【J番記者コラム】2年連続でシーズン途中の監督交代を断行、鹿島の“今”にフォーカス
熟考を重ねたうえでの結論だった。6年ぶりの国内リーグタイトル奪還に向けて、鹿島アントラーズが身を切る姿勢を示した。
8月7日、今季ここまで指揮を執ってきたレネ・ヴァイラー監督との契約が解除され、その翌日に岩政大樹コーチの内部昇格が発表された。シーズン途中という微妙なタイミングながら、苦渋の決断に至った理由について、吉岡宗重フットボールダイレクター(FD)が9日のオンライン会見を通じて次のように語っている。
「クラブ創設から30年、鹿島には鹿島の考え方や目指す方向性があり、そこに監督の意向をプラスしながらチーム作りを進めてきました。監督にすべてを任せてしまうのではなく、双方の考え方をすり合わせる。そういう作業を大事にしてきました。(今季、監督に就任するにあたり)レネ監督もその点については十分に理解してくれていたわけですが、意見の相違が少しずつ大きくなってしまった。このまま続けていくことがいいのか。今後についてじっくり話し合った結果、双方が納得する形で契約を解除するという結論に至りました」
チームマネジメントにおけるさまざまな局面で判断や選択を求められるが、クラブ側と監督の意見が常に一致するとは限らない。むしろ意見の相違があってこそ自然かもしれない。
それぞれの立場で、譲れるところ、譲れないところがある。だが、そこで互いに歩み寄り、何かしらの着地点を見出せるか、どうか。吉岡FDは「平行線」という言葉を用い、相容れない部分が少なくなかったことを窺わせた。
シーズン途中の監督交代は昨季に続き、2年連続だ。一度、監督を決めたら、じっくり腰を落ち着けてチーム作りを進める印象が強い鹿島だけに、こうした例はやはり驚きをもって周囲に受け止められている(1998年、99年にもシーズン途中での監督交代劇があったが)。
チーム再出発の舵取りを託された岩政新監督が、まず着手しようとしているのが「攻守両面での整理・整頓」だ。
ヴァイラー前監督が掲げた“縦により速く、よりアグレッシブに仕掛けるサッカー”は一定の成果を上げたものの、狙いとする攻撃アクションを分析され、適切に対応されてしまうと、途端に攻めあぐねた。守備に関しても主眼であるハイプレスがはまっている時はまだしも、はまらない時の善後策が曖昧に映った。
ハイプレス&ショートカウンター一辺倒ではなく、次なる手の構築が必要だったように思われる。ヴァイラー監督自身も「状況に合わせて、臨機応変に戦わなければいけない」と繰り返したが、問題解決方法の提示が今ひとつ具体性に欠けていたかもしれない。
岩政新監督が念頭に置くのは「チームの拠り所の再構築」
岩政新監督がチームとしての課題を口にする。
「状況が悪い時や流れやよくない時に帰るべき場所をしっかり認識したなかで、サッカーをさせてあげたい。選手たちが迷子のなかで、暗闇のなかで、プレーすることのないよう、そこの整理をまずつけてあげることが必要だと考えています」
さらに、こう続けている。
「ここ10年ほどのJリーグの優勝チームを振り返ってみると、広島はミシャ(現・北海道コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督)、川崎フロンターレは風間(八宏)さん、横浜F・マリノスはアンジェ・ポステコグルー(現・セルティック監督)がチームの哲学を作られて、そこがベースとなって次の監督にも継承され、タイトルを獲っています。目先の結果ももちろん大事ですが、こういうサッカーをやっていけば、勝ち続けられる、魅力あるチームになる、日本のトップに立てる、あるいはその先までいける、と。そう感じられるような鹿島のサッカーを見つけ出すために、皆で足並みを揃えながら戦っていきたいと考えています」
念頭に置くのは、迷った時や困った時に立ちかえるべきチームの拠り所の再構築にあるようだ。短期的な視点だけではなく、クラブの未来も見据えながら、周囲の期待を背負いつつ、岩政新監督はその一歩を踏み出した。
(小室 功 / Isao Komuro)
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