悩める優勝候補、鹿島アントラーズが早くも監督交代に踏み切った。まだシーズンの3分の1も終えてない段階での、早くも施された荒療治である。
今季の鹿島が、有力な優勝候補のひとつと目されていたことは間違いない。昨季独走でJ1優勝を遂げた川崎フロンターレが、今季はAFCチャンピオンズリーグも並行して戦わなければならないことを考えると、むしろ鹿島有利と見る向きも多かった。
ところが、開幕戦で清水エスパルスに1-3と逆転負けを喫すると、その後も波に乗れず、第5節から第7節までは3連敗。とりわけ1-2で敗れた第7節の浦和レッズ戦は、内容的にも惨憺(さんたん)たるものだった。
はたして、ザーゴ監督は解任。2点のリードを守れずに2-2で引き分けた、第9節コンサドーレ札幌戦が最後の試合となった。
シーズン開幕前の評価を考えれば、Jリーグ屈指の常勝軍団らしからぬ、まさかの解任劇である。昨季にしても、開幕戦から4連敗と最悪のスタートを切りながら徐々に調子を上げ、最終的には5位まで順位を上げていた実績があっただけに、意外な印象はさらに増す。
だが、言い換えれば、昨季に続くスタートの出遅れ。2年連続の失態は許されなかった、ということだろう。
とはいえ、鹿島がシーズン中に監督を代えるのは、これが初めてのことではない。
1994年=宮本征勝→エドゥ
1998年=ジョアン・カルロス→ゼ・マリオ
1999年=ゼ・マリオ→ジーコ(総監督)
2015年=トニーニョ・セレーゾ→石井正忠
2017年=石井正忠→大岩剛
前例のすべてが成績不振による監督解任ではないにしても、案外その機会が多いことには驚かされる。さすがの鹿島といえども、シーズン途中にして体制の立て直しを迫られたことがこれだけあったわけだ。
しかしながら、鹿島に目立つのは、その手当ての早さ。シーズン途中で監督交代があったとしても、結果としてそれほど悪い成績には終わっていないのである。
1994年=3位(2ステージ制)
1998年=優勝(2ステージ制)
1999年=9位
2015年=5位(2ステージ制)
2017年=2位
例えば、1998年のことだ。過去2年で3つのタイトル(1996年Jリーグ、1997年ナビスコカップと天皇杯)をもたらしたジョアン・カルロス監督が、選手との確執を理由にファーストステージ途中で突如辞任。関塚隆監督代行を挟み、ゼ・マリオ監督が就任すると、ファーストステージの5位から一転、セカンドステージでは優勝を遂げ、チャンピオンシップも制して年間優勝を手にしている。
また、2015年はファーストステージで8位に終わると、セカンドステージ第3節を終えたところでトニーニョ・セレーゾ監督を解任。第4節から石井正忠監督が指揮を執り、セカンドステージだけで言えば2位まで順位を上げただけでなく、ナビスコカップを制している。
唯一下位に沈んだままシーズンを終えたのは1999年だが、ファーストステージ9位でJ2降格の危機さえあったことを考えれば、主力に負傷が相次ぐなか、セカンドステージ6位まで巻き返したことはさすがの底力である。
四半世紀を超えるJリーグの歴史においては、こうした素早く、かつ的確な手当てが、鹿島を常勝軍団たらしめた、と言ってもいいのだろう。
さて、今回新たに鹿島を指揮するのは、相馬直樹監督。現役時代には左サイドバックとして鹿島の黄金期を支えたレジェンドであり、その意味では、代々受け継がれてきた"ジーコイズム"の正統な継承者である。
昨季から鹿島のコーチを務めていた相馬監督は、過去に川崎と町田ゼルビアを率いた経験を持っている。
特に町田時代には、コンパクトな布陣で攻守を繰り返すアグレッシブな戦いを展開。2016年、2018年と、J2の上位争いを繰り広げたことは記憶に新しい。
結果的に2016年が7位、2018年が4位と、いずれも優勝には手が届かなかったが、当時はまだ町田がJ1昇格資格を持たず(スタジアムや練習場が基準を満たさなかった)、モチベーション的に難しいチーム状態だったことを考えれば、大健闘のシーズンを過ごしている。
いわば、武者修行を経て、古巣に復帰したクラブのレジェンド。遅かれ早かれ、監督候補として名前が挙がることになっていたに違いない。今回は状況が状況だけに満を持しての監督就任とは言い難いが、コーチからの昇格はある程度のリスク管理がなされていたなかで、想定内の人事ではあるのだろう。
今季開幕前は優勝候補だったはずの鹿島も、現在13位。首位の川崎とは勝ち点20もの差をつけられてしまっている(4月25日開催分の試合終了時点)。消化試合数が違うとはいえ、覇権奪回は絶望的な状況だ。
しかしながら、新指揮官就任後はルヴァンカップを含めた公式戦3試合を戦い、2勝1分け。素早い手当てが功を奏し、状況が好転しつつある様子はうかがえる。加えて、3位以下は混戦状態にあり、幸いにして3位のサガン鳥栖とならば、勝ち点差は11にとどまる。巻き返しを狙う鹿島にとって、ACL出場は十分に現実的な目標となりうるはずだ。
過去の実績を見る限り、シーズン途中での鹿島の監督交代はかなりの効果を上げている。今回もまた、常勝軍団の逆襲はあるのだろうか。
相馬監督の手綱さばきに注目である。
◆鹿島アントラーズの荒療治は吉か凶か。シーズン途中での監督交代の意外な歴史(Sportiva)