プロレス実況で絶大な人気を誇り、一時代を築いた古舘伊知郎。
プロレスに限らずF-1でもムーブメントを起こした実況でお祭り騒ぎを創出した古舘節が、伝統の一戦を前にした鹿島アントラーズの公式YouTubeチャンネルで炸裂した。
それは、決して「因縁」なんかじゃない!
戦を生き抜いた「戦友」だ!
「伝統」の激突。
新たな歴史を刻め! 鹿島横浜国立決戦!
鹿島の風神、ゴール前の羅生門、人間咸臨丸……、うなる古舘節。削りに削った一文の連続は、一文字一文字へのこだわりを感じさせる。スポーツ実況として名を馳せる古舘伊知郎による、実況プロモーション動画が制作された経緯の裏に何があったのか。クラブスタッフは振り返る。
「鹿島対横浜FMは、Jリーグ草創期から続く対戦カードです。タイトル獲得数も鹿島が1位で横浜FMが2位。日本サッカー界をけん引してきたチームの対戦が国立競技場で行われるということで、クラブとしてファンベース拡大に力を入れるなか、試合の価値を伝えてカシマスタジアムよりも幅広い層を呼べる立地を生かしたプロモーション展開を目的にした施策でした」
試合のプロモーションムービーを制作するにあたり、国立競技場という集客における立地の良さから、スポーツイベント好きやスポーツが持つ熱さに惹かれる人にもターゲットを広げ、フットボール色が濃すぎない、スポーツの熱さを伝えられる人をリストアップ。プロモーション動画はナレーションになりがちだが、あくまで実況により“スポーツの熱”を伝えることにこだわった。日本スポーツ界における実況のレジェンド、古舘伊知郎さんにお願いできないか。プロジェクトは動き始めた。
ターゲットを拡大解釈したことで生きる、“違和感”の創出
「初めにお話をさせていただいたとき、古舘さんサイドから、『大前提としてサッカー界で仕事をしてきていない、あくまで外部の人間だということを了承いただきたい』というお願いがありました。そこはこちらも同じ考えで、だからこそ、伝えられるものがあるとお願いしたことでオファーを受けていただきました」
ターゲットを拡大解釈したことで生きる、“違和感”を創出した。
クラブからのリクエストとして、古舘節があった。
古舘節とは、実況者としてアントニオ猪木や往年のプロレスラー個々の良さを、こだわった言葉表現で伝えてきた積み重ねが特長の一つにある。クラブの人間では考えられないような選手の形容や、フットボールの実況者では表現できない形で選手の魅力を伝えたい。
その願いは、クラブとともに言葉として紡がれ、これまでのサッカー界におけるプロモーション動画とは一線を画した仕上がりの一助となった。
「今回の古舘さんの実況は、サッカー好きには違和感ばかりだと思います。植田直通を“ゴール前の羅生門”だなんて、誰が想像できるでしょうか(笑)。違和感はものすごくあるんですが、それこそが狙い通りのものでした。新日本プロレスはじめ格闘技やF-1など、サッカーとは違う畑で培ったプロの技を、サッカーの畑で表現すること。つまり古舘さんだからこそ作れた違和感だと考えています」
国立競技場での撮影当日、古舘伊知郎の熱量が演出を決めた場面があった。
動画終盤のシーン。古舘伊知郎が熱い言葉を言い終えたそのとき、突然机をドンっと叩いた。締めの言葉からタイミングを図って真紅の幕が下りるシーンが続く予定だったが、机を叩いたことを合図に幕を下ろすこととした。
「幕を下ろすのはスタッフによる手動だったんですが、打ち合わせや台本の段階で想定していない、古舘さんご本人の熱量が現場にありました。台本にはない力強さを生み出したんです。『目の前のオリジナル10を退けて、Jリーグの頂点へ!』。この迫力を目の前で確認した瞬間は本当に嬉しくて、また作品のいい手応えになりました」
赤き戦士達よ、炎のごとく燃え上がれ。
古舘節の後に真紅の幕が下りたその瞬間、CGに見えるほどの満点の青空が広がっていた。
6月1日、国立競技場。「鹿島横浜国立決戦」が幕を開ける。
明治安田J1リーグ 第17節
鹿島アントラーズvs横浜F・マリノス
6月1日(土)15時キックオフ
国立競技場
◆古舘節が炸裂! 「鹿島の風神」「ゴール前の羅生門」「人間咸臨丸」……、実況に意図して込めた“違和感”とは。(Sportiva)