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2021年3月23日火曜日

◆J1で躍動する兄の背中を追って。レジェンドの薫陶を受ける鹿島ユースの垣田将吾が高校最後の1年に懸ける想い(サッカーダイジェスト)






兄は徳島のエースである垣田裕暉。兄弟特有の反骨心が根底に


「最初は比べられているのが悔しかったのですが、今はああやってJ1でも活躍していて、光栄だと思うし、尊敬できるお兄ちゃんだと思っています」

 サニックス杯ユースサッカー大会2021において、準優勝に輝いた鹿島アントラーズユース。前線でポストプレーから裏への抜け出しまで躍動感のあるプレーを見せたFW垣田将吾は、自身の兄について聞かれるとこう口を開いた。

 フィジカルの強さと高さを武器に、前線で正確なポストプレーを見せ、常に周囲に首を振りながら、ギャップに飛び込んでボールを引き出す。ゴール前に迫力満点の飛び出しを見せる彼の兄は、鹿島ユースのOBであり、現在はJ1の徳島ヴォルティスでプレーをするFW垣田裕暉だ。

 裕暉は2016年にトップ昇格をすると、ツエーゲン金沢を経て、2020年に徳島へ加入。昨季はJ2でリーグ19ゴールをマークし、J1昇格に貢献。今季もすでにエースとして2ゴールをマークしている。

 ポジションは同じFW。幼い頃からずっと比べられてきたこともあり、将吾の中では「お兄ちゃんに勝ちたい」というライバル視とある意味、兄弟特有の反骨心が根底にあった。だが、心のどこかでは兄を心から尊敬している気持ちはあった。

 群馬県で生まれ育った垣田兄弟は、裕暉が中学進学時に鹿島ジュニアユースに入ることをきっかけに、父と祖母を群馬に残し、母と将吾は裕暉が自宅から通えるように共に鹿島に引っ越した。そして、裕暉が寮のあるユースに昇格すると、母と共に群馬に戻るために将吾は小3で転校。だが、兄の姿を見て「僕も鹿島の下部組織でプレーしたい」と強く思うようになった将吾は、自宅からギリギリ通える鹿島つくばジュニアを選択。母は将吾をほぼ毎日往復3時間をかけて群馬からつくばへ車で送り迎えをしてくれた。

「両親は本当に僕らが大好きなサッカーをやるために支えてくれた。お兄ちゃんの時もそうだし、僕も毎日学校が終わると、学校までお母さんが荷物を全部用意してくれた状態で迎えにきてくれて、片道1時間半かけて練習場に行って、18~20時の練習の2時間をずっと車で待ってくれて、それで終わったらまた片道1時間半をかけて家に帰る。つくばジュニアユースを卒業するまでずっと続けてくれた。本当にしんどかったと思うのですが、『お兄ちゃんのようにいい環境でサッカーをやらせてあげたい』という気持ちでお父さんもお母さんもいてくれて、それはすごく嬉しかったですし、絶対に気の抜いたプレーはできないなと」
 

鹿島のレジェンドたちから直接指導を受け開眼。「なんでもできるFWになりたい」





 ユースに昇格をすると、両親への感謝の気持ちだけではなく、兄の躍動に心を動かされた。
「トップに上がって出番がなくて、金沢に移籍する姿を見て、正直、『お兄ちゃん何やっているんだよ!』という気持ちでした。でも、そこからどんどんゴールを重ねて、J1に這い上がっていった姿を見て、もう尊敬しかなかった。ただ勝ちたいと思っていて、『お兄ちゃんと俺は違うから、別のプレーで活躍をしたい』とどこか素直じゃなかった自分から、『どうやったらお兄ちゃんのいいところを盗めるかな』という考えに変わりました。僕の得意とする前線で身体を張ってボールを収めたり、展開したりするプレーに加えて、お兄ちゃんが得意とする前線でのスプリントや裏抜けなどを見て学んで自分のものにする。僕には偉大な最高のお手本がいるのは本当にありがたいことですよね」

 意固地だった自分が消え、素直な気持ちで兄を見るようになったことで、彼の視野は大きく広がった。苦手だった裏抜けや連続したスプリントにも意欲的に取り組むようになったことで、プレーに柔軟性が出てきた。

 そして2021年、彼は4月から最高学年となる。兄・裕暉は高2からプレミアEASTで出番を掴み、高3時には同リーグで優勝し、得点ランキングも2位の12ゴールをマーク。トップ昇格を手にしている。カテゴリーでは1つ下のプリンスリーグ関東での1年となるが、プレミアの次にレベルが高いとされるプリンス関東で活躍をすれば、将来の道が大きく切り開かれることは間違いない。

「昨年はプリンスでなかなか出られなくて悔しかった。お兄ちゃんと比べたら出遅れているかもしれないけど、ここからもっと努力を重ねて成長をしたい」

 高校最後の1年に意気込む将吾にとって、兄だけでなく、柳沢敦監督と小笠原満男コーチの存在は大きなものとなっている。2人とも言わずと知れた日本トップクラスのストライカーとボランチであり、鹿島のレジェンド。2人が発する言葉を一言一句聞き逃すまいと耳を傾けている。

「現役時代は動き出しが超一流だと思っていて、アドバイスは物凄く具体的で、例えば味方が前を向いたときに、他の選手と動きが被ってしまうと、僕はそこからどうしていいか分からずに固まっていたんです。それを柳沢監督は動き直しのポイントや動き出すまでの駆け引き、ポジショニングを細かく教えてくれる。自分にないものを得られるチャンスだと思っています。満男さんはボランチの選手にアドバイスをするのですが、それが物凄く勉強になるんです。例えば『ボランチはボールをもらったらすぐに顔をあげろ』と言っていて、その指示が物凄く的確。なので、僕もその指示を聞いて、ボランチの選手の顔が上がった瞬間を見逃さずに動き出すようにしていたら、今まで多かった無駄走りが減って、いいボールが来るようになったんです。2人が言っていることを頭の中でリンクさせると、たくさんのヒントが転がっていて、本当に頭の中が整理をされていく。これからも話を聞いて、お兄ちゃんのプレーと共にどんどんリンクをさせて、なんでもできるFWになりたいです」

 準優勝したサニックス杯では3ゴールを挙げたが、まだまだこの結果で満足をしていない。兄のようにもっとチームを勝利に導くゴールや、苦しい時にチームを救うゴールを重ねないと評価されないし、周りからの信頼を掴めない。プロの世界で苦しみ、結果を出して這い上がってきた兄の姿を誰よりも身近で見てきたからこそ、彼はこの現実をしっかりと理解している。

「チームの中で一番活躍したいんです。相手はもちろん、仲間にも負けたくない。そのためにはこれまでのように周りの言葉に耳を傾けて、他の選手のいいところを学びながら取り組んでいかないといけない。もっとなんでもできるFWになりたい」

 真摯に直向きに取り組む者の未来は明るい。いつか兄と同じステージに立ち、兄以上の活躍をすることを目標にして、垣田将吾は九州の地から勝負の年のスタートを切った。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)


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