磐田戦の1−0勝利を支えたボランチ・土居聖真のビジョン……J1屈指の内部競争
鹿島アントラーズのボランチがホットゾーンになってきている。代表ウィーク明けに行われたホームでのジュビロ磐田戦で、ランコ・ポポヴィッチ監督は負傷明けの佐野海舟に代わり、二列目が本職の土居聖真をボランチに起用。FWを従来の本職とする知念慶とのコンビで後半33分までプレーし、1−0の勝利に貢献したのだ。さらに終盤には右サイドバックの濃野公人がボランチに移って、粘り強く試合をクローズするというサプライズもあった。
土居はボランチ起用にも特に驚きなく、実戦でトライできたようだ。「しっかり幹の部分というか、そこがあったからこそ、慣れてないポジションではありますけど、そつなくこなせたのかなというのはあります」と手応えを感じつつ、1−0で勝利した試合の中でも「個人的にはもっとゴール前に絡みたかったんですけど、チームとして特に後半、速い攻めが多くなりすぎて、単調な攻撃がちょっと後半になるにつれて多くなった」と振り返り、すでに選手たちと課題を共有したという。
もちろん土居としては二列目でのプレーも意識にあり、ボランチを経験したことで二列目に生かせることは「サポートの位置だったり、仕方だったり、守備のときに自分が助けてあげるだったり……たくさんありますね」と意欲を隠さない。
しかし、同時にボランチでまたチャンスをもらったとしても「どんな状況でも、個人的にはやることは変わらないので。いい準備するだけです」と自分に矢印を向ける。
■ボランチ問題を抱える中で
ポポヴィッチ監督が就任した当初は10番・キャプテン・選手会長の三役を担う柴崎岳と日本代表の佐野海舟というファーストセットが予想されたが、柴崎が宮崎キャンプ中のトレーニングマッチで負傷し、一昨年まで町田でポポヴィッチ監督の指導を受けた佐野も、アジアカップに招集されたことでキャンプに参加できなかった。
それでも中盤のポリヴァレントである樋口雄太や名古新太郎、21歳の舩橋佑と言った候補はいたが、ポポヴィッチ監督はFWの知念慶をボランチにコンバートすると、最初は戸惑いを見せながらも川崎で磨いた”止めて蹴る”の技術と戦術眼を発揮して、開幕戦からボランチのスタメンに定着した。
佐野も幸か不幸か、日本代表がアジアカップの準々決勝で敗退したことにより、開幕スタメンに間に合い、樋口は右サイドハーフで名古屋との開幕戦に出場した。
知念が欠場した第3節の町田戦で佐野は樋口と組んだが、第4節の川崎戦は知念が復帰し、リーグ戦では9年ぶりとなる歴史的な勝利を佐野と支えた。そこから日本代表に選ばれていた佐野が怪我で代表活動を辞退。チーム練習からも一時的に外れることになり、ボランチ問題に行き当たる。そこでポポヴィッチ監督が指名したのは土居だった。
■ボランチはJ1屈指の内部競争
普通に考えれば中盤のポリヴァレントである名古や樋口で埋めそうだが、土居は守備のタスクをこなしつつ、持ち前の攻撃センスをあまりセーブすることなく、前目に絡んでいくスタイルで鹿島に流れを引き寄せた。中盤のバランスワークを重視する監督だったら、従来FWの知念と二列目が本職の土居などという組み合わせは考えにくいが、ポポヴィッチ監督の前向きな思考を理解すれば、その選択も道理を得る。
柴崎の復帰は今もって不透明だが、ボランチというポジションで佐野、知念、土居という異色の競争が発生している。しかも、そこにポポヴィッチ監督の愛弟子でもある”ライコ”こと新外国人MFのラドミル ・ミロサヴリェヴィッチが加わることに。紆余曲折はありながらも、鹿島のボランチはJ1屈指の内部競争になりつつあるのだ。
(取材・文/河治良幸)
土居聖真もボランチのライバル&相棒に……佐野海舟が持つチーム内での危機意識
ランコ・ポポヴィッチ体制の鹿島アントラーズで、中心的な働きが期待された柴崎岳の離脱は確かに痛い出来事だった。
しかし、気鋭の指揮官はその危機的な状況も柔軟な発想で、強みに転換してしまった。FW知念慶のボランチ起用にはじまり、日本代表のMF佐野海舟を怪我の影響で欠いた磐田戦では二列目のスペシャリストだった土居聖真を一列下げて知念と並べる驚きの起用法を見せた。そして磐田戦を1−0の勝利で乗り切るだけでなく、今後に向けた選択肢を増やす結果となった。
この期間には鹿島の生え抜きでもあるMF舩橋佑のコンディション不良もあった。もし彼の状態が万全であれば、オーソドックスに昇格4年目のボランチにチャンスを与えていたかもしれない。その舩橋は、練習に復帰してきた現在、今、最も手薄なポジションであるセンターバックでもテストされているという。
磐田戦の翌日、ようやくチーム練習に本格合流した佐野に聞くと「今日の練習、めっちゃきつかったです」と語りつつ、離脱している期間に「しっかりいろんな整理もできた」と語る。確かに振り返れば、昨年に当時J2だった町田から加入した鹿島で、メキメキと頭角を現してボランチの主力になり、日本代表にも選ばれて欧州遠征、年明けにはアジアカップと、ほぼ休むまもなく時間は進んで行ったのだろう。結果論だが、短いながら佐野には必要な時間だったのかもしれない。
■「もちろんライバルです」
その佐野はボランチの土居を含め、磐田戦を観て「とても良かったと思いますし、いい崩しもたくさんあった。練習でやってることがすごく出せている」と語る。そうした中で、再び自分が入った時に「チームとしてうまくはまるといいなっていうふうには思ってるんで、それをできた上で、自分の良さっていうのを出すことをやっていければ」と語る。
ボランチで土居と組む可能性について聞くと「もちろんライバルですし、自分が組める立場でもないと思うので。それは、自分もまたイチからやらないといけない」という言葉が返ってきた。謙虚さと野心を併せ持つ佐野らしい回答だが、ハイレベルな競争に身を投じることに対する前向きな危機意識を感じさせた。
新加入のライコともミニゲームなどで一緒にやって、佐野は「球際だったり、そこの部分が特長なのかなというふうには思いました。そこからのシュートもインパクト強いものを持っている」と感想を語る。佐野としては誰と組んでも、バランスを見ながらタスクと自分の武器の出しどころを見極めていくスタンスであるようだ。
そうこうするうちに、真打ちとも言える柴崎が帰って来れば理想的だが、開幕前は絶対的な存在と思われた柴崎が試合に出られる状態になっても、ポジションや約束されないようなボランチの競争状態は鹿島がタイトルを目指す上で、ポジティブなことでしかないだろう。
(取材・文/河治良幸)
◆【J1鹿島のボランチが熱い。土居聖真と佐野海舟の言葉から読み解く競争の構図】(サッカー批評)