日刊鹿島アントラーズニュース

Ads by Google

2022年9月4日日曜日

◆鈴木優磨「早くアントラーズはタイトルを獲らなければ」。チームへの思いや自身のプレーが献身的になった理由も明かした(Sportiva)






鹿島アントラーズ・鈴木優磨インタビュー(前編)


 まるで衝動に駆られるかのように、鈴木優磨はベンチに向かって走っていた。

 8月14日、J1第25節のアビスパ福岡戦だった。

 10分、ペナルティーエリア右でパスを受けた鈴木は、ゴール前に進入すると、迷うことなくシュートした。相手に当たって決まった得点は、記録上オウンゴールになったように、華麗でもなければ美しくもなかった。だが、そこで右足を振り抜いた判断は、リスタートを切った鹿島アントラーズに一体感、活気、自信......多くを取り戻させるゴールになった。

 8月7日にレネ・ヴァイラー監督が退任し、翌8日にコーチを務めていた岩政大樹が監督に就任して迎えた初戦だった。

 ベンチに向かって走った鈴木は、勢い余って新指揮官を押し倒すほどの熱量で抱きついた。

「特別な意味はなかったけど、『これからまたチームとして新たなスタートを切っていこうよ』というような思いからでした」

「衝動だったのか」と聞けば、鈴木は少しだけ照れくさそうに「そうですね」とうなずく。誰よりもクラブとチームを思うがゆえの、まさに衝動だったのだろう。

「自分はずっと試合に出場していた身なので、(監督が交代したことに)もちろん責任は感じていました。ただ、その事実に対して感傷に浸ることなく、反省するところは反省して、イチから頑張ろうと思って臨みました」

 2−0で終えた福岡戦で欲していたのは、間違いなく「勝利」の二文字だった。

「今シーズン当初、(岩政)大樹さんが監督代行としてチームを指揮してくれていた時のイメージが俺のなかで強烈に残っていました。それは選手として初めての感覚でもあった。その時間がすごく楽しかったので、また大樹さんのもとでサッカーができる思いと、その初戦で負けるわけにはいかないという、ふたつの思いがありました」


上田綺世にチャンスを作りたい


 今シーズン、ベルギーのシント・トロイデンから2年半ぶりに鹿島へ戻ってきた。復帰の理由を聞くと、力強く語ってくれた。

「鹿島にタイトルをもたらしたい、という思いが大きな要因でした。鹿島はここ5年、国内タイトルから遠ざかっているので、ひとつでも多くのタイトルをクラブにもたらしたいという思いがありました。その思いは今も常にブレていません」

 勇ましい風貌とやんちゃと表現したくなるキャラクター、またFWというポジションも相まってエゴイスティックに見られがちだが、ヨーロッパから帰ってきた鈴木のプレーは、見違えるほど献身的だった。

 自分がというよりも、チームメイトの能力を引き出し、活かす。2トップを組んでいた上田綺世(現サークル・ブルッヘ)が早々にふたケタ得点をマークしたことからも周知だろう。

「シーズン序盤は綺世と2トップを組むことが多かったので、彼の得点力を活かすためには、俺自身が動いて、綺世になるべくチャンスを作りたいという考えがありました。今は(土居)聖真くんには聖真くんのよさ、エヴェ(エヴェラウド)にはエヴェの強さがあるので、そこを引き出してあげたいと思っています。

 組む相手によって自分の役割は変わってくるし、誰と組んでも合わせられる自信もある。だから、コンビを組んだ選手によって、よりストライカーの動きをするのか、よりチャンスメーカーに近いプレーをするのかは、自分のなかで使い分けています」

 プレーだけでなく、姿勢や言動からも、チームという単位が感じられる行動がいくつも見受けられる。

 たとえば、2−1で勝利したJ1第19節の柏レイソル戦だ。前述した上田がベルギーに移籍した直後の一戦とあって、勝利できるかどうかで周囲の声や評価は大きく変わってくる。

 そうしたなか1−1で迎えた82分、鈴木はPKを獲得したが、大事なキッカーをエヴェラウドに譲った。そして自身は、「信じている」と言わんばかりにゴールに背を向けたのである。試合後には、「エヴェをもう一度、復活させるのは自分のなかで大きなミッション」と語り、チームメイトへの信頼を口にした。

「会見で語ったのでクローズアップされてしまいましたけど、シーズン当初からずっと言っていたことでした。ベルギーからいつもアントラーズの試合を見ていて、エヴェのゴールは散々見ていた。あれだけ点が取れる選手なので、もう一度、自信を取り戻せば復活してくれると思っていた。

 みんなが信頼してボールを集めてくれれば(ゴールを決められるのに)というFWとしての苦しみは自分も理解できるし、(点が)取れない時の苦しみもわかる。だから、もっと信頼してボールを集めれば、彼はやってくれると思っていた」


ベルギーで学んだギブ&テイク


 鈴木の言葉を借りて「チャンスメーカーに近いプレー」をした時には、状況判断と視野の広さが際立っている。

「自分では状況が見えているかどうかまではわからないですけど、ボールをもらうタイミングと、そのあとにどこへパスを出して、どう展開しようということは、頭のなかで整理できています。

 そうやって自分のプレーが整理できている時はいい攻撃ができていますけど、逆に自分が止まってしまうと、チームとしていい攻撃につながらなくなってしまうことも多い。だから、中盤に降りた時には、シンプルに逆サイドへ振るなど、展開力を意識しています」

 ただし、決してストライカーの矜持を忘れたわけではない。J1第26節を終え、7得点8アシストという結果に触れた時だった。

「いくら献身的なプレーをしていると言ってもらえても、結局のところ最後は数字で見られるのがFWですからね。否が応でも何ゴールしたか、何アシストしたかという数字はついてくる。

 そこが伴わなければ、いくらチームのために献身的なプレーをしたところで意味はない。あくまで献身的なプレーはプラスアルファ。自分のなかでは得点、アシストという数字に重きを置いてプレーしていきたい」

 やや不服そうに鈴木は言った。

「だから、アシストについてはいいですけど、得点については物足りない。FWとしてはアシストのほうが多いのは、やっぱり気になりますよね」

 その言葉を聞くと、なおさらPKを譲った行為に矛盾を覚えてしまう。数字にこだわるのであれば、自らPKを蹴ればよかったのではないかと----。そこには、ベルギーでプレーした経験が生きていた。

「シント・トロイデンでは、エゴの強い選手ばかりとプレーしてきました。そのなかでどうやってチームメイトと信頼関係を築いていくかと言えば、ギブアンドテイクというか。だから俺、向こうでも10試合くらいゴールのない選手には、PKを譲ったりしていましたよ。助け合えるところは助け合うことで、いかに信頼が高まっていくか、またそれがピッチのなかで表れるということも学びました」


試合中にしゃべらなくても...


 決して野心がなくなったわけではない。その単位が個よりもチームに変わっただけだ。むしろ、野心は以前よりも増している。

「結局、俺ひとりでサッカーをやっているわけではないですからね。そうした経験をチームに伝えて、それをみんなで感じ取って優勝していくことで、チームとしての経験値は上がっていくと思うんです。

 繰り返しになっちゃいますけど、サッカーはひとりではできない。だから、チームということを考えた時に、早くアントラーズはタイトルを獲らなければいけないと思っているんです」

「早く」----これも、クラブを思うがゆえの言葉だった。

「復帰した時にまず感じたのは、優勝経験のある選手が少なくなってきている、ということでした。だからこそ、早くタイトルを獲らなければとも思ったんです。

 これは自分自身が感じたことでもあるのですが、優勝を知っているのと、知らないのでは、タイトルを目指していくうえでも大きく違ってくる。チームとしてひと皮もふた皮もむけるためには、タイトルを獲得することが早いので」

 鈴木自身は2015年にナビスコカップ(現・ルヴァンカップ)、2016年にJ1と天皇杯で優勝を経験し、2018年にはクラブ初のアジアチャンピオンズリーグ優勝に貢献するとともに大会MVPに輝いている。そこで何を得ていたのか。

「大きく言うと、自信が違います。タイトルを獲ったという自信がプレーにも表れる。それを重ねることによって、この時間はこういうプレーをすれば試合に勝てる、もしくは勝ち点を拾えるということが、ひとりではなくチームとして共有できるようになっていく。

 その自信と経験は一人ひとりにも、チームにも大きく、間違いなくプレーしていくうえでの助けになる。強かった時はわざわざ試合中にしゃべらなくてもいいというのが、まさに経験の賜物だと思うんです」

 強い鹿島を知り、優勝を知るからこそ、鈴木が今、タイトルを欲している理由だった。






【profile】
鈴木優磨(すずき・ゆうま)
1996年4月26日生まれ、千葉県銚子市出身。小学1年から鹿島アントラーズのスクールに通い、ジュニアユース→ユースを経て2015年にトップチームに昇格。2018年にはクラブ初のACL優勝に貢献し、大会MVPにも選出される。同年11月、日本代表メンバーに初選出されるもケガのために辞退。2019年7月、ベルギーのシント・トロイデンに移籍を果たし、2020−2021シーズンには17ゴールを記録する。2022年、古巣の鹿島に2年半ぶりに復帰。ポジション=FW。身長182cm、体重75kg。







Ads by Google

日刊鹿島

過去の記事