日刊鹿島アントラーズニュース

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2022年6月18日土曜日

◆「暴れられる選手が、チームには必要」 “腐った牛乳”鈴木優磨の真価(集英社オンライン)






カタールW杯に向けた日本代表の強化試合が進む中、日本代表メンバーをめぐる争いも熾烈になってきている。Jリーグでたしかな実績を残している鹿島アントラーズの鈴木優磨が日本代表に選ばれる可能性は?


森保監督に嫌われた選手!?


5月29日、味の素スタジアム。FC東京戦、鹿島アントラーズのFW鈴木優磨の言動が注目を集めた。

2点リードされた終盤、鈴木は右サイドでスローインを受けると、相手ディフェンダーを背負いながら力強く反転し、ペナルティエリアへするりと侵入した。そのポストプレーはしなやかで、相手にボールを触らせていない。無理に寄せてきたところを、その力を利用して入れ替わった。刹那、相手に手を使って引き倒されたように映ったが…。

主審の笛は鳴っていない。

鈴木は、この判定に激怒した。流されたプレーが切れた瞬間、主審に近づいて声を荒げて詰め寄った。そこでVARのチェックに入るも、プレーが切れた時のひと悶着に対してで、PKかどうかのVARチェックは入らない。その代わり、鈴木にはイエローカードが提示された(審判への反抗的な態度、ペットボトルを地面に投げつけたことなどが理由か)。

この処分に、鈴木は呆れた表情を浮かべた。そのままゲームは終わり、腹の虫がおさまらなかったのだろう。試合後の挨拶、彼は”慇懃に”審判の手を自ら握った。

模範的な振る舞いとは言えない。鈴木は、その粗暴さがしばしばやり玉に挙げられる。開幕のガンバ大阪戦では相手FWのパトリックとやり合う中、退場に追い込んだプレーが物議を醸した。勝負においてはなりふり構わない。

「その言動が森保一監督から嫌われて、代表にも戻れない」

関係者の間で、まことしやかにそう語られるほどだ。反感を持つと、悪感情を抑えられない。たとえそこに正当性があったとしても、ネガティブに映る。

「ペットボトルを投げるとか、ああいうのが直らない限り、上には行けないと思います」

FC東京戦後、同世代MFの渡辺凌磨に苦言を呈せられていた。

しかし、鈴木は果たしてそこまでこき下ろされる言動をしたのか?


「腐った牛乳」が戦場では武器になる!?


鈴木は球際でも、かなり激しくぶつかる。東京戦も、ベテランの長友佑都が相手でも構わず、猛然と張り合った。相手を睨みつけるような風貌だけに、何をしても喧嘩腰に映る。
見てくれの問題として、荒くれ者なのだ。

しかし、実は器用なタイプで、華麗なターンなどエレガントな動きをするストライカーと言える。ポストプレーも、サイドに流れるプレーも、技術レベルが高い。相手を背負って巧妙にボールを収め、全身を使いこなし、的確なキックでパスをつなげる。

16節終了時点で6得点。さらに、アシスト数もリーグトップを争い、前線のプレーメーカー的センスもある。繊細な技術と体躯を生かしたダイナミズムを感じさせる選手だ。

ただ、驕慢で尊大なイメージが強く残ってしまう。彼自身、ピッチを戦場と心得ているのだろう。その熱量は、おそらく本人も持て余すほどで、味方以外にとっては鼻白むところもあるかもしれないが…。

それは一つの衝動だ。

勝利に向かって、感情に突き動かされるように体を動かす。ピッチではその本能だけ、が時に正義になる。憎まれ子世に憚る、というのか。

「Mala Leche」

スペイン語で、それは「腐った牛乳」が直訳になる。そこから転じて、「感じの悪さ」「不快さ」「不機嫌」となる。一般社会では、褒め言葉とは言えないだろう。しかし、サッカーの世界では「Mala Leche」がしばしば求められる。鈴木のケースは、まさにそれに当てはまる。

彼らのような選手は一見して感じが悪く、独善的で、周りと折り合いをつけない。たとえ悪意はなくとも、敵意は旺盛で、自らの正義で行動し、それが敵味方関わらず、周囲と摩擦を起こすことがある。言わば、「問題児」と隣り合わせだ。

ただ、それだけのパワーは持っている。それが外に向かって放たれた場合、味方にとって、これ以上、頼もしい存在はいない。敵愾心を燃やし、混迷を打ち破ってくれるのだ。


主将プジョルの忘れられない一言


FCバルセロナが最強を誇った時代、カメルーン代表FWサミュエル・エトーは我が強く、気性も著しく激しかった。ジョゼップ・グアルディオラ監督からは当初、戦力外通告を受けていたほどである。全身全霊で戦う精神は持っているのだが、感情の起伏が激しく、敵意が燃えると手が付けられず、周りと安定した関係を保つことが不得意だったと言われる。

「自分を”我が強い人間だな”と思うことはある。考えていることは何でも言っちまうし。でも、その気の強さが自分を後押しし、苦境でも助けてくれた。俺はチームが悪い時こそ、アグレッシブに敵に立ち向かう」

バルサ時代にインタビューした時、エトーは不敵な顔で語っていた。エトーが発した覇気は、バルサに勢いを与えた。宿敵レアル・マドリード戦では、復讐心すら滲み出るプレーで勝利の立役者になった。猛然とした戦いが、チームメイトにも伝播した。

「サミュエル(エトー)のMala Lecheは、パワーダウンしかけたチームに力を与えた。みんな、どこかで仲良し集団になってしまうところがある。彼のおかげで、緊張感を持って戦うことができたんだ」

当時、バルサのキャプテンだったカルラス・プジョルが洩らしていた言葉が忘れられない。エトーはチーム内で周りの空気を読まず、ゴールにつながるパスを強く要求し、それは感じが悪いほどだった。一方で、ピッチに立てば先頭でボールを追い、その闘争心が集団の停滞を打破した。

かつてJリーグ3年連続得点王に輝いた大久保嘉人も、タイプ的にはエトーと同じだった。


「暴れられる選手が、チームには必要なんだよ」


大久保は練習であっても、「パスを出せ」と要求し続けた。理不尽なタイミングもあったはずで、周りには不満を感じた味方もいただろう。いわんや、敵に対してはなりふり構わなかった。イエローカードはJ1歴代最多の104枚。たとえ「乱暴者」のレッテルを貼られても文句は言えまい。しかしJ1通算最多の191ゴールを叩き出すためには、その気性が必要だった。

「暴れられる選手が、チームには必要なんだよ」

日韓ワールドカップなどでも活躍した松田直樹が、生前に言っていたことがある。彼自身、猛々しさを隠さない選手で、自分と似て感情量が豊富な大久保、乾貴士、小野裕二のような選手をかわいがった。決して優等生ではない。しかし人間的に可愛げがあって、戦う気持ちを一方向に出せたら、凄まじい力を発揮できるはずだと――。

鈴木が上に行くか、それはわからない。ありあまる気迫に自身が飲み込まれる可能性もある。Mala Lecheは毒にもなるだろう。しかし、その覇気は精度の高いプレーを続けるために欠かせないもので、制御するべき時はあっても、一つの魅力的なキャラクターだ。

今シーズン、鈴木は、(東京戦まで)Jリーグ16試合すべてに先発出場。首位争いする鹿島で、欠かせないストライカーになっている。

W杯日本代表に選ばれる可能性は低い。しかし、ゼロではないだろう。2018年11月に怪我で辞退して以来、招集は遠ざかっているが、修羅場において異色な存在になる。

7月に行われるE1選手権は国内組で戦うだけに招集はあるか?

文/小宮良之 写真/Getty Images




◆「暴れられる選手が、チームには必要」 “腐った牛乳”鈴木優磨の真価(集英社オンライン)










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