日刊鹿島アントラーズニュース

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2017年1月9日月曜日

◆源昌子の“すべらない”守備の話。 スライディング無しで守る方法論。(Number)


急激な成長を見せ、いまや誰もが認める鹿島のディフェンスリーダーになった昌子源。イチかバチかより、DFには大切なものがあるのだ。

 すべらんなあ。

「人志松本のすべらない話」ではないが鹿島アントラーズのセンターバック、昌子源を見ていると思わずそうつぶやいてしまう。

 彼はシュートブロックのためのスライディングがとにかく少ない。

 体を投げ出すスライディングでのブロックは、言わば“最終手段”。シュートをブロックできれば御の字だとしても、外される可能性だってある。つまりは「賭け」。GKとの連係を考えれば、むやみに賭けに出ることなくシュートコースの一方を消すほうが防ぐ確率は高まるのかもしれない。優勝した天皇杯でも常勝軍団の背番号3は、冷静に確率の高いプレーを選択していた。

 クラブワールドカップを終えてから24日の準々決勝サンフレッチェ広島戦、29日の準決勝横浜F・マリノス戦、そして元日の決勝川崎フロンターレ戦と3試合で失点はわずか1。昌子の安定感はピカイチであった。

 そしてまた思った。すべらんなあ、と。

すべって切り返されるよりは「潔くあきらめますね」。

 もう1年半ほど前になるだろうか。

 ハリルジャパンで国際Aマッチデビューを果たした後、「すべらない話」を聞いたことがある。

 きっかけは、国内屈指のストライカーである豊田陽平との1対1を語ったときのこと。

 ホームのサガン鳥栖戦(2015年4月)で相手のカウンターを受け、ゴール正面でペナルティーエリア内に入ってきた豊田と対峙した。豊田に切り返されながらも、うまく回ってシュート体勢に入る前に「すべって」右足でボールをカットして防いだ。

 彼はこう振り返った。

「あのときは豊田選手の足元にボールが入っていたんで、シュートもなかなか打ちづらいと思ったんです。でも僕は、あんまりすべらない。ギリギリ当たるか当たらないかですべって切り返しをされるよりも、僕の場合は潔くあきらめますね。

 フォアだけ消してニアに打たせるとか、うしろはソガさん(曽ヶ端準)なんで取ってくれる。すべって股を通されるとGKは取りにくい。それに立っていれば、切り返されてもついていけますしね。僕は連係を大事にしたいし、だから極力すべらないようにしているんです」

大袈裟にすべる時は、大体時間稼ぎのため。

 自分の都合で無茶はしない。

 体を寄せてシュートコースを限定して、シュートを打たせて曽ヶ端が止める。ゴールを割らせなければそれでいい。

 チャンピオンシップ準決勝の川崎戦では、ゴール前に侵入してきた中村憲剛に対して、珍しくスライディングでシュートを防ごうとした。切り返されてシュートを打たれたものの、これはセンターバックの相棒ファン・ソッコを間に合わせるための時間稼ぎで、わざと大袈裟にスライディングを試みたのだった。連係を重視する彼らしいプレーであった。

 これらは、相手がシュートを打つ最終局面での判断を語った話である。しかしながら、そもそも昌子はすべらなくてもいい状況に持っていくことができる。事前にシュートチャンスの芽をつむことができる。

ロナウドやメッシのドリブルが昌子の仮想敵だった。

 象徴的なシーンが、クラブワールドカップでの決勝レアル・マドリー戦。2-2で迎えた後半42分、カウンターを受けてC・ロナウドと1対1になったが、仕掛けてくる相手に対して間合いを詰めて右足でボールを突っついて危機を逃れている。

 対応を間違えていたら、シュートまで持っていかれていた。最終的にはイチかバチかですべってシュートブロックしなければならなかったかもしれない。

 実は1年半前の「すべらない話」をしてくれた際、昌子はC・ロナウドの名前を出していた。

「C・ロナウドやメッシには、チョコチョコとかわす切り返しがあって、ついていけなかったら意味がない。もし足が遅くても、最初の1歩目が相手に近くてちょっとでも触れたら、相手が思い描くリズム、ドリブルのコースを外せると思うんです。世界と戦ううえで、そういうところが大事になってくる」

 チョコチョコかわす相手の技についていけるだけのアジリティーが、昌子の何よりのストロングポイント。加えてスピード、パワー、体の使い方、そして判断。そう、C・ロナウドを偶然止めたわけではない。世界と戦うイメージを働かせ、その準備をずっとしてきたからこそあの大事な場面で防ぐことができたのだ。

森重、吉田の代表CBレギュラーもMVSの手に?

 昌子は2016年、ひと皮もふた皮もむけた。

 声を張り上げてコーチングするなどディフェンスリーダーの風格が備わってきた。キャプテンの小笠原満男も、コーチングの質やチームを引っ張る意識が高まっていることを認めている。

「岩政(大樹)さんのような存在感を身につけたい。それがセンターバックには必要」と語っていたが、もはや手に入れつつあると言っていい。

 ハリルジャパンに必要な戦力であることは十分に証明した。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は鹿島の試合を何度も視察しており、森重真人、吉田麻也のレギュラー勢を脅かす存在となることはまず間違いない。

 MVS(Most Valuable すべらない話)は、MVS(Most Valuable Shoji)へ。

 世界と張り合えるポテンシャル。2017年、昌子源のさらなる飛躍を確信している。

http://number.bunshun.jp/articles/-/827219

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