鹿島アントラーズは19日(日本時間20日)、UAEで行われているFIFAクラブワールドカップ準決勝でレアル・マドリーと対戦し、1-3で敗れた。白い巨人は徐々にリズムをつかむと鹿島を圧倒。ベイルのハットトリックで欧州王者の力を見せつけた。この試合に臨んだ鹿島の選手たちは何を感じ、何をつかみ取ったのか
■選手たちが感じていたレアルの強度
「悔しいけど次に進める悔しさだと思う」
試合後、土居聖真は非常に複雑な心境だと言いつつ、最後にはそう締めた。
レアル・マドリー相手にゴールを決めることができた。しかもそのときのポジションはボランチ。長い距離を走りシュートを放った。しかし、「ベイルは3回やっている」とハットトリックを決めた敵のストライカーと自身とを比べる。悔しさと充実感、楽しさ。そういう感覚がこの試合にはあったのだろう。
敵は世界を代表するタレントがひしめくクラブ。アジア王者とはいえ、鹿島アントラーズとの差は歴然だった。それでも2年目前のCWC決勝での善戦は鹿島の選手たちに勇気と自信を与えていた。「レアルにリベンジ」という想いは当然あった。そのうえ、今季のレアルは好調とはいえず、リーガで勝利してもバッシングが絶えない。そんなネガティブなプレッシャーを背負ったレアルに対して、準々決勝で逆転勝利した鹿島には勢いもあった。しかし、そんな感情が油断を生んだわけではないだろう。
「調子が悪いと言われているからこそ、この大会できっかけをつかみたいという気持ちになるんだと思う」と戦前昌子源も語っている。
個の能力の高さは了承済で、それを組織でいかに守り切るかが課題だった。無失点で抑えれば、こちらに勝機は巡ってくる。同時に先制点を許す可能性も理解していた。前半終了間際に失点したが、動じることはなかった、前半のレアルは、ウォーミングアップ程度に見えたが、それでもその強度の高さを感じてもいた。
「すべてのスピードが速くて、それに対応しながら、このまま90分を戦うのは難しいという気持ちもあった」と安部裕葵が振り返っている。
■パスミスしてもベンゼマは笑っていた
後半10分までの間に2失点してしまう。2点目はバックパス絡みのミスで生まれた。
「2失点目のダメージは大きかったかな。でも顔を上げて戦いにいくところを見せたかった。でも、守備ではめて行こうとするんだけど、うまくはまらなかった。だからといって、はめにいかないと自由にされる。相手をつかめないっていうんか。とにかく差を痛感した。この差についてはいろんな言葉で表現できるんだと思う。
2年前もなめられているなと思ったけど、今回も同じだった。0-3になってからは、パスミスしてもベンゼマは笑っていた。遊んでいるようなプレーをされてしまった。一応同じプロとしてやっているのに、こっちは必死なのに、相手は笑いながらプレーしている。屈辱的だったし、これが世界との差かって実感したところもある。そういう相手にどうすればいいのか? 試合中の正解の見つけ方が最後まで出なかった」
昌子は対応の難しさを痛感していた。そして時間の経過とともに疲労に襲われ、鹿島の選手たちの苦闘はさらに増した。それは2年前とは違う苦しさだった。
「ホームだったとか、アウエイだったとか、誰がいて、誰がいないという話の問題じゃない。きっと結果を見て、そんなふうに言われるんだろうけれど、そういう話はナンセンスだと思う。レアルと対戦できるチャンスなんてそうそうあるものじゃない。そこで手を抜くとか、頑張らないなんてことはないから。気持ちを見せるプレーをしたい。球際を強く行きたいと思っても、相手がそういうふうにさせてくれなかった」
■悔しさを感じることも許されないほどの「差」
周囲の期待の大きさは分かっている。だからこそ悔しい。でも、その悔しさを感じることも許されないほどの「差」があった。しかし、タイトルを逃すことは相手がどこであっても許されない。それも理解している。だからこそ、言い訳めいた話をしたくはなかった。何を言っても言い訳にしか聞こえない。それが現実だとしてもだ。
土居が話す。
「いろんな複雑な気持ちが混ざりに混ざっています。楽しい、悔しい、もっとやりたい。みんな、チンチンにやられましたけど、それでもなんかこう充実感もありました。本当に終わってほしくない90分だった。こんなに終わってほしくない90分を感じたことがなかったかな。前回対戦も思いましたけど、そのときよりも強く思った。もっとうまくなりたい。レベルの差は感じたけれど、そうも言ってられない。これから自分がどれだけ突き詰められるか、これが今の実力だから」
「2年前に戦って『行けるな』と思っていたとしたら、大間違い。W杯と同じじゃん。南アフリカで行けるなと思ってブラジルでボン! でもそれはやらなくちゃわからないからね」
内田篤人はベスト16進出したワールドカップ南アフリカ大会とグループリーグで惨敗したブラジル大会を例に出した。時計の針はすべてのチームにとって平等に回っているはずだ。鹿島にとっての2年間は、レアルにとっても同じ2年間であるが、その進化の度合いが違うのか? それとも2年前より今回のほうがレアルは本領を発揮したということなのか?
懸命に戦った。持てる力は出せるだけ出した。それでも結果は完敗だった。できることは力の差を素直に認めることだけなのだろう。そうしなければ、前には進めない。そんな苦い再戦だった。
文=寺野典子
◆砕かれた勇気と自信。レアルの2年と鹿島の2年、その違いは何だったのか?(GOAL)