AFCチャンピオンズリーグ 準決勝 第1戦
前半90分、3-2。鹿島が2点差を挽回、内田の劇的逆転弾で水原三星に先勝!
「こえる」ための戦い、第3章。聖地が揺れた。鹿島がファイナルへと力強く前進した。AFCチャンピオンズリーグ準決勝第1戦。カシマスタジアムに韓国の水原三星を迎え撃つと、開始6分までに2失点を喫してしまう。だが、下を向く者は誰もいなかった。21分に1点を返し、迎えた後半。残り10分を切ってもビハインドを負ったままだったが、84分にセルジーニョが同点弾を記録する。そして、後半アディショナルタイム。内田のシュートがゴールネットを揺らし、カシマスタジアムが揺れた。3-2。苦しみ抜いた先に、大事な第1戦を制してみせた。
4つの大会を並行するカレンダー、8試合を戦い抜いた9月。鹿島は時間を追うごとに強く逞しく進化を遂げてきた。9日のルヴァンカップ準々決勝第2戦で川崎Fを撃破してから、公式戦6連勝。急遽の会場変更と台風直撃の苦境を乗り越え、マカオで快勝したACL準々決勝第2戦、帰国から間もなく飛行機移動をして臨んだ札幌戦、そして120分の激闘を制した天皇杯4回戦と、先発メンバーを大幅に入れ替えながら総力戦で突き進んできた。そして9月29日、神戸を相手に会心のゴールラッシュ。満員の敵地で5-0と圧勝し、リーグ戦では暫定3位に浮上した。
6戦連続マルチゴール、4連続クリーンシートと、攻守の充実を物語る数字が並んだ。しかし、選手たちに充足感など宿らない。腕章とともにチームを牽引する遠藤は「連勝の数は関係ない。優勝するために勝ち続けなければいけない」と静かに語った。そして続けた。「自分たちはまだ何も成し遂げていない」と。
勝利とともに締めくくった9月を終え、チームは鹿嶋へ帰還した。10月1日、つかの間の充電期間を経て再集合した選手たちは、クラブハウスで集中力を研ぎ澄ましていく。息つく間もなく続いていく連戦、勝負のシーズン終盤へ――。ACL準決勝第1戦、舞台はカシマスタジアム。聖地で迎える“前半90分”で力強くファイナルへと進むべく、リカバリーのメニューで心身のコンディションを整えていった。
10月2日、青空のクラブハウス。瞬く間に迎えた決戦前日、指揮官は入念にミーティングを敢行した。冒頭部分のみが公開された公式練習では、笑顔とともにウォーミングアップ。気負うことなく、しかし闘志を燃やしながら準備を進めていった。最終調整を終えた永木は「チームのモチベーションは高い。2試合合計で勝って、決勝へ行かないと」と準決勝突破を誓う。まずは、聖地での第1戦。前日会見に臨んだ大岩監督は「このタイトルを必ず獲るという気持ちがチーム全体に浸透している」と、懸ける思いを真っ直ぐに刻んだ。
神戸戦から中3日で臨む“前半90分”へ、指揮官は6名の先発変更を断行。右サイドバックに内田、左には山本を復帰させ、センターバックにチョン スンヒョン、ボランチの一角に三竿健斗、2列目に遠藤を起用した。そして前線の一角にはセルジーニョが復帰。その他、ゴールマウスにはクォン スンテ、最終ラインには犬飼が入る。健斗とともに永木がミドルゾーンを制圧し、攻撃陣には安部と鈴木が並んだ。そしてベンチにはGKの曽ケ端、西、町田、安西、小笠原、土居、金森が座る。
10月最初のホームゲーム。鹿嶋は厚い雲に覆われたが、キックオフが迫るにつれて高揚感と勝利への渇望に包まれていった。水曜日の夜だが、背番号12の情熱がスタンドを埋め尽くしていく。GK陣、そしてフィールドプレーヤーがウォーミングアップに姿を現すと、信頼と愛情を乗せた声が響き渡った。舞台は整った。メンバー外となった選手たち、無念の離脱を強いられている仲間、そして出場停止のレオ。全員の思いを一つに戦う、大一番だ。
19時ちょうど、キックオフのホイッスルが鳴り響いた。ラウンド16、準々決勝と同様にホームで試合を優位に運びたい鹿島だったが、痛恨の展開となってしまう。開始早々の2分、右CKからゴール方向へ流れたボールを内田が必死にブロックしたものの、ラインを割ってしまった。オウンゴールで失点。そして6分、自陣左サイド深くからのクリアをブロックされ、最後はペナルティーエリア左奥からデヤン ダミヤノヴィッチにシュートを決められた。
0-2。ホームでまさかの連続失点を喫してしまった。だが、反撃の時間はまだ存分に残っている。自陣に下がって守備を固める水原三星に対し、鹿島はボールを動かしながら少しずつ落ち着きを取り戻していった。13分、ペナルティーエリア右手前からセルジーニョがミドルシュート。直後にはクロスボールをゴール前で収められてピンチを迎えたが、山本が間一髪のブロックで危機を脱した。水原三星は激しいタックルを繰り返してきたが、選手たちは体を張って応戦。虎視眈々と好機を窺い続けた。
反撃の狼煙をあげたのは、21分。敵陣右サイド深くから永木が出したパスはカットされたものの、セルジーニョが粘ってこぼれ球を拾う。ペナルティーエリア右外、背番号18の選択はルーレットだった。華麗なボールタッチでマークを剥がすと、右足でクロスを送る。鈴木が競り合いながら飛び込み、次の瞬間にネットが揺れた。相手DFの頭に当たったボールがゴールへ。1-2。水原三星のオウンゴールで、鹿島が1点を返した。
勢いに乗る鹿島は27分、またもセルジーニョのパスから決定機を迎える。ペナルティーエリア内、走り込んだ安部が左足シュート。しかし、カバーに戻った相手DFに当たったボールは、わずかに枠を越えてしまった。
30分を経過すると、水原三星のボディコンタクトは激しさを増していった。背後からのタックルを連発する相手にも、鹿島の選手たちは体を張って応戦を続けていく。44分には自陣ペナルティーエリア内で必死のシュートブロック、そして小競り合いに。秩序を欠いたレフェリングも相まって、スタジアムはヒートアップしていった。前半は1-2で終了。ハーフタイムを経て、さらなる反撃へ――。サポーターズシートは情熱をたぎらせ、ピッチへと帰還する選手たちを迎え入れた。
先の小競り合い、守護神に提示されたイエローカードで「スイッチが入った」と内田は言う。後半キックオフのホイッスルが鳴り響くと同時に、鹿島は果敢に攻めた。47分、鈴木とのパス交換から内田がペナルティーエリア右奥へ抜け出す。完全に裏を取った次の瞬間、相手DFに腰を押され、背番号2がピッチへ転がった。瞬時の沸騰、しかし吹かれない笛。PKは得られなかった。怒号に包まれた聖地は、反撃への闘志をさらに熱く燃え上がらせた。
56分、大岩監督は安西を投入。左サイドに推進力を加え、攻撃の圧力をさらに高めていく。60分経過後は水原三星が守備を固め、鹿島が敵陣でのプレーを続ける展開になった。72分には土居が投入され、ペナルティーエリア内に密集する白い壁の突破を図る。75分、80分と、時計の針は進んでいった。2つ目のスコアはまだ刻まれない。
83分、この夜最後の交代カードは西だった。遠藤から思いを託され、戦いの舞台へ。そして、次の瞬間。スンヒョンが繰り出した縦パスを受け、背番号22が反転する。マークを剥がし、鈴木がワンタッチでリターン。走路が開けた西、その選択はグラウンダーのクロスだった。正確無比のラストパス、走り込んでいたのはセルジーニョ。右足で押し込み、ネットが揺れる。2-2。ついに追い付いた。しかし、まだ同点。聖地の視線には勝利しか映らない。残り数分、痺れるような時間が始まった。
安西が仕掛ける。87分、ペナルティーエリア左手前から強烈なミドルシュート。相手GKはその軌道を見送るしかできなかったが、ボールはクロスバーを直撃した。90分、セルジーニョのバイシクルシュートも枠を捉えない。表示されたアディショナルタイムは3分。最終盤、勝ち切れるか――。
90+3分、敵陣右サイドからのFK。セルジーニョが送り込んだボールに選手が殺到し、ペナルティーエリア内が混戦に。こぼれ球に反応したのは、遠藤から腕章を受け継いでいた内田だった。右足でのプッシュは相手DFに当たり、GKの手から遠ざかっていく。ボールは、サポーターの待つゴールへ。3-2。内田篤人、復帰後初ゴール。「タイトルを獲るために帰ってきた」と決意を刻んだ背番号2が決めた。鹿島が大逆転劇を演じてみせた。
前半90分終了、3-2。2つのアウェイゴールを失ったが、ホームでの絶対条件である勝利を土壇場で掴み取った意味は極めて重い。敵地での後半90分は3週間後、10月24日。総力戦で、ファイナルへと突き進むのみだ。そして次戦は4日後、7日のJ1第29節。再び聖地で迎える一戦、対峙するのは川崎フロンターレ。意地と気迫をみなぎらせ、結果で矜持を示さなければならない。勝利だけを目指して、準備を進めていく。
【この試合のトピックス】
・ACL通算31勝目を記録し、G大阪と並んだ。
・水原三星とは今大会3回目の対戦で、2勝目(1敗)を記録した。
・水原三星とのACLでの対戦は通算7回目で、3勝目(2分2敗)を挙げた。
・セルジーニョがACLで3試合連続の3得点目を記録した。
・内田が鹿島復帰後初得点。2010年3月30日のACLグループステージ第5節、ペルシプラ・ジャヤプラとのアウェイゲーム以来だった。
監督コメント
[ハーフタイム]
鹿島アントラーズ:大岩 剛
水原三星ブルーウイングス:イ ビョングン
[試合後]
鹿島アントラーズ:大岩 剛
早い時間帯に2失点したことは反省材料だ。当然、第2戦に向けて修正しなくてはいけない。最後の最後まで、選手たちが戦う姿勢を見せたことで、勝利につながった。非常に評価しているが、週末のリーグ戦に向けて気持ちを切り替えて臨みたい。
Q. 厳しい日程のなかでの試合だったが、特にメンタル面でどんな準備をして臨んだか?
A. 相手を分析するなかで、アウェイでの試合に入り方にすごく特長があり、アグレッシブにくると選手たちに伝えていた。警戒しつつ、ホームなので、しっかり注意力を持ち、こちらもアグレッシブに入ろうと話していた。相手の勢いは強く、速いものがあった。選手の頭の中がACLに切り替わっていない部分もあった。もう少し強く警戒して試合に入らなくてはいけなかったと反省している。後半は人やシステムを変えるなかで、トレーニングでやったことを選手が出してくれた。次の試合にもしっかり生かしたいと思う。
Q. 1人目の交代で、安部選手と安西選手を代えた意図は?
A. 2枚目、3枚目の交代も考えて、1枚目のカードを切った。安西を入れたのは彼の特長であるワイドの推進力を生かしたかったから。安部が少し内側に入ってくることでプレッシャーを受けていたので、サイドから攻撃することを徹底して、安西を張らせて山本と2人でサイドを制することを意図していた。そこで相手を押し込み、2枚目、3枚目というプランがあった。
水原三星ブルーウイングス:イ ビョングン
負けてしまい残念だが、準備してきたことが出せて、内容はよかった。3-2というスコアだったが、第2戦は勝って決勝進出を決めたい。両チームの選手が非常にいいプレーをしたので、拍手を送りたい。この試合を自信にして、次の試合に臨みたい。次は必ず勝ちたい。
選手コメント
[試合後]
【内田 篤人】
バランスを崩してしまったし、ホームでこのような戦いをしたのはよくない。失点が早すぎたから、このようになってしまった。まずは前半のうちに1点取れたことで、首の皮がつながった。後半始まる前に円陣を組んだ時、「2失点した以上、引き分けか勝ちに持っていかないといけない」という話はした。(ゴールは)DFにぶつかって優磨にゴールさせようとブロックしたところにこぼれてきた。
【セルジーニョ】
試合の入りは自分たちらしくなかった。早い段階で2失点をしてしまったけど、落ち着いてやろうと思っていた。1点を返して、感触を持ってハーフタイムを迎えた。やるべきことをやった。ホームでの自分たちのパワーはわかっていたので、平常心でプレーすればいいと思っていた。
【西 大伍】
自分が点を取るつもりで入った。最近にはない試合の入り方で、受けてしまっているように見えた。後半は相手も落ちてきて、聖真がいい位置で受けてリズムができていた。(ゴールシーンは)いいところにボールを止めて、どうしようかと見た瞬間がいいタイミングだった。
【安西 幸輝】
リズムが良くない状況で途中から出場した時は、流れを変えなければいけない。仕掛けて流れを変えることを意識していた。聖真くんが入って、間(スペース)で受けて縦パスが増えたので、全体が前を向けるようになっていた。相手は気持ちが強く戦っていると思っていたので、負けないように意識した。
【山本 脩斗】
チームとして逆転できたのはよかった。自分は失点に絡んでしまった。相手が前から来ると分かっている中で、自分のところでやられてしまった。アウェイもあるので、次は絶対に同じことがないようにやりたい。
【クォン スンテ】
細かいミスが勝負を分けると強調していた中、もったいない失点が続いてしまった。相手が韓国のチームで、負けたくないという気持ちは持っていた。(警告を受けた場面は)よくないことではあるけど、選手のスイッチを入れるために必要だと思った。勝ててよかった。
【チョン スンヒョン】
(2点目につながる縦パスは)大伍さんだから、信じて出した。韓国のチームとの対戦では負けたくないという思いがあったし、アントラーズのために勝ちたかった。
【遠藤 康】
平日だったけど、たくさんの人がスタジアムに来てくれた。アウェイチームの士気も下がるだろうし、こっちのモチベーションも違う。ただ、勝つことはできたけど、こんな試合では次は勝てない。切り替えないといけない。最初の2失点がなければ、もっといい試合ができたと思う。
【三竿 健斗】
相手の方が気持ちを前に出せていた。こっちは球際や競り合いで戦えていなかったので、ハーフタイムに修正した。前半のうちに1点を取れたのが良かった。後半、ボールの動かし方や人の立ち位置を変えてハマったし、途中から入った選手が仕事をしてくれた。ACLは、Jリーグでの戦いとは違う激しさがある。僕たちの気持ちが準備できていなかった。人に言えるような厳しさを自分が出せていなかったので、まずは自分ができるようにしていきたい。
◆AFCチャンピオンズリーグ2018 準決勝 第1戦(オフィシャル)