日刊鹿島アントラーズニュース

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2016年10月28日金曜日

◆湘南ベルマーレJ2降格の背景にある移籍モラルの崩壊(THE PAGE)


https://thepage.jp/detail/20161025-00000004-wordleafs



 湘南ベルマーレのJ2降格が決まった。22日の大宮アルディージャ戦で敗れたことで、セカンドステージの2試合を残して、年間総合順位で降格圏の17位以下となることが確定した。

 2013シーズン以来、通算4度目のJ2降格は北海道コンサドーレ札幌、京都サンガ、すでに来シーズンの降格が決まっているアビスパ福岡と並ぶ、不名誉なリーグワーストタイ記録となった。

 曹貴裁(チョウ・キジェ)監督のもとで2度目のJ1に挑んだ昨シーズンは、年間総合順位で8位と大躍進。鹿島アントラーズから2勝をあげ、セカンドステージでは川崎フロンターレやFC東京も撃破するなど、内容をも伴わせて悲願の残留を果たした。

 一転して今シーズンは、開幕から大苦戦を強いられた。ファーストステージこそ最後の4試合で2勝2分けの星を残して上向きになったものの、セカンドステージ第3節からは泥沼の10連敗。7月23日の第5節以降は一度も降格圏から脱出できないまま、無念の終戦を迎えた。

 2シーズン連続のJ1残留を果たせなかった最大の原因は、得点力不足に帰結される。32試合を終えた段階での総得点「26」は、年間総合順位で最下位の福岡の「25」に次ぐリーグワースト2位で、昨シーズンの同時期より「12」も少ない。無得点に終わった試合は2つのスコアレスドローを含めて半分近くの「15」を占め、1点差で泣いた試合も「12」を数えている。

 チーム得点王は新加入のFW端戸仁(前横浜F・マリノス)の4ゴールで、キャプテンのFW高山薫、副キャプテンのMF菊池大介がそれぞれ3ゴールで続いている。もっとも、端戸と高山は主に2列目のシャドーを、菊池は左ワイドを主戦場としている。

 ヘッドコーチから昇格した曹監督に率いられた2012シーズン以降、湘南は「3‐4‐2‐1」を基本布陣として戦ってきた。しかし、今シーズンは最後まで1トップを固定できなかった。

 昨シーズン途中に復帰したキリノはコンディションを上げられず、昨年から通算して10試合無得点のまま、7月にJ3の大分トリニータへ期限付き移籍した。代わりに獲得したジネイ(前鹿島アントラーズ)が初ゴールを含む2得点をあげたのは、降格が決まった大宮戦だった。

 必然的に藤田祥史と大槻周平の日本人選手が1トップを務めるケースも多かったが、前者は12試合1得点、後者は27試合2得点にとどまっている。大槻は守備面で奮闘したが、取るべきポジションの選手が合計5得点に終わっていては、いくら攻守を素早く切り替え、積極的に縦パスを入れる「湘南スタイル」のもとでチャンスを作っても、チームは上向きに転じない。

 ゴールと勝ち星を奪えない状態が続き、やがて自信までも失う悪循環に陥るのでは、という危機感はシーズン開幕前からあった。昨シーズンの躍進を支えたMF永木亮太(鹿島)、DF遠藤航(浦和レッズ)、GK秋元陽太(FC東京)、DF古林将太(名古屋グランパス)が一気に完全移籍で抜けたからだ。

 2013シーズンからキャプテンを務めていた永木は3年連続で、リオ五輪でキャプテンを務めた遠藤には2年連続でオフにオファーが届いていた。それでも愛着深い湘南で目に見える結果を残したいという思いで契約延長を決断し、実際に昨シーズンにはJ1残留を勝ち取った。

 移籍が秒読み段階に入っていた昨年末も、2人を引き留めるために最後の交渉を行う時間がわずかながら残されていた。しかし、オフ恒例のブンデスリーガ視察中だった曹監督は、状況を報告してきたフロントに対して「頑張ってほしい、と言ってあげてください」と伝えている。

 選手たちから厚い信頼を寄せられる指揮官が直接出馬して説得すれば、永木も遠藤も翻意していたかもしれない。しかし、2人のサッカー人生を考えたとき、さらに成長するためには新たなステージへ挑むべきだと考えた曹監督は、メッセージを介して背中を押した。

 本来ならば契約を残す選手を完全移籍で手放せば相応の違約金が発生し、送り出した側はそれを元手に新戦力を補強するポジティブなサイクルが生まれる。しかし、いま現在のJリーグでは、クラブ側と選手の契約にも関わる代理人及びマネジメント会社の間で「移籍に関するモラルが崩れている」と、湘南の眞壁潔代表取締役会長は指摘したことがある。

「誰が決めたのかはわからないけど、違約金の設定が年俸の1年分という訳のわからない暗黙のルールがある。大きな資本のクラブに寄り添う世界ができあがっている。代理人だってそっち(ビッグクラブ)に寄っていたほうが、商売になるわけだからね」

 湘南は以前から育成に比重を置いてきた。
 例えば高崎経済大学附属高校までは無名だったFW石原直樹(現浦和)を6年かけてエースへ成長させ、大宮へ完全移籍で送り出した2008シーズンのオフには、1億円の違約金が支払われている。

 翻って昨シーズンのオフは、前出の4人に期限付き移籍を完全移籍に切り替えたリオ五輪代表DF亀川諒史(福岡)を加えた5人の主力候補が湘南を去った。しかし、違約金の合計額は石原一人のケースと「ほとんど変わらなかった」と眞壁会長は続けた。

「これが日本の中小クラブが選手を育てる現実ですけど、ヨーロッパは違う。選手を育てるクラブにはちゃんとした額のお金が入る。選手が『移籍したい』といえば喜んで送り出すし、獲得する側も値段を崩してまで取ろうとはしない。代理人に理由を聞くと『だいたいの常識がそうですから』という言葉が返ってくるけど、日本の常識とは誰が作ったのか。(違約金の)ハードルを下げたままなら、日本に育成型クラブなんてできるわけがない」

 今シーズンの湘南の年間運営予算は約15億円。言うまでもなくJ1では少ない側から数えた方が早いが、親会社をもたない市民クラブとしては精いっぱいの金額でもある。選手たちの年俸も、必然的に低く抑えざるを得ない。それでも時間と愛情を込めて、選手たちの心技体を鍛え上げてきた。

 その象徴が年代別の代表と無縁だった永木、中学までは無名だった遠藤のハリルジャパン経験者となる。しかし、日本独自の暗黙のルールのもとに主力を有力クラブに引き抜かれ、育ててきた労力に見合わない違約金が支払われ続ける限りは、Jリーグ内における“格差”はどんどん開いていくだろう。

 湘南はJ2を戦う来シーズン以降も、育成を重視するスタンスを変えない。眞壁会長もお金がない状態に甘んじるのではなく、ヴァンフォーレ甲府やアルビレックス新潟に代表される地方クラブに倣い、経営規模を拡大させる努力を至上命題と掲げることで捲土重来を誓っている。

 ぶれない姿勢に敬意を表するとともに、世界基準とは乖離した違約金設定に導かれた“格差”が、日本代表にも寄与している湘南がJ2へ降格する一因をなした事実を、Jリーグをはじめとする日本サッカー界は努めて重く受け止めるべきだと切に思う。(金額はいずれも推定)

(文責・藤江直人/スポーツライター)

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