの方がやりやすいけど、日本人はよくも悪くも、何となくあのテイストを持ってしまっていて、同系列でしょう。

「似てますよね。似た部分の競い合いになると絶対に勝てない。ほんと、そう思います。もし相手がバルサだったら、その前に嬉しくて舞い上がってしまっていたかもしれませんが(笑)」

――レアルの方がズレが狙えそうな。

「点を取れるかもしれないと、ちょっと期待が持てたんです、イメージで。失点はするけど、点を取ることはできる。ディフェンスに隙はあるなと感じたので。やられるだけというイメージはなかったです」

――バルサはボールを取り返すのが速い。それが高い支配率の源だと言われます。

「そうなんです。そこがすごいところ。そういう意味では、うちは前線の選手も守備意識は凄く高いし、切り替えも速い。あの奪い方をうちも目指して、実践していきたいです」
(つづく)

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