日刊鹿島アントラーズニュース

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2017年10月15日日曜日

◆大岩剛監督が語るアントラーズの哲学。 「当然、元日まで勝つつもり」(Sportiva)


前編



鹿島アントラーズ・大岩剛監督インタビュー@後編

 鹿島アントラーズの応接室でインタビューをしていると、あっと言う間に時間が過ぎていく。その間、大岩剛監督に用事がある人物が様子をのぞきに来ると、「あと20分、いや15分で終わるよ」と声をかけた。

 だが、気がつけば、そこから優に30分が経っていた。大岩監督は「いつも話が長いって言われるんだよね」と笑ったが、ひとつの質問に対しても、しっかりと言葉を選びながら話すのは、こちらに誤解を与えず、きちんと理解してもらおうとする真摯な態度があるからだ。

 それは、試合後の記者会見はもちろんのこと、グラウンドの上でも同様だ。練習や試合で選手たちに投げかける言葉には、明確な意図があると同時に魂がこもっている。そこもまた、個性的な選手たちを束ねるリーダーに必要なカリスマ性に映る。

―― 監督になって、選手たちへのアプローチはコーチ時代とはまた違うのでしょうか?

大岩剛監督(以下:大岩) 違いますね。こればっかりは、やろうとすることを言い続けるしかない。その際、選手がどう反応するかを見て、変わろうとしていることを感じたのであれば、次は言わずにやらせてみる。そこでまた何かができていなかったとしたら、もう1度、言ってみる。その繰り返しです。だから正直、正解はないですよね。

―― 大岩監督が指揮してから、続けて同じメンバーで戦う試合がほとんど見受けられないですよね。出場選手を選ぶ際に選考基準みたいなものはあるんですか?

大岩 その選手の調子もあれば、その選手と他の選手との相性もありますからね。当然、対戦相手もありますし、簡単に言えば、総合的に判断しています。

―― そう答えると思っていました(笑)。というのも、選手たちから「大岩監督はよく見ている」「見られている」という話を聞くので。

大岩 選手たちにも「よく見ているよ」ということは、ミーティングでも言っています。それも僕だけじゃない。コーチのヤナ(柳沢敦)もハネ(羽田憲司)も見ているし、それこそメディカルスタッフもグラウンドにはいて、彼らも見ているわけです。選手を抜擢する大前提には競争があるということ。これは監督に就任したとき、選手たちにも言いました。もう1回、競争だよと。誰であろうとポジション争いはしていくよと。まあ、選手たちをあおる意味もあったんですけどね(笑)。

 固定したメンバーで戦えば、レギュラーと控えの温度差であり、距離感がいろいろなところに出てきてしまいますよね。当たり前ですが、その差がなければないほど強いチームになるわけです。たとえば、紅白戦でサブ組がレギュラー組に勝利してしまう、圧倒してしまう。過去に鹿島が強かったときは、実際にそういう雰囲気がありました。でも、それは作ろうとしてできるものではなく、自然と湧き出てくる一体感なんです。

―― 選手起用では、それまで出場機会が多いとはいえなかったMFレアンドロ選手やMF中村充孝選手を抜擢して、結果にもつながっていますよね。

大岩 (起用した当時は)彼らにやってもらうしかない状況でした。そこで結果を出したから、その後も起用する。それだけです。当然、この世界では当たり前である、「結果を出さなければ使わない」という空気も出しました。そのうえで、信頼していることも示したんです。

 レアンドロに関して言えば、ブラジルから日本に来てまだ数ヵ月。まずは日本の環境に慣れることが大事だという話をしました。家族も遅れて来日し、ようやく生活が落ち着いてきたという話も聞きました。GKクォン・スンテも同様ですよね。だから、彼らには「焦るな」「慌てるな」と何度も言いましたし、そのうえで「ちゃんと見ているからな」ということは伝えました。

―― そのとき、その状況で、何をどう伝えるかについては、自分自身の中でもかなり吟味しているということですか?

大岩 考えますね。監督になってからは特に考えます。時には感情的になってしまうときもありますけど(笑)、どこかで冷静な自分もいますね。ハーフタイムにはあれを言おう、これは言わないほうがいいとか、かなり冷静に考えています。

―― 印象的なことで言えば、J1第26節のアルビレックス新潟戦。0-2で前半を終えた選手たちにロッカールームでカミナリを落としたと聞きました。

大岩 ああ(笑)。試合後の記者会見で「ここでは言えないような言葉がけをしました」と発言しましたが、決して汚い言葉遣いだったわけではないんです。ただ、戦う姿勢を見せろということを、強い口調で言っただけです。

 前半0-2で情けない試合をして、戦う気持ちも見せていなかった。それをベンチで見ている選手たちは、さらに悔しいわけですよ。だからあのときは、自然とその試合でベンチだったミツ(MF小笠原満男)に聞きました。「ミツ、見ていて、どう思う?」って。そうしたら「全然、戦う気持ちが見えない。相手の勝ちたい気持ちがまさってる」と。

―― 試合に出ている選手ではなく、あえてベンチだった小笠原選手に聞いたところに、チームとしての一体感を大事にしている印象を抱きました。

大岩 それを出したいという思いもどこかにはあったんです。その後、(DF昌子)源にも同じことを聞きました。「ミツはこう言ってるよ。じゃあ、試合に出ているお前らはどうなの?」って。だから、「やろうぜ」って。そういうやり取りなので、当然、口調はきつくなりますよね。

―― その一体感であり、訴えが、後半4得点を挙げての逆転勝利につながったわけですよね。さらにさかのぼれば、J1第19節のヴァンフォーレ甲府戦では3-0で完封勝利しながらも、試合後に昌子選手に対して厳しい言葉をかけたと聞きました。

大岩 ひとつのプレー(ミス)がフォーカスされていますが、1試合を通じて少し集中力を欠いたプレーをしていましたからね。これは責任者として、絶対に言わなければいけないと思っていました。まあ、そこは源だからこそです。彼はあの試合でキャプテンマークを巻いていたし、日本代表ですし、みんなの前で自覚を持たせたかったというのもあります。

 ただ、わざわざみんなの前で言ったのは、新潟戦でミツに聞いたのと同様、みんなで共有してほしいという思いもあったからです。個人に対して言うところもありますけど、誰にでも当てはまることだよと。源だけでなく、他の選手も気を抜いたプレーをすれば、当然、そういう指摘をしますし、空気を作ろうとはしています。そのピリピリとした緊張感も含めて、全員でやっていくぞという姿勢ですよね。

―― 常勝軍団とも言われる鹿島を率いるプレッシャーは?

大岩 すごい感じていますよ。それはもう、ものすごいプレッシャーです(苦笑)。

―― リーグ戦も残り6試合です。優勝に向けては?

大岩 これはずっと言い続けていることですけど、次の1試合のことしか考えていない。そのひとつの勝ち点3を得るために力を注ぐことしかやってきていないですから。そのために、チャレンジすること、戦い続けること、走り続けることを、選手たちにも言い続けている。だからこそ、自分も常に目の前の1試合に勝つことだけをやり続けるしかないと思っています。

 それにチームが強いとき、優勝に向かっているときは、星勘定なんてしないんですよ。ひとつ勝ったら、「よし、次だ!」ってなる。その次を勝ったら、「また次だ」ってなる。そんな言葉が選手たちの口から自然と出てくるクラブって他にはないと思うんです。それが、このクラブが勝ち続けてきた積み重ね。

 それこそ先日、練習の合間に僕が言わなくても、「次、勝たないと、この間の勝ちの意味がないぞ」とか、「こういうときだからこそ、しっかりやるぞ」「次こそ難しい試合になるからしっかり準備するぞ」という声が、選手たちの口から自然と出てくる。ここはそういうチームだし、そういうクラブなんですよね。

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 監督になって指揮したのは、カップ戦も含めてまだ約20試合だが、大岩監督は「時間が過ぎるのが早い」と言う。「試合の分析で過去の試合を振り返ることはあるけど、なかなか自分自身を振り返る時間が取れない」とこぼした。

 それは勝った試合の後も余韻に浸ることなく、次の試合を見据える鹿島の選手たちと同じなのかもしれない。そして、目の前の試合に全力を注ぎ、すべての試合で勝利をもぎ取ろうとする姿勢も変わらない。

 最後に、ひと息つけるのはシーズンオフかもしれませんねと投げかけると、大岩監督はこう答えた。

「当然、元日まで勝つつもりでいるから、オフも短い。だから、あまり休めないんじゃないですかね」

 そこに鹿島アントラーズの指揮官たる姿勢を見た。


【profile】
大岩剛(おおいわ・ごう)
1972年6月23日生まれ。静岡県出身。清水商高を卒業後、筑波大を経て1995年に名古屋グランパスエイトに入団。2000年にジュビロ磐田に移籍し、2003年より鹿島アントラーズでプレー。2011年に現役を引退。日本代表として3試合に出場している。引退後は鹿島でコーチを務め、2017年5月に石井正忠監督の解任を受けて監督に就任。


大岩剛監督が語るアントラーズの哲学。「当然、元日まで勝つつもり」

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