http://www.soccer-king.jp/news/japan/national/20140707/209542.html?view=moreスイスのバーゼルはビッグクラブへの登竜門クラブとして知られる [写真]=Getty Images
日本代表のFW柿谷曜一朗が、スイスの1部リーグ、バーゼルへの移籍が決定した。柿谷の元には、セリエAのフィオレンティーナや、ブンデスリーガのブレーメンからもオファーが届いていたが、これらのクラブには断りを入れたという。金銭面の理由もあるだろうが、欧州4大リーグでプレーする機会を失ってまで柿谷が入団を希望するバーゼルとはいかなるクラブなのか。
バーゼルは1893年創設。リーグ優勝17回を誇る名門であり、目下、リーグ5連覇中の強豪だ。チャンピオンズ・リーグの常連であり、今シーズンももちろん、出場資格を得ている。柿谷が入団すれば、いきなり“夢の舞台”でプレーできる可能性があるわけだ。
青とえんじのチームカラーは、スペインのバルセロナを彷彿とさせるが、実はバーゼルの方が本家である。バルセロナの創設者はスイス人のジョアン・ガンパー氏で、バルセロナは彼がプレーしていたバーゼルをモデルに作られたのだという。バルセロナの攻撃的スタイルも、元々はバーゼルの伝統であった。
「ヨッギーリ」の愛称で呼ばれるバーゼルのホーム・スタジアム、ザンクト・ヤコブ・パルクは2001年に完成した比較的新しいスタジアムで、地元開催のユーロ2008を機に拡張された。4万2000人収容のスタンドはほぼ毎試合、満席となる。バーゼルは熱狂的なファンが多いことでも知られ、試合中、彼らは大声を張り上げながら立ち上がり、一部のウルトラスは発煙筒を投げ込むなど危険な行為で問題となることがある。
2002-03シーズンには、トルコ系のスイス代表MFハカンとDFムラトのヤキン兄弟、元アビスパ福岡のFWフリオ・エルナン・ロッシらの活躍により、チャンピオンズ・リーグで2次リーグに進出。ユヴェントスやマンチェスター・ユナイテッドと互角以上の戦いを繰り広げ、その名を世界に轟かせた。
このシーズン以降、ブランド力を高めたバーゼルは、各国のスカウトたちの注目を一段と集めるようになった。下部組織の充実ぶりも目を見張るものがある。ワールドカップでの活躍も記憶に新しいスイス代表MFシェルダン・シャキリはバーゼル育ちで、2011-12シーズンのチャンピオンズ・リーグのベスト16入りを置き土産に、バイエルン・ミュンヘンへと旅立っていった。
今年1月、21歳のエジプト代表FWモハメド・サラーが約1300万ユーロでチェルシーに移籍したことも記憶に新しいところだ。また、先月、バルセロナに入団したクロアチア代表MFイヴァン・ラキティッチも、バーゼルの下部組織で育った選手である。バーゼルでの成功は、ビッグクラブへのステップアップに繋がりやすい。
クラブOBであり、カリスマ的な指導力を発揮したムラト・ヤキン監督が率いていた昨シーズンまでのバーゼルは、ワールドカップに出場したスイス代表GKヤン・ゾマーとファビアン・シェアらを擁す堅い守備と、MFマティアス・デルガドのゲームメーク、ヴァレンティン・シュトッカーの突破力を生かした組織的でスピード溢れるカウンターサッカーを売りにしていた。
ヤキン監督がスパルタク・モスクワに引き抜かれたため、今シーズンから元ポルトガル代表のパウロ・ソウザ氏が指揮を執ることが決まっており、よりポゼッションに重きを置いたスタイルを目指すことが想定される。ソウザ氏は、レスター(イングランド2部)時代に自ら希望して阿部勇樹(現・浦和レッズ)を獲得した監督であり、「テクニックに長けていて、とても働きもの」と、日本人選手に対する評価も高い。ソウザ氏の存在は柿谷にとってアドバンテージとなるだろう。
とはいえ、柿谷のライバルとなるアタッカー陣は粒揃いで、レギュラー奪取が容易なわけではない。キャプテンを務める33歳のマルコ・シュトレラー、ワールドカップにも出場したコートジボワール代表ジョヴァンニ・シオ、そして20歳のパラグアイ代表デルリス・ゴンサレスに加え、北朝鮮代表パク・クァンリョンも、2部のファドゥーツへのローン移籍から戻ってくる見込みだ。
バーゼルのホームタウンに目を移そう。スイス北西部に位置するバーゼルは、チューリッヒに次ぐスイス第二の都市といわれる。町中をライン川が貫き、川に沿ってほどよく都市化されているため、暮らす上での不自由は少ない。緑も多く、大都会や観光地の喧騒とも無縁であり、町並みは美しく落ち着いた雰囲気も持ち合わせている。
ドイツ、フランスと国境を接しており、日常会話ではドイツ語やフランス語が行き交うものの、外国人同士のコミュニケーションでは英語が頻繁に使用される。川島永嗣や本田圭佑らがそうであるように、柿谷はまず英語でしっかりとチームメートとコミュニケーションを取っていくことが求められるだろう。
2006年から2年にわたりプレーした中田浩二(現・鹿島アントラーズ)は、バーゼルについて「とても過ごしやすいところ」と話していた。前年に移籍したマルセイユでほとんど出場機会を得られなかった中田だが、バーゼルでは一転、レギュラーとしてリーグ優勝に貢献するなど、復活を遂げたのだ。 スイスリーグのレベルはブンデスリーガやセリエAには及ばないだろうが、海外初挑戦のクラブとして、そしてビッグクラブへのステップアップとして、歴史、文化、環境的な側面から柿谷にとってバーゼルは申し分ないクラブといえるだろう。昨シーズン、バーゼル相手にゴールを決めたヤング・ボーイズの久保裕也との競演が、今から楽しみでならない。