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2019年9月21日土曜日

◆1年半前倒しでプロ入り。 上田綺世がアントラーズ行きを決断した真相(Sportiva)






【中古】 鹿島アントラーズあるある /藤江直人(著者),高江りゅう(その他) 【...


東京五輪を目指す若きフットボーラーたち(7)
鹿島アントラーズ・上田綺世@後編


 5つの質問をもとに”ストライカー上田綺世”の本質に迫った前編に続き、後編も引き続き、この生粋の点取り屋の思考法について探った。

 シュートを打つ瞬間、果たしてその頭の中には、どんなイメージが描かれているのか……。また、なぜプロ入りのタイミングを1年半早めたのか、なぜ鹿島アントラーズだったのか。この夏に下した決断の真相についても訊いた。

―― 5つの質問の最後で、「なり代わってみたいFWはいない」ということでした。もちろん、あり得ない話ですけど、憧れていたガブリエル・バティストゥータ(元アルゼンチン代表)やフィリッポ・インザーギ(元イタリア代表)の頭の中をのぞいてみたいとも思わない?

上田綺世(以下:上田) 思わないですね。彼らもそうだと思いますよ。自分のスタイルで、それぞれやっているわけですから。たしかに憧れはあります。でも、ああなりたいとかは思わない。彼らから学びながら、自分のスタイルを作ってきただけなので。

 もちろん、クリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)みたいにパワフルなスタイルでやれればいいですけど、僕にあれはできない。それでも同じくらい結果を出すにはどうすればいいか考えた結果、自分は今のスタイル、動き出しとヘディングと運で勝負していくスタイルに行き着いた。

―― 佐藤寿人選手(ジェフユナイテッド市原・千葉)もかつて、自分は考えて点を獲るタイプだと言っていました。インザーギのプレーを相当研究して、動き出しやマークの外し方、ゴール前への入り方を学んだと。上田選手も、ゴールはロジックとインテリジェンスで取るものだという考えがある?

上田 ありますね。FWをやっている人ならわかると思うんですけど、賢くないと点は獲れない。黒人選手くらいの身体能力があれば、ゴール前に突っ立っているだけで獲れるかもしれないけど、僕ら日本人選手は常に考えながら、相手と対話しながらプレーしなきゃいけないと思います。

 身体能力を生かすも殺すも、頭次第。僕は自分の身体能力を生かすためのスタイルを選んでいるつもりです。逆に言えば、自分が生きないスタイルは一切選ばない。ドリブルしなきゃいけないようなポジショニングはしない。スピード勝負や高さ比べ、その先のワンタッチで決めるところに自信があるので、そのスタイルを磨いているつもりです。

―― プロ入り後の初ゴールもワンタッチでしたが、あれは理想的?

上田 そうですね。いつだったか忘れましたけど、自分のなかで、「FWがドリブルをする時代は終わった。今はワンタッチで点を獲る時代だ」と思ったことがあって。クリスティアーノ・ロナウドも(マンチェスター・)ユナイテッドにいた頃は、ドリブルで2人、3人をかわしてミドルシュートを打っていたけど、(レアル・)マドリーに移ってからは、ポジションも前になって、ヘディングとかワンタッチでどんどんゴールを獲るようになっていった。

 やりながら自分のスタイルを変えられるのはすごくて、僕はそんな器用なことはできないから、ひとつのことを極めていく。ワンタッチなら海外でも通用する、ワンタッチにこだわってやっていこうと思った時期がありましたね。

―― でも、そこまでワンタッチにこだわると、チームメイトやチームに大きく左右されるというか、押し込まれた展開の場合、ほとんどノーチャンスになってしまう。それでも楽しめている?

上田 楽しめるというか、そういう時こそ、考えています。疲れた時やチームの状況が悪い時に、「じゃあ、点が獲れないんですか?」っていう自問自答を、試合中ずっとしていますね。

―― なるほど。「この厳しい状況で、どう獲ってやるか」と。

上田 はい。一方的に押し込まれて、ワンサイドゲームの末に0-0で終えられたら、チームとしてはもしかしたら、「よしよし」ってなるかもしれないですけど、FWがノーゴールで終わったことを「よしよし」なんて思っていたら、失格だと思う。

 それでも1点もぎ獲って、1-0でチームを勝たせるのがFWの役目。どれだけ押し込まれてもワンチャンスを作り出すのは、FWに必要な能力だと思います。結局、点を獲る選手は、チャンスを作る能力に長けているんですよね。ゴールのほとんどがペナルティエリアの中で生まれている。

―― そのなかで何回、シュートチャンスを作れるか。

上田 その確率は気にしていないですけど、回数は気にしています。1試合に1回チャンスを作って、それを必ず決められればいいですけど、そんな選手はいない。毎試合、必ず5回のシュートチャンスを作って、0点の時もあるけど、2点の時もある。そんな選手は絶対に価値がある。

 だから僕は、チャンスを作る力があるかどうかが、点を獲る力に結びつくと思っている。(コパ・アメリカの初戦の)チリ戦ではシュートを山ほど外しましたけど、あれだけのチャンスを作る力は身についているな、と実感できたので。あとは決めるだけ。その最後の部分が、世界で戦うストライカーとして足りないなって感じました。

―― たとえば、チリ戦では柴崎岳選手(デポルティーボ)のクロスをファーサイドでどんぴしゃりのボレーで捉えたのに、外してしまった。これまでのサッカー人生で、ああいうボレーは山ほど決めてきたと思いますが、あのシチュエーションで決められなかったのは、あの舞台、雰囲気、プレッシャーのなかで、シュートの照準が狂うといった感覚があった?

上田 うーん。でも、僕はシュートを打つ前に……これはいいや、長くなっちゃうから(苦笑)。でも、ボールが上がってきたり、シュートチャンスが訪れたタイミングで、いろいろな選択肢が瞬時にバババって。5枚くらいの写真のイメージで。

―― 頭の中に浮かぶんですね。

上田 はい。それを、パパパっと瞬時に切り捨てて1枚を選ぶ、みたいなイメージで。その間、0コンマ何秒なんですけど。たとえば、ヘディング、トラップ、ファー、ニア、足でワンタッチ、という選択肢が浮かんだとして、そのうち正解、つまりゴールが獲れる選択肢がふたつあるとしたら、その5分の2を選べるかどうかが、ストライカーとして大事な部分。

 その時、保守的な選択肢を最初に捨てなきゃいけないんです。トラップとか頭でいけるのに、足でいこうとするような、置きにいく選択肢を先に捨てられる時は、おそらく点が獲れている時。それを残してしまって、逆に博打的な選択肢を最初に捨ててしまう時は、ゴールに対してネガティブになっている時ですね。普段やっていないような選択肢を選ぶ時は、たぶん点が獲れる日なんじゃないかなって思います。

―― 面白いですね。それを選べる時は、気持ちが乗っていたりする?

上田 それもあると思います。あと、やっぱりシュートを外していると、プレッシャーも影響してくる。それでも、しっかり選べるかどうかも、メンタルの強さなんじゃないかなと。ただ、チリ戦のボレーは最善の選択だったと思うので、技術的な問題で外したと思います。

―― では、ストライカーの思考の話から離れて、鹿島アントラーズのことも聞かせてください。6月のコパ・アメリカと7月のユニバーシアードを終えたタイミングでプロ入りしたわけですが、コパ・アメリカに参加する前から決めていたそうですね。2年後の鹿島入りは内定していましたが、なぜ、タイミングを前倒ししたのですか?

上田 大学に入ってから(U-20、U-21、U-22)代表に選ばれるようになって、プロの選手たちとチームメイトになる機会が増えて、一緒にプレーして、会話をして、プロの世界への憧れが再燃したというか。大学に入って、マンネリ化していたわけじゃないけど、プロが遠く感じる時期もあったし、代表に選ばれて上が見えたからこそ、絶対にプロになりたい、すぐにでも行きたいと思うようになり始めたんです。

 でも、大学も悪いわけじゃないし、入ったからには卒業すべき、という考えもあって。そのなかで、何クラブか練習参加のオファーをもらって参加したんですけど、鹿島の練習に参加した時に、「鹿島を断る理由はたぶん見つけられないな」と思った。今年の2月に鹿島に決めたのも(※2021年からの加入内定を発表)、大学を辞めるとかではなく、特別指定選手として2週間、鹿島の練習に参加して、2週間、法政に戻って、その後は代表に行って、というサイクルでできればいいなって思ったんです。

―― 鹿島、法政、U-U22、ユニバーシアードの4チームでやれれば、忙しいけど、成長できるんじゃないかと。

上田 そうですね。法政でもまだやれることはあると思っていたし。だから、この半年間をテスト期間にしようと思っていたんですね。半年、強化指定選手として鹿島でどんな経験が積めるか、法政に何をもたらせるか。

 法政でプレーして2年間、僕は毎年ふたケタ(ゴールを)獲ってきたんですけど、それ以外の選手が5点以下だったんです。だから、僕なりの点を獲るためのメソッドを、後輩をはじめとしたチームメイトに教えようと思って。いろんなスタイルのシュート練習をしながら、今はこういう選択肢を持つべきとか、なぜこれはいけないのかとか、そういったところに着目して、法政の得点力を上げるために伝えてきた。

 その効果があったのかどうかはわからないですけど、今年、僕よりも先に後輩が点を獲り始めたんです。去年、1点も獲れなかった選手が、開幕から4試合で3点獲って。





―― 成果として出てきたと。

上田 成果かどうかはわからないですけど、法政でやるべきことはやったかなと。それに、半年やってみて、やっぱり大学優先になってしまって、鹿島になかなか行けなかった。だから、「コパとユニバが終わったら、鹿島に行きたい」と、大学の(長山一也)監督に伝えたんです。そうしたら、「わかった」と理解していただいて。ただ、「単位もある程度取っているんだから、卒業はしたほうがいいんじゃないか」と言われました。

―― それで、サッカー部だけ辞めて、大学には籍が残っているんですね。

上田 そうなんです。そこに関しては、監督や大学の方が動いてくれました。

―― 先ほど、鹿島を断る理由はないと。ユースに上がれなかった悔しさもあるだろうから、違うクラブに入って鹿島を倒すというところにモチベーションを置く選手もいると思いますが、上田選手の場合は愛着とか憧れのほうが強かった?

上田 もちろん、悔しい気持ちはありましたけど、そういうのはすべてフラットにしてクラブを決めようと思っていましたね。でも、やっぱり鹿島の環境はよかったし、フラットにして考えたつもりでも愛着があるし、地元だから親も観に来やすいし、このクラブで活躍したい、このクラブからプロのキャリアを始めたいっていう気持ちが出てきたんです。

 仮に、もっといろんなクラブの練習に参加して、鹿島よりいい環境のクラブに出会ったとしても、鹿島を断ってまでそのクラブを選ぶっていうことは、僕には考えられなかったですね。


【profile】
上田綺世(うえだ・あやせ)
1998年8月28日生まれ、茨城県水戸市出身。中学時代は鹿島アントラーズノルテに在籍。その後、鹿島学園高校から法政大学へと進学する。2017年にU-20日本代表に選ばれ、2019年5月には日本代表にも選出。同年7月、内定していた鹿島アントラーズに前倒しで加入した。ポジション=FW。182cm、76kg。




◆1年半前倒しでプロ入り。 上田綺世がアントラーズ行きを決断した真相(Sportiva)