日刊鹿島アントラーズニュース

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2019年12月23日月曜日

◆小笠原満男が子供達に伝える主張力。 「違うと思うなら言葉にすればいい」(Number)



小笠原満男 Mitsuo.Ogasawara


「Eu(エウ)!」

 ピッチ上にポルトガル語が飛び交う。そこかしこで15歳のブラジル人の子どもたちが、目の色を変えて叫んでいる。

 今年8月、小笠原満男は鹿島アントラーズジュニアユースが参加したブラジルでの日伯友好カップに同行し、相手となった現地強豪クラブの選手たちに釘付けとなった。

「Eu(エウ)って、ポルトガル語で“私”という意味なんだけど、浮いたボールをヘディングで競り合うときに必死に叫ぶことで、“俺が競るんだ”っていう強い気持ちを感じた。日本だとセンターバックの選手は競れるけど、それ以外は跳んで競る振りをすることが多い。でも、ブラジルの選手たちは、攻守に渡って100%で競り勝とうとする。競り勝てば、ボールを飛ばす飛距離もある。空中戦のすごみが違った」

 根っこは、“負けない、俺がやってやる”という気持ちだ。誰もがそれを前面に押し出すがゆえ、そこかしこで激しい球際の戦いが繰り広げられる。特に競り合いにおいて、目を見張るものがあった。小笠原自身、実際に自分の目で子どもたちの主張を見て、改めてサッカー王国ブラジルのすごみを体感した瞬間でもあった。

「“俺にパスを出せよ”っていう要求がとにかくすごい。日本人だとフリーでも呼ばないことがある。そもそも、ボールを欲しがる選手がいなければ、パスも回らない。プレッシャーが早いなかで、ビビってボールを受けないで隠れちゃったり、フリーなのにもらおうとしなかったり。この差はでかい」


代表選手に囲まれた新人時代。


 小笠原自身、岩手県の大船渡高校を卒業して鹿島アントラーズに加入した当時、ライバルとなるチームメイトは、日本とブラジルの代表選手たちだった。自分という存在をアピールするために、紅白戦に出るために、試合に出るために。とにかくアピールするしかなかった。

「俺がアントラーズに加入した当時は、本田泰人さん、秋田豊さん、奥野僚右さん、ジョルジーニョ、ビスマルクをはじめ錚々たる選手たちがいた。それでも、関係なく自分が求めることを声に出した。だからかなぁ、いつも喧嘩ばかりだった(笑)」


ぶつかることによって多くを学ぶ。


 いつも、前提があった。

「自由にやっていいぞ」

 そう先輩に言われて多くのチャレンジをした。それなのに怒られる。言っていることと違うじゃん。いつもそう思っていた。

「俺自身、たくさんぶつかった。でも、今だから分かることだけど、それによって多くのことを学んだ。この時間にこのプレー、この場所でこのプレーは間違っている。そう言われ続けることで、だんだんとサッカーを分かっていった。当時はチームのことなんて一切考えず、いつも自分がやりたいことを主張していた。でもそうすることで、一つひとつサッカーを分かっていけたんだと思う」

 主張することは、自分の考えを相手に伝えること、とも言える。ブラジルの子どもたちのピッチ上での主張は、小笠原にとって自らの若かりし頃を思い出させたのかもしれない。


自分の言葉に生じる責任。


 特に前線の選手とディフェンスラインとのやりとりは激しかった。

「ラインもっと上げろよ!」

「前からプレスにちゃんと行くなら上げてやるよ!」

 ケンカや言い争いに見える口調も、一方は何くそと思いプレスをかける。一方はプレスをかけているのを最後方から見て、「やれるじゃん」とラインを上げる。お互いがお互いの主張を行動で示すことで、チームは成り立っていった。小笠原自身、その積み重ねによって、全体がより良い方向にまとまっていくのを体感し、タイトルを獲り続けてきた。

「まず言葉にしてみるのはいいことだと思う。相手に自分の考えが伝わるし、何より言った自分に責任が生まれる。それに、どうしたらチームがうまくいって、試合に勝つことができるのかを、みんなで考えるキッカケにもなる。そういうやり取りの積み重ねは、試合になれば必ず結果として出るものだから」


「間違っていてもいいんだよ」


 いつ、どのタイミングで言えば伝わるかを考えるようになったのは、「年を重ねてからだ」という。だからこそ、試合出場のために無我夢中で過ごした時期を、今改めて振り返ると正しかったと結論づける。

「自分が間違っていてもいいんだよ。違うと思ったら、まず言葉にしてみればいい。そこから次が見えてくるものだから」

 その意味で、ブラジルの子どもたちが見せた主張は、たくましく見えた。昔の自分と重ね合わせ、そっと微笑んでしまうような光景だった。


中学生を見て感じたブラジルとの差。


 勝負がかかった試合で見つけたものは、それだけではない。

「工夫する力、勝ちに持っていく力というのはブラジルの方があると感じた。日本の選手たちは、やれることを一生懸命にやっていたけど、ブラジルはカウンターでチャンスとなれば、サイドバックもボランチもゴール前に駆け込んで、人数をかけて点を取りにいく。危ない場面では、プレーを切ったり、体を投げ出してファウル気味になってでも止める。ブラジルの方がここっていうところでチャンスや危ないシーンを見極める力があった」

 何をしないといけないか、何をしたら勝てるのか。展開が流れ続けるサッカーにおいて、その瞬間の判断がゲームを左右する。

「15歳といえども、サッカーをよく分かっている。止めて蹴るはもちろん、体を張るというのは、どこのチームもやっていた。そうでないとブラジルでは生き残れないから」

 今の時代では“主張すること=わがまま”と捉えられることもある。ただ、サッカーにおいて、試合に勝つためにおいては、自らの意思を発信していかなければいけない。ブラジルで勝利のために必要なことを学ぶなか、ピッチ上で大切なものを、ふと思い出した瞬間だった。


“今まで通り”ではいけない。


「もちろん、今回参加したことでアントラーズの選手たちの成長を感じるよ。でも、止めて蹴る技術はもちろん、勝ちに持っていく力、ゴール前の質は全然違う。ブラジルの選手はゴール前では必ず勝負して、シュートまで持っていく。その技術をもって、強い気持ちで戦ってくるんだから。それを体感できたのは貴重な経験になったと思う。だからこそ、帰国したら“今まで通りに戻ってしまった”ではもったいない。この高い基準を維持し続けないといけない」

 ピッチを眺めながら、小笠原はボソッとつぶやいた。

「まだまだ日本とブラジルには大きな差があるよ」

 現役時代、誰よりも勝ちを、誰よりもタイトルを求めた男は、15歳の少年たちに純粋で揺るぎない勝利への追求を見た。


◆小笠原満男が子供達に伝える主張力。 「違うと思うなら言葉にすればいい」(Number)





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