Jリーグ屈指の名門、鹿島アントラーズに所属するMF荒木遼太郎(19)が、11月3日開催の明治安田生命J1リーグ第34節サンフレッチェ広島戦で偉大な記録を達成した。「10代での2桁得点」である。これは29年の歴史を持つJリーグにおいても、元日本代表の城彰二氏(当時ジェフユナイテッド市原所属)以来2人目の快挙となる。
荒木遼太郎とはどういった選手なのか、どれほどの期待ができるのだろうか。これ以外にも持つ記録と共に荒木の魅力を紐解いていく。
荒木遼太郎のプロ1年目まで
熊本県北部に位置し、県内一の温泉湧出量を誇る山鹿市に生まれた荒木は、幼稚園児の頃にサッカーを始めた。幼い頃は様々なスポーツをしていたが、ゴールを決める喜びは何事にも代えがたくサッカーを選択。プレーするだけでなく観ることも好きで、当時から鹿島アントラーズへの憧れを抱いていた。
FCドミンゴ鹿央、シャルムFC熊本を経て、中学年代ではロアッソ熊本のジュニアユースに入団。3次まである試験に1次で合格するほど、当時から図抜けた技術を持っていた。だがいざ入ってみると、身体が小さく体力に乏しい荒木は大苦戦。指導者に怒られることも多かったが、持ち前の切り替えの早さで練習に挑み続けた。
中学卒業後はユースへの昇格ではなく、東福岡高校へ進学。この選択には「より厳しい道の方が成長できる」という考えがあった。全国高校サッカー選手権大会3回、全国高等学校総合体育大会サッカー競技大会(通称・インターハイ)3回の優勝を誇る名門校でトップ下やアンカーとしてプレー。3年時には怪我の影響があり、最後の全国高校サッカー選手権は福岡県決勝で筑陽学園に0-1で敗退。荒木は途中出場したものの本来の出来を示すことはできなかった。悔しい思いをすることもあったものの、背番号10を背負い、キャプテンも経験した。
個人としては優勝したAFC U-16選手権でU-16日本代表の主力を担い、その後もU-17、U-18、U-19、U-20と各年代別代表に選出されている。
2020シーズンから憧れの鹿島に入団すると、荒木はルヴァンカップ開幕戦の名古屋グランパス戦でプロデビュー。Jリーグ開幕戦のサンフレッチェ広島戦で途中出場しJ1デビュー。鹿島の高卒ルーキーでは、開幕戦出場は元日本代表の内田篤人氏以来と、非常に順調なスタートを切った。
同シーズン、プロ1年目のリーグ戦は26試合出場2得点という数字と確かなインパクトを残した。だた、出場試合の内訳はスタメン7試合で途中出場19試合。1年目としては素晴らしい成績だが、完全な主力にはなりきれていなかった。
2年目に見せた真の凄さ
迎えた2年目となる2021シーズン、荒木の快進撃が始まる。開幕戦の清水エスパルス戦で途中出場からシーズン初ゴールを決めると、続く湘南ベルマーレ戦、サンフレッチェ広島戦と立て続けにゴール。これは27年ぶり2人目となる、城以来の10代での開幕3試合連続得点。鹿島での開幕3戦連発弾はマルキーニョス(2007-2010)以来、13年ぶり4人目の記録となった。
4月にアントニオ・カルロス・ザーゴ監督から相馬直樹監督へと監督交代を経て、中央での起用が増えると、荒木はさらに本領を発揮。アシストと得点をコンスタントに積み重ね、前述の11月3日の第34節のサンフレッチェ広島戦の得点で史上2人目となる10代での2桁得点を決めたのだ。
得点に絡む力が優れている選手であることは数字に現れているが、魅力はそこだけではない。というよりも、荒木ほど魅力が多い選手が他にどれだけいるだろうか。まずはボディバランスに優れていることと足からボールが離れないことが大きな特徴で、それを巧みに使うことでプレーの幅が非常に広い。ゴールを目指すためのドリブル、素早い反転と高いシュート意識。加えてボールを引き出す動きにも優れている。セットプレーのキッカーを務めるほどキックの精度も高い。
また、ここまでの急成長を促しているのは、切り替えの早さと現状に満足しない貪欲さだ。ロアッソ熊本のジュニアユースに入った直後も鹿島に入団した当初も苦しんだが、寝たら忘れる切り替えの早さでポジティブに課題に取り組んできた。プロ1年目の序盤戦は攻撃的な若手選手にありがちな、攻撃面の輝きと引き換えの守備面の緩さが多少見られたが、課題から目を離さずに守備の強度を改善。細かなミスが目立つなどまだ荒削りな部分はあるが、彼ならば今後も1つ1つ改善していくことだろう。
ピッチ内とピッチ外での違いも面白い。ピッチから離れると負けず嫌いな性格から一変。ピッチ外では誰からも「優しい」という声が聞こえてくるうえ、初のヒーローインタビューでは天然な面も。サポーターへのメッセージを求められた荒木は、カメラ越しでなくスタンドに直接伝えるのかと勘違いしていた。
秘める特大の可能性
プレーはもちろん、様々な面でサポーターを魅了する荒木の姿は、すでに鹿島に欠かせないものになっている。今季開幕前には「5ゴール5アシスト」を目標に掲げていた中で、3試合を残して10得点7アシスト。まずはこの数字をどこまで伸ばすのか注目が集まっている。
そしてその先には、日本代表が長年抱える「得点力」という課題を解消する可能性までも秘めている。最前線のFWが得点を奪うのではなく、トップ下に君臨する荒木をはじめとする2列目の選手達が得点を量産する。自分自身の予想をも遥かに超える成長曲線を描く荒木ならば、世界を相手にそんな姿を見せてくれる可能性を秘めている。