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2022年9月4日日曜日

◆鈴木優磨は日本代表に執着しない。「俺みたいなサッカー選手がいてもいいと思いません?」(Sportiva)






鹿島アントラーズ・鈴木優磨インタビュー(後編)


 瞬時に質問の意図を理解して、言葉を発するのは、ストライカーとしての嗅覚とでも言えばいいだろうか。感覚の鋭さには、こちらも驚かされるほどだった。

 インタビューも終盤に差しかかり、どうしても聞かなければいけないテーマがあると伝えた時だった。鈴木優磨はニヤリと笑うと、自ら言った。

「日本代表?」

 こちらがうなずくと、さらに察した彼はこう続けた。

「そんなに思いはないですよ。それよりも、自分はクラブでの成功をより願うタイプなんです。だったら、もっとアントラーズのために頑張りたい。今はアントラーズでいっぱいタイトルを獲りたいという気持ちのほうが強いんです」




 あまりに素直に話すものだから、偽らざる思いだということはすぐに理解できた。

「だって、そのほうがこのチームのファンやサポーターの心や記憶に刻まれるじゃないですか。そのくらい自分は鹿島っ子だから。このクラブは俺の一部というか。だから、鹿島のためにプレーしている自分のほうが好きかな。それにこのクラブのことが好きだから、そっちのほうがプレーしていても気持ちが入るんですよね」

 鹿島っ子----千葉県銚子生まれだが、小学生の時から鹿島アントラーズのスクールに通い、アカデミーで育ってきた。童心に返ったかのように、クラブのことを話す彼は、この日一番の笑顔を見せた。

「自分はずっとこのクラブを見てきたから、このクラブのすごさも知っている。それを取り戻すためにすべての力を使いたいと思っているから、よそ見をしている暇なんてないんです」

「だって」と言って、2年半ぶりに復帰して、カシマスタジアムでプレーする思いを語った。

「本当に帰ってきて思いますけど、カシマスタジアムってすごい力があるなって。0−2、0−3だろうが、俺はそこまで苦じゃないと思っている。力が発揮できれば、残り15分だろうが、10分だろうが2点、3点くらいは奪える雰囲気がある。

 それくらいの力がこのスタジアムには宿っているなって、帰ってきて改めて感じる。あのファンとサポーターが一緒に戦ってくれれば、どんなことも成し遂げられると自信を持って言えます」


鹿島というクラブのDNA


「それに」と言って、まだまだ言葉は続く。

「ひとりくらい俺みたいなサッカー選手がいてもいいと思うんです。選手として日本代表を目指すのはいいことだと思います。だからこそ、逆に俺みたいにクラブのためにプレーする選手がいることも受け入れてほしいなと思います。だって、人それぞれじゃないですか。どんな選手がいてもいいと思いません?」

 ストライカーとしての得点力、決定機を演出するアシスト力もさることながら、鹿島に戻ってきた鈴木のプレーから"チーム"という単位を感じるのは、そのためだろう。相手に立ち向かっていく姿勢、スタジアムのファン・サポーターをあおる行為、タイミングも含めて、彼には明確に「何のためにプレーしているか」という"魂"が宿っている。

 そんな鈴木は、いつから個ではなく、チームのことを考えるようになったのだろうか。

「(今季)帰ってきてからですよ。だって(ベルギーに)行く前なんて22歳ですからね。チームのことなんて考えてなかったです(笑)。それまでは自分が、自分がというか、自分のプレー、自分のプレーという考えをしていたように思います。でも、若い時はそれでいいと思うんですけどね」

 過去の自分を否定するのではなく、肯定する潔さに成長を実感する。同時に、鹿島というクラブのDNAも感じた。自分よりも年齢の若い選手が多くなった今、彼らに対してはこうメッセージを発信したからだ。

「自分自身も若いころは、自分のことで精一杯だった。自分の調子がいいのか悪いのか、自分が試合に出られるのか出られないのか、試合に出てもゴールを決められるのかアシストできるのか。自分のことばかりにフォーカスしていた。

 でも、若い時はそれが結果的にチームのためになっている。あとは、今でいえば、経験のある(土居)聖真くんや(三竿)健斗とか自分が、チームとして戦う方向や目指すベクトルを示してあげればいい。だって、自分も若い時には、(小笠原)満男さんをはじめとする先輩たちに、バランスを取ってもらったり、ゲームや時間帯をコントロールしてもらったりしていましたから。

 だから、自分は自分の結果だけを考えて突っ走ることができていた。今度は自分がチームとしてバランスを取ることをやる順番だし、それは絶対にやらなければいけない」


小笠原満男が示してくれた


 伝統というべきか、哲学というべきか。鹿島のDNAは、次のような言葉にも受け継がれている。

 今季の鹿島はシーズン途中で監督交代を敢行したが、鈴木がここまで不満をこぼすようなことはなかった。彼が目を向けていたのは常に自分であり、発信していたのはチームへの発奮と鼓舞だった。

 聞くと、鈴木は思いを馳せた。

「だって、自分が若い時に、満男さんが誰かのせいにするような言葉を聞いたことがなかったんですよね。いつも揺らぐことなく、大丈夫だという態度を示してくれていた。だから、試合に負けたとしても、満男さんが大丈夫だと言えば、チームは大丈夫だと思えたし、信じてついていくことができた。満男さんがチームは大丈夫だって言っているんだから、若い自分は自分のことに集中しようと思えたんです。

 だから、自分が年齢的に上になった今、経験のある俺らが前を向いて、ポジティブに働きかけていきたいと考えていた。そうでないとチームは一瞬で崩れてしまうということを、聖真くんや健斗といった経験のある選手たちもわかっていると思います」

 だから、鈴木は前を向く。岩政大樹監督とともに目指すのは、やはりタイトルになる。

「課題はまだまだありますけど、その見えている課題に対して大樹さんはあやふやにするようなことがない。しっかりと俺ら選手たちに、ここが課題だと提示してくれる。しかも、選手が感じている課題とチームを率いる大樹さんが感じている課題が一致しているので、同じ目標に向かって走っていると、より感じられています。

 あと、大樹さんはあまり昔の話を俺らにしないんです。前を向いていて、俺らと一緒になって新しいアントラーズを作っていこうと話してくれている」

 岩政監督がコーチだった時に、苦しんでいることを察して投げかけてくれた言葉が今も胸に突き刺さっている。


突き刺さった岩政大樹の言葉


「監督から要求されたことをやらなければ、やらなければと思っていた時に、大樹さんから『今のお前はただの労働者になっている。サッカーを楽しんでいないだろ?』って言われたんです。その時たしかに、今の自分は監督に求められたことを一生懸命やろうとしているだけだなって思ったんです。

 それは本当に自分が目指している姿なのか、ということは考えさせられましたし、サッカーの最大の魅力である楽しさを忘れてしまっているような気がしました。そのことに気づかせてくれた大樹さんの言葉は、これからも自分の心に一生残っていくものだと思っています」

 過去があるからこそ、新しい歴史を築いていくこともできる。ただひとつ言えるのは、新しいアントラーズを築いていくのは、今の選手たちである。そして、鈴木優磨のような選手がいてもいいのではないだろうか。それもまたJリーグが、鹿島が歴史を紡いできた証だ。

「リーグ戦も最後まであきらめないで戦いますし、天皇杯も残っている。優勝する可能性があるタイトルを必ず鹿島の歴史に加えたいので、ここからまた苦しい時期があったとしてもブレずに、自分たちの目標に向かってやっていければと思います」


【profile】
鈴木優磨(すずき・ゆうま)
1996年4月26日生まれ、千葉県銚子市出身。小学1年から鹿島アントラーズのスクールに通い、ジュニアユース→ユースを経て2015年にトップチームに昇格。2018年にはクラブ初のACL優勝に貢献し、大会MVPにも選出される。同年11月、日本代表メンバーに初選出されるもケガのために辞退。2019年7月、ベルギーのシント・トロイデンに移籍を果たし、2020−2021シーズンには17ゴールを記録する。2022年、古巣の鹿島に2年半ぶりに復帰。ポジション=FW。身長182cm、体重75kg。


◆鈴木優磨は日本代表に執着しない。「俺みたいなサッカー選手がいてもいいと思いません?」(Sportiva)