日刊鹿島アントラーズニュース

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2015年12月16日水曜日

◆高円宮杯制覇で遅れていた一貫指導体制結実へ。自前選手で常勝軍団発展を目指す鹿島(JSPORTS)


http://www.jsports.co.jp/press/article/N2015121411221802.html

93年のJリーグ発足から22年が経過し、Jアカデミー出身者の台頭が一段と加速してきた。以前は宮本恒靖(G大阪ジュニアユースコーチ)、稲本潤一(札幌)、宇佐美貴史(G大阪)らを輩出したガンバ大阪、槙野智章、柏木陽介(ともに浦和)らを送り出したサンフレッチェ広島、柿谷曜一朗(バーゼル)や山口蛍(C大阪)らを育てたセレッソ大阪の優位性が顕著と言われたが、国内タイトル通算17冠を誇る常勝軍団・鹿島アントラーズは育成出身者の活躍ぶりが今一つだった。過去に79年生まれの曽ヶ端準、81年生まれの野沢拓也(仙台)の成功例はあったものの、チームの軸を担う人材が思うように出てこなかったのは確かだ。

そこはクラブ側も問題視しており、本拠地の鹿島に続き、99年にノルテ(日立)、2008年にはつくばにもユースを発足させた。つくばは2011年にアカデミーセンターが設置され、茨城県内の多くの選手を集められるようになるなど、環境がかなり拡充されたという。さらに同じタイミングの2011年に鹿島第1次黄金期を担った元ボランチの熊谷浩二をユースコーチに抜擢。2014年には監督に引き上げた。

「熊谷がユースに行ってから、トニーニョ・セレーゾ(今年7月に辞任)との連携がよくなり、ユース選手のトレーニングや練習試合参加がスムーズにできるようになった。トップのスタッフがユースの選手を見に行く機会も増え、今年トップに昇格してシーズン終盤に結果を出した鈴木優磨のような選手も出てきた。今はJクラブが全国各地にでき、よその地域の選手を簡単に取れなくなった。だからこそ自前の選手を育てて、常勝軍団の歴史と伝統を守らなければいけない」と鈴木満常務取締役強化部長も強調していた。

12日の高円宮杯U-18サッカーリーグ2015チャンピオンシップでの鹿島アントラーズユース初優勝は、まさにクラブ全体でつかんだタイトルだった。この日の鹿島ユースは17歳でJリーグデビューを果たした堂安律、トップ昇格が決まっている高木彰人らタレントを擁するガンバ大阪ユースを徹底した守備で封じ込め、セットプレーとカウンターでチャンスを作った。そして後半13分、巧みな左サイドの崩しから来季トップ昇格が決まっている田中稔也がゴール。電光石火の攻撃は常勝軍団の弟分らしい迫力があった。その後も相手の追撃を許さず、しぶとく1点を守り切った。まさに鹿島らしい戦いぶりで、2種の頂点に立ったのである。

「私が選手に伝えているのはアントラーズスピリット。選手時代の自分は正直言ってあまり技術がなかったんで、技術より球際の厳しさや寄せの激しさ、諦めない気持ちといった土台を伝えている」と熊谷監督は試合後の会見で語っていたが、そういうチームの哲学がこの日の彼らからは存分に発揮されていた。

U-18日本代表の最終ラインを担っている188㎝の長身DF町田浩樹も「1-0の勝利というのはアントラーズらしい勝ち方。僕らは練習から球際でもバチバチ戦っているし、ファウル覚悟でボールを取りに行っている。監督もいつもそういうことの大切さを強調しています。僕自身は同じ左利きの中田浩二さん(現CRO)が憧れの存在ですけど、これまで鹿島の最終ラインを担ってきた秋田(豊=現解説者)さん、岩政(大樹=岡山)さんといった人たちがやってきたことを監督から口を酸っぱくして言われています。『秋田さんは1センチでもラインがズレていたら厳しく言ってきた』という話も聞きましたし、僕自身もそういう細かいことを徹底していくのが大事なんだと感じながらやっています」と神妙な面持ちで語っていた。

アントラーズスピリッツを育成年代で叩き込まれた選手たちがトップに上がり、クラブの軸を担うようになっていけば、常勝軍団の未来は明るい。今年は町田、田中、平戸太貴、垣田裕暉の4人が昇格するが、町田は高さとフィード力、田中はフィニッシュの迫力、平戸は正確なプレースキック、垣田は186㎝の高さとスピードといった武器があり、今後の成長が楽しみだ。

「トップに上がるだけではまだまだ本物ではないし、上がって終わりではない。レギュラーとして試合に出て、活躍してこそ成功だと思う」と熊谷監督も改めて強調していた。これまで他クラブに比べて育成では見劣りする部分があった鹿島だけに、ここから真価が問われると言ってもいいだろう。すでに高校出身の内田篤人(シャルケ)や大迫勇也(ケルン)らを世界に送り出してはいるが、果たしてアカデミー出身者で日本を背負う人材はいつ出てくるのか。今回の高円宮杯優勝がその大きな飛躍のきっかけになることを祈りたい。


元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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