日刊鹿島アントラーズニュース

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2019年1月7日月曜日

◆尚志・染野唯月、ゴールを求め貪欲に 覚醒の時を迎えた2年生エース(Sportsnavi)





 尚志(福島)が誇る絶対的エースストライカー・染野唯月(そめの・いつき/2年)が覚醒の時を迎えている。


 鹿島アントラーズジュニアユースつくばから鹿島ユースに昇格できず、福島の尚志高に新天地を求めたストライカーは、高さとフィジカル、そして足下の技術を発揮して、1年生ながらすぐに出番をつかんだ。


 今年度に入ると、プロのスカウトも注目をする存在になった。春先から前線の起点として不動の存在となり、よりたくましくなったフィジカルとアジリティー、そして前へ運ぶ力に磨きがかかった。


 だが、その一方でプレーの連続性という面でまだ課題を残していた。夏のインターハイ2回戦の東山(京都)戦では、ボールを収めてからの仕掛けやパスの精度は高かったが、複数の徹底したマークを剥がし切れずに、試合中に消える時間帯もあった。結果、チームも0−0からのPK戦負け。不完全燃焼のまま夏が終わった。


 しかし、12月の高円宮杯プレミアリーグ参入決定戦で、彼は見違えるほどの成長を遂げていた。

プレミア昇格をもたらしたヘッド
 横浜F・マリノスユースとの一戦。染野は2日前に行われた1回戦のJFAアカデミー福島U−18戦で頭を4センチも裂傷したことで、この試合はベンチスタートだった。エースを欠くチームは前半、横浜FMユースの猛攻に押し込まれ、1点のビハインドを背負った。前半だけを見ると、完全に横浜FMユースの試合で、追加点を決められてもおかしくない展開だった。


 後半、仲村浩二監督は満を持して染野を投入。すると試合の雰囲気が驚くほどがらりと変わった。染野は前線で横浜FMユースの守備陣形を見ながら、オフ・ザ・ボールの動きを繰り返して、相手にマークの的を絞らせないようにした。縦パスやロングボールを動きながら正確に収めて周りのアタッカー陣につなぐと、守備面でも前線から強烈なプレスを仕掛け、前半あった相手のリズムを完全に打ち砕いた。


 60分に生まれた尚志の同点ゴールは相手のGKへのバックパスがそのまま入るというオウンゴールだが、染野の鬼気迫るプレスがそのミスを誘発させた。そして最大のハイライトは後半45分。左CKを得ると、DF沼田皇海(3年)が蹴ったボールを負傷した頭で豪快にゴールに突き刺した。頭一つ抜けた高い打点のヘッドは圧巻で、このゴールが尚志に来季プレミアリーグ昇格をもたらした。


「自分が後半から出て、決めてやろうと思っていた。僕の中では厳しい展開になると思っていたので、その中で自分が点を決める、チームを勝たせるという意識は強く持っていました」


 まさにエースの気迫だった。この変貌ぶりの要因を本人に聞くと、彼は笑顔でこう語った。


「U−17日本代表に入って、すごく刺激を受けました。同じポジションの櫻川ソロモン選手(ジェフユナイテッド千葉U−18)は身体が強いし、きちんと状況判断ができる。あと、僕が見習わないといけないのが清水エスパルスユースの山崎稜介選手で、彼は前線からしっかりと追いかけていくプレーができる。そういうライバルに負けたくないですし、盗める所は盗みたいと思いました」

U−17代表を経て、指揮官も成長認める
 染野はインターハイ前の7月にU−17日本代表に選ばれ、新潟国際ユースという国内のフェスティバルでプレーをした。そして、インターハイ直後に再びU−17日本代表に選ばれ、チェコ遠征に参加。そこで同じ年の櫻川、山崎、栗原イブラヒムジュニア(三菱養和SCユース)らユースのタレント達と過ごし、U−17ウクライナ代表、U−17スロバキア代表、U−17ハンガリー代表、U−17アメリカ代表と、世界の実力国との対戦を重ねた。


 世界に飛び出して、同年代のトップレベルの選手達と過ごした時間は、彼にとってものすごく大きな刺激となった。


「チェコから帰って来たら意識が変わった。自覚というか、貪欲さが出てきた」と仲村監督も彼の成長ぶりに目を細めたように、同年代から受けた刺激は彼を大きく変えたのだった。


選手権では2試合連続ゴール中。福島県勢初の全国制覇に導けるか(写真中央、背番号9が染野)


 そして迎えた選手権。彼はさらにスケールアップをして、チームの快進撃をけん引している。2回戦で2015年大会王者の東福岡(福岡)に対し、1トップの染野は前線で張るだけでなく、相手のボランチの位置まで落ちてボールを受けるプレーを積極的に行った。


「6番(アンカーの中村拓也)の場所がよく空くと言われていたので、意図的に落ちてプレーすることを意識しました」と、相手のシステム、状況を観察した上での判断は、チームにとって大きなプラスとなった。


 染野の動きに連動して、トップ下の二瓶由嵩、左の高橋海大と右の加瀬直輝(いずれも3年)の両サイドハーフがポストプレーからのボールを受けて、前向きに仕掛け続けた。攻撃のリズムをつかんだ尚志は、前半31分に左サイドを染野が突破。相手のフィジカルコンタクトに屈せずに、馬力あるドリブルでカットインすると、寄せてきた相手DFをモノともせずに強烈なシュート。GKが弾いたこぼれ球を、飛び出してきたボランチの坂下健将(3年)が豪快に突き刺し、先制に成功した。


 染野が作り出した攻撃のリズムにより2−0で東福岡高を撃破すると、3回戦の前回王者・前橋育英(群馬)戦でも変わらぬ存在感を発揮。1−0で迎えた後半11分には、待望の瞬間を迎えた。


 染野がポストプレーから右サイドのMF加瀬に展開すると、すぐにゴール前に走り出した。そして加瀬が右サイドで突破を仕掛けた瞬間、「前橋育英の選手がボールウォッチャーになっていたので、フリーになれると思った」と、いち早くゴール前のスペースに入り込み、加瀬の折り返しを豪快にゴールに蹴り込んだ。


 前回王者を破る決勝弾となった今大会初ゴールは、まさに彼のこの1年の成長の跡がはっきりと出たものだった。

『尚志の起点』になり続ける
「自分がポストプレーで起点を作った時に、以前の自分ならあそこでゴール前に走らないで、止まってしまっていたと思います。でも、代表に入ってからずっとスタッフの人にも『あの(ゴール前の)ポイントに入り込め』とずっと言われていたので、落とした瞬間にすぐにトップスピードでゴール前に入り込んでから、スペースを見つけることができました」


 エースのゴールは本人だけでなく、チームにも明るい光をもたらした。「染野は今大会、存在感をかなり発揮してくれているし、いろいろな面で貢献をしてくれている。だからこそ、ここでアイツが決めたのは大きい。染野のゴールはチームとしてほしかった点なので、『やってくれた!』と感謝しかない」と、仲村監督も手放しで喜んだ。


「どうしてもゴールがほしかった。ゴールを奪うことに貪欲にやってきた結果、こういう大事なゲームで点が取れたのがうれしかったです。2年間通して、自分が勝負どころで決め切る選手にだんだんなってきて、マリノス戦、前橋育英戦と大事な所で点を取ることができたのは大きな自信になる。もちろん点を取るだけでなく、これからも僕は前線で『尚志の起点』になり続けます」


 その表情は自信に満ちていた。染野は続く準々決勝の帝京長岡(新潟)戦でも前半22分に2試合連続となるゴールをたたき出し、1−0の勝利に貢献。チームを2011年度以来となる、2度目のベスト4進出に導いた。


「もっと成長をして、最終的には優勝という結果を福島に持ち帰りたい」


 悲願の全国制覇まであと2つ。福島県勢初の快挙に向けて、覚醒した2年生エースストライカーはその獰猛(どうもう)な牙をさらに磨き上げ、まずは1月12日、埼玉スタジアムのピッチでの躍動を誓う。





◆尚志・染野唯月、ゴールを求め貪欲に 覚醒の時を迎えた2年生エース(Sportsnavi)




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