日刊鹿島アントラーズニュース

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2013年9月24日火曜日

◇Jリーグ2ステージ制をシミュレート 問題点は?(サンスポ)


http://www.sanspo.com/soccer/news/20130923/jle13092317490002-n1.html

 Jリーグの2015年からの新たな大会方式が、反対意見に包まれながらも先週発表されて以来、経済面・マーケティング面の利益を含めた2ステージおよびプレーオフ方式のメリットについて、またそのデメリットについて様々な議論が行われてきた。

 だが、そういったテーマは一旦脇に置いて、一つの疑問に答えてみたいと思う。新たな方式は、どのチームがJリーグ王者となるかを決める上で明確な影響をもたらすことになるのだろうか?

 検討材料として、GOALでは2012年から2005年までを遡ってシミュレーションを行ってみた。05年は1ステージ制が初めて導入されたシーズンであり、間違いなく最も劇的な結末を迎えたシーズンでもあった。

 なお、Jリーグは新制度において、プレーオフ進出の資格を得るチームが重複した場合の扱いをまだ決定してはいない。ここでは、次のような仮想の方式のもとでシミュレーションを行うこととする。

 ◇プレーオフ進出チーム決定方法

 1)シーズンの各試合の結果は、現実の1シーズン制で行われたものと同じとする。1シーズン制の前半戦が第1ステージ、後半戦が第2ステージの結果となる

 2)プレーオフに出場する5チームは、年間勝ち点1位チーム、第1ステージ優勝チーム、第2ステージ優勝チーム、第1ステージ2位チーム、第2ステージ2位チームの順に割り当てられる

 3)チームが重複した場合は、次に出場資格を持つチームを繰り上げる

 4)勝ち点が並んだ場合、得失点差で順位を決定する

 ◇プレーオフ試合結果の決定方法

 1)Jリーグの発表に基づき、ステージ優勝チームが2位チームをホームに迎えてスーパーステージ準決勝を戦う

 2)スーパーステージ決勝は、年間勝ち点が上位のチームのホームで開催。チャンピオンシップは、年間勝ち点1位チームのホームで開催

 3)プレーオフの試合結果は、その年の現実のレギュラーシーズンの同一カードと同じとする

 4)引き分けの場合、J1昇格プレーオフと同様に、ホームチームを勝者と見なす

 さて、この条件のもとで、過去8シーズンのJリーグが2ステージ&プレーオフ制で開催されていたとシミュレートすればどうなるだろうか?

 結論から言えば、優勝チームは1ステージ制の場合とまったく同じだった。

 確かに、過去8年間の仮想の「チャンピオンシップ」を制したチームは、34節を通して最も多くの勝ち点を獲得したチームと同じという結果となった。だがそのデータからは、多くのことを読み取ることができる。

 【短期的成功と長期的成功】

 8シーズンのうち、年間勝ち点最多チームがステージ優勝できなかった例は3回のみ。

 2011年 柏レイソル(第1ステージ2位、第2ステージ2位)

 2008年 鹿島アントラーズ(第1ステージ2位、第2ステージ3位)

 2005年 ガンバ大阪(第1ステージ2位、第2ステージ5位)

 1つ目の例は、柏ファンなら馴染みのあるケースだろう。柏は2000年に年間最多の勝ち点を獲得しながらも、チャンピオンシップに出場すらできなかったことがあった。

 年間勝ち点2位のチームがプレーオフ出場を逃すケースは、8シーズン中2回。

 2009年 川崎フロンターレ(第1ステージ4位、第2ステージ3位)

 2005年 浦和レッズ(第1ステージ4位、第2ステージ3位)

 現実であればこれらのチームは十分な賞金を得た上で、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)にも出場できるという結果だったが、新制度に当てはめれば何も得ることなくシーズンを終えてしまったということになる。

 年間勝ち点が5位位内のチームが、プレーオフ進出を逃すことになる例は次の通り。

 2010年(川崎フロンターレ:5位)

 2009年(川崎フロンターレ:2位、FC東京:5位)

 2008年(名古屋グランパス:3位、大分トリニータ:4位)

 2005年(浦和レッズ:2位)

 2009年には、年間総合勝ち点では8位どまりだったアルビレックス新潟が、第1ステージの2位チームとしてプレーオフに進むことになる。08年には年間12位の柏レイソルが、こちらも第1ステージ2位の枠でプレーオフに進出する。(両チームとも第1ステージ3位だが、第1ステージ優勝の鹿島が年間総合1位になることで繰り上げ)

 【ホームの強さ】

 シミュレーションとして結果を決めたスーパーステージの18試合のうち、ホームチームが敗れる結果となったのは6回のみ。チャンピオンシップの8試合では、実際のレギュラーシーズンでアウェーチームがホームチームを下した例は一度もなかった。

 ナビスコカップや天皇杯の決勝を観戦したことがあればお分かりかと思うが、国立の寒さの中で行われる一発勝負ではどんなことが起こってもおかしくはない。リーグ側としてはチャンピオンシップを国立で開催することを望んでいるのは間違いないと思われるが、当面は新国立競技場の建設のためそれは不可能となる。年間勝ち点最多チームにチャンピオンシップのホーム開催を認めるのが、考えられる最大限の譲歩ということになるだろう。

 【複雑なシステム】

 オーストラリアのAリーグでは、レギュラーシーズンの上位6チームが、年間チャンピオンを決定するためのファイナルシリーズに進出する。MLS(メジャーリーグサッカー)では2つのカンファレンスの上位5チームずつがプレーオフを戦う。どちらのシステムにも問題点がないわけではないが、理解は容易なものであり、それぞれのサポーターに受け入れられている。

 だが残念ながら、Jリーグの新制度はそうではなさそうだ。今回行ったシミュレーションの通りにプレーオフ枠が決定されるとすれば、レギュラーシーズン最終節の結果が5つの出場枠すべてに影響することも起こり得る。1つのチームが年間の成績に基づいて2つ(あるいは3つも可能)の枠を占めたとすれば、余った1枠には次のチームが繰り上げられる。そのチームがステージ優勝していたとすればまた次のチームへ…。実際のところ、この方式を用いると、第2ステージの5位チームがプレーオフに進出することもあり得る。2006年(清水エスパルス)、07年(川崎フロンターレ)は実際にそのようなシミュレーション結果となった。

 こういったことを計算や説明するのが困難だという事実そのものが、新たなシステムがいかに入り組んだものであるかを明確に示していると言うべきだろう。Jリーグが模倣を試みているプロ野球のクライマックスシリーズにすら程遠い代物だ。平均的なファンは、プレーオフの出場枠決定に関して、自分の支持するチームがどういう状況にあるのかを把握できるだろうか? 平均的なTVコメンテーターは、どういったシナリオが起こり得るかを番組内で間違わずに説明できるだろうか? そしてより重要なことに、Jリーグが何としてでも支持を取り戻さなければならない対象である子供たちは、このシステムを少しでも理解することができるのだろうか?

 【負けた方が得?】

 ここで、2009年を例に取り、仮想の上で起こり得る状況を見てみよう。ただし、あくまで上記の「仮定」のプレーオフ出場決定方式に基づいたものであることをご注意いただきたい。

 第1ステージにあたるこの年の前半戦を終えた時点で1位は鹿島アントラーズ、2位は浦和レッズ。この2チームはこの時点で、プレーオフの出場権を獲得したことになる。

 現実の1ステージ制の場合と同じ結果でシーズンが進んだとすれば、第2ステージの最終戦を前にした時点で、年間勝ち点の首位は鹿島。2ポイント差で川崎フロンターレが続く。最終節は鹿島が浦和と、川崎Fが柏レイソルとの対戦だ。

 なお、最終節を待たずに第2ステージの優勝はガンバ大阪に決定し、プレーオフ出場権を獲得。浦和は最終節で鹿島に勝てば第2ステージの2位も狙えるが、すでに第1ステージの2位を確保している以上、さほど意味はないことになる。

 ここで問題は、鹿島が年間総合1位としてチャンピオンシップの出場権を獲得したとすれば、第1ステージ優勝でのプレーオフ進出枠に浦和が繰り上げられ、スーパーステージ準決勝をホームで戦うことができるということだ。

 浦和が最終節で鹿島に勝てば、(現実の結果に基づけば)柏を下した川崎Fが年間総合1位となり、浦和は第1ステージ2位の枠でプレーオフ進出。スーパーステージ準決勝では、アウェーでG大阪と対戦しなければならない。逆に鹿島に負ければ、川崎Fの結果にかかわらず鹿島は年間勝ち点1位となり、繰り上げられた浦和はホームで第2ステージ2位チーム(広島)と対戦。明らかに、浦和は第2ステージ最終節で鹿島に「負けた方が得」という状況になってしまうのだ。

 実際にこのような状況が起こり得るかどうかは、現時点でまだ決定されていない、プレーオフ出場チームが重複した場合の扱い次第だ。だが、ポストシーズンの試合を通して得られる収益が新制度導入の主要な目的である以上は、(かつての2シーズン制の「完全優勝」のように)試合を開催しないという選択肢は考えにくいのではないだろうか。

 そうなれば、何らかの「繰り上げ」を用いて出場チームを決める以外になく、ねじれた状況が発生する可能性が出てくる。第1ステージで2位や3位だったチームが後半戦に調子を落とし、年間総合1位やステージ優勝が狙えなくなった状況で第1ステージの優勝チームと対戦したとすれば、勝ち点3を「プレゼント」して繰り上げを期待する方が得だという状況がどうしても生まれる。「フェアプレー」の一言で全力の戦いを要求すれば済むものではないだろう。

 【小規模クラブには厳しいお金の話】

 新制度の最大の売りの一つは、新たなスポンサーや、より好条件のテレビ放映契約がもたらされることが期待できる点だとされている。年間10億円と見積もられる利益が各クラブに分配されるにせよ、メディア露出や若手育成に使われるにせよ、その恩恵は全クラブが等しく受けるということになるだろう。

 だが、ホームゲームの増加に伴うチケット売上や、試合開催に伴って生じる諸々の利益についてはどうだろうか? その利益の大部分を、プレーオフ参加チームが手に入れることになると推定するのはたやすい。その結果として、持つ者と持たざる者に驚くほどの差が生まれてくることになる。

 過去8シーズンでポストシーズンに出場したことになる15クラブのうち、出場回数が最も多いのはガンバ大阪(6回)で、浦和レッズと鹿島アントラーズ(5回)がそれに続く。最も試合数が多いのはG大阪と浦和(10試合)で、ホームゲームが最も多いのはG大阪(7試合)。鹿島は5試合のホームチームを開催するが、そのうち3試合が利益の大きいチャンピオンシップ決勝ということになる。

 これらの試合の入場料収入がJリーグ全クラブで均等に分配されるのでない限りは、ホームチームには巨大な経済的恩恵がもたらされる。大規模スタジアムでの全席完売の試合が1つ増えるだけでも大きな収入だ。それが5回や7回になれば、小さなクラブにとっては夢に見ることしかできないような巨大な利益となる。

 【結論】

 リーグや各クラブ関係者の公式声明を通して、Jリーグ実行委員会の中でも、この案が最善だと考えている者は皆無でないにせよ少数であることがうかがい知れる。それでもリーグの経済的持続性を維持し、国内外での認知度を高めるために、必要な選択だと判断されたということだ。

 Jリーグを救いたい、という関係者の言葉が本心からのものであることに疑いの余地はない。だが彼らの声明と、新制度によって現場で何が起こり得るかを検証した結果を見比べると、Jリーグ関係者はこのリーグを日本の代表的なスポーツコンペティションだというよりも、まず第一にマーケティングの道具だと考えているかのようだ。ファンや選手はそこから置き去りにされている。

 スポーツ的な観点で言えば、2ステージ+プレーオフ制度には、良いパフォーマンスが報われなかったり、幸運な結果が過度の恩恵をもたらしたりするような可能性が大きすぎると言わざるを得ない。それは、リーグの全体的な競争力を高める結果にはつながらないだろう。ファンにとって、特に小さなクラブのファンにとってアピールポイントはほとんどない。結局は優れたチームが勝つことになるとしても、それならなぜ、最後の4試合を戦う必要があるのかと疑問に思わずにはいられないのではないだろうか。(Goal.com)

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