■5月9日/J1第13節 鹿島アントラーズ―FC東京(カシマ)
FC東京は、ハーフタイムに一気に3人を交代させた。その事実が、前半の鹿島アントラーズが完全にFC東京を手玉に取っていたことを物語っていた。
ようやくこの試合でベンチに戻ってきたが、上田綺世が負傷離脱していた鹿島は1トップに土居聖真を置き、トップ下に荒木遼太郎を配置した。昨季からの上田とエヴェラウドの2トップに比べれば、力強さという面では、大きく見劣りがする。
しかし、鹿島はそのハンディをものともしないプレーを見せていた。手段は、幅を使った揺さぶりだ。
鹿島の両サイドバックは高い位置を取る。そこにサイドハーフや、右なら三竿健斗、左ならレオ・シルバとボランチのどちらかが加わり、さらにトップ下の荒木、さらには土居までも加わって、ピッチの左右どちらかで数的優位をつくり出す。
さらに厄介なのは、その数的優位を自在に左へ右へと移し替えることだ。ボランチを経由して、あるいはCBが一発でサイドチェンジと、ピッチを幅広く使って鹿島は攻めた。
身長198センチのFC東京GK波多野豪の鼻先で決めた、身長190センチの町田浩樹の先制ヘッドは、確かに見事だった。だが、その先制点につながった連続CKも、鹿島の幅広く揺さぶるサイドアタックからつかんだものであることを忘れてはいけない。
■後半の反撃を地力と選手交代でしのぐ
ゴール前に人数を割きたいFC東京だが、サイドハーフだけでは鹿島のサイドバックが果敢に攻め上がる攻撃に対応しきれず、マークの付き方があやふやになる。さらに左右に振られては、守備が後手を踏み続けるばかり。前半終了間際の失点も、やはり左右に振られてからのものだった。そこで長谷川健太監督が決断したのが、後半頭から3人を入れ替えての、3バックへの変更だった。
3バックの中央に入ったブルーノ・ウヴィニが土居を見るなど、流動的に動く鹿島の選手への監視を分かりやすいものへと変更。ウィングバックがサイドに、中盤では守備力のある3人が中央にふたをした。
前半のFC東京は、守備が後手に回って選手が良い位置を取れず、攻撃に切り替えても効果的なプレーに移れなかった。だが、守備が安定したことで、2トップの強さと速さをシンプルに活かせるようになる。確かに、流れは変わりつつあった。
それを上回ったのが、鹿島の底力だ。苦しい時間も集中を高く保ってしのいでいくと、選手交代でレオ・シルバを1列上げ、技術と戦術眼のある遠藤康をサイドに投入。さらに効いたのが、最後の交代枠で投入された上田だった。
交代から1分後、上田のファーストタッチだった。ゴール右でスローインからボールが動く間、ファーサイドで前に出て、再び戻って細かくステップを踏み、最後はDFの裏に入り込む。遠藤が左足で入れたクロスを押し込んで、試合の行方を決めた。
後半に入り、流れは変わるかに見えた。敗れたFC東京の長谷川監督はフォーメーションの変更について、相手のシステムに合わせてつくべき選手をはっきりさせる意図があったと説明し、「強制的に形を変えてやらせた方が、現状では良いのではないかということで形を変えた」と語った。鹿島は、その対応を受け止め、さらに上を行ってみせたのだ。
2点目を決めたプロ2年目の松村優太は、今季リーグ戦2度目の先発で、J1初ゴールをマークした。合流したディエゴ・ピトゥカも、出場時間を増やしている。2試合連続の3-0の勝利は、完全復活へののろしと考えてよさそうだ。
■結果 鹿島アントラーズ 3-0 FC東京
■得点
22分 町田浩樹(鹿島)
45分 松村優太(鹿島)
87分 上田綺世(鹿島)
◆【J1分析】鹿島対FC東京「打ち手」を超える底力!アントラーズ「完全復活」(サッカー批評)