知念慶(鹿島アントラーズ)インタビュー後編
◆前編はこちら>>先輩・家長昭博から届いた「心に響くメッセージ」
今季、完全移籍で加入した鹿島アントラーズのクラブハウスに足を踏み入れ、練習グラウンドに立って感じた空気を、知念慶はこう言葉にする。
「グラウンドに出ると、ちょっとピリついた空気がありました。ここで自分はゼロからまた、スタートするのかと思うと、身が引き締まりました」
練習でもさっそく、その空気感を体感している。
「在籍したチームはどこも練習から球際が激しかったですけど、アントラーズはまたさらにそれを強く感じます。特に(鈴木)優磨のスイッチが入って、練習からチームメイトに対して激しく当たりにいく姿を見ると、なおさら『これが鹿島か』って実感しますよね。
チームメイトに聞いても、それが日常茶飯事だと言うので、『鹿島の厳しさ』とはこういうことを言っているのかと思いました」
その熱さを追い求めて、知念は新天地に鹿島を選んだ。
「アントラーズでプレーする以上、戦術や技術の前に、情熱が必要だと思っています。川崎から加入したからといってうまく見せようとするのではなく、自分の持ち味でもある泥臭さを出していきたいと思っています」
知念自身も「ゼロからのスタート」と表現したように、新しい環境に飛び込めば、イチから自分の性格やプレーの特徴を周りに伝え、知ってもらわなければならない。
「率直に言えば、もちろん移籍の難しさも感じています。フロンターレ時代のように、完全に自分の特徴を出しきれているかと言われたら、まだまだなところはどうしてもある。
でも、そうした葛藤や毎日すら、今は楽しい。チームがうまくいっていない時には、自分自身がどうしたらもっとチームが機能するかを考えますし、自分がもっと活きるには、活かしてもらうにはどうすればいいかも考える。
今まではどちらかというと、自分は見ていて、みんなについていくだけでしたけど、今はチームのために、自分から動かなければいけない状況になったことで、すぐに行動に移すようになりました。そこは、自分のなかでひとつ壁を越えようとしている感覚があります」
【悠さんだったらどうする?】
鹿島の印象について聞くと、こう教えてくれた。
「アントラーズは本当に年齢の若い選手が多い。自分がフロンターレで優勝を経験した時は、成熟した選手が多くて、ゲームの流れや時間の使い方も含めて、うまくコントロールしてくれていました。
シーズンを通して試合に勝った時も、負けた時も、うまく修正して勝っていったところがあったので、自分自身も先輩たちが率先してやってきたことを、この若い選手が多いアントラーズで見せていけたらと思っています」
宮崎県で行なったキャンプ期間中の練習試合で、鹿島はJ2のチームを相手に3連敗を喫した。年齢の若い選手が多いチームだけに、その結果に一喜一憂してしまう雰囲気を知念は感じ取ったという。
「こういう時、(小林)悠さんだったらどうするんだろうなと思って、チームが苦しい時や結果が出ない時に、悠さんが取っていた行動を思い出したりしていました」
思い描いたのは同じFWであり、尊敬する選手にも名前を挙げた小林悠の姿だった。
「FWは点を獲ることが役割ですし、MFのようにチームの戦術的なところを担っているわけではないので、細かいところまで言及することはできない。
でも、チームを盛り上げるような声は出すことができるし、一人ひとりとコミュニケーションを取っていくことで、細かいプレーの話もすることができる。だから、少しずつでも一人ひとりと話をする時間を作るようにしています」
そこには2020年に1年間、大分トリニータに期限付き移籍した経験も活きていた。
「大分に移籍した時は、自分自身も初めての経験だったので、あの時、もっとああしておけばよかったとか、こうしておけばうまくいったのかなって考えることも多かった。その反省を生かして今、取り組めています」
積極的にチームメイトとコミュニケーションを取ることで、チームや自身のプレーに効果をもたらそうと努めている。
【妻から言われた自身の変化】
「性格的にめちゃめちゃシャイなので、移籍したら苦労するだろうなと思っていたところもありました。実際、大分ではチームメイトと馴染むまでに時間がかかったところもあったので。
でも、アントラーズでは自分は年齢的にも年上の世代なので、自分から積極的にコミュニケーションを取ろうと、チームメイトと食事に行くようにしています。
本音を明かせば、個人的にはひとりで食事をする時間が好きだったりするんですけど、それじゃあダメだと思って、クラブハウスでも積極的に話していますし、練習でも声を出したりと、自分からアクションを起こすようにしています」
チームメイトの家族と食事に行ったときには、妻から「前より自分から話すようになったよね」と言われたと笑う。
最も近くで知念を見てきた人の言葉だけに、彼が変わろうとしている、または変わってきている証拠なのだろう。
「自分自身でも殻を破りたい、破らなければいけないと思っていたので、ゴールを取ってチームを勝たせることが一番ですけど、優磨もそうであるように、チームのためにという献身性を大切にしていきたい。チームのために、点も獲るし、頑張って走って、戦う。そんな選手になりたいなって」
川崎フロンターレ時代は3度のリーグ優勝をはじめ、4つのタイトルを獲得した。一方、鹿島は2018年のAFCチャンピオンズリーグ優勝を最後に、タイトルから遠ざかっている。
かつて鹿島でタイトルを獲った経験のある昌子源、植田直通が復帰し、彼らが鹿島の"伝統"を継承していく立場ならば、知念は"革新"、すなわちチームに新しい風を吹かせる存在になる。鹿島ではなく、ほかのチームでタイトルを獲ったからこそ、今の鹿島にもたらせること、伝えられることがきっとあるはずだ。
公式戦で初めてディープレッドのユニフォームに袖を通すことになるJ1第2節、ホーム開幕戦の相手は、古巣である川崎だ。
◆「タイトル獲得へフロンターレを倒さなければ」…シャイな知念慶が殻を破って「叫び、吠えるアントラーズの男」になる(Sportiva)