日刊鹿島アントラーズニュース

Ads by Google

2023年5月7日日曜日

◆上田綺世が感じた日本とベルギーのサッカー文化の大きな違い「ボールを持つことが絶対にいいとされているわけではない」(Sportiva)



上田綺世


上田綺世(サークル・ブルージュ)インタビュー前編


 2022-23シーズン、上田綺世の新たな挑戦が始まった──。

 プロ入りから3年間在籍した鹿島アントラーズを離れて海を渡り、ベルギーという新天地に足を踏み入れた。挑戦はそれだけにとどまらず、日の丸を背負ってカタールへと飛び、ワールドカップの舞台にも立った。

 ストライカーとして生きてきた自分が、ヨーロッパでこの先、どのようなキャリアを築いていくのか......。自らの状況を冷静に見極める慧眼の持ち主であることは、彼が発する言葉の端々に感じられた。

   ※   ※   ※   ※   ※

── まずは3月の代表戦、お疲れさまでした。ウルグアイやコロンビアといった骨のある相手でしたが、手ごたえはいかがでしたか?

「手ごたえはありました。悪くなかったと思います。自分の武器だったり、自分らしさはある程度、出すことができたんじゃないかなと。

 何をもってそうかと言えば、海外に来る前の代表での活動(との比較)とか、ウルグアイやコロンビアという相手に対する実感として、強度だったりプレースピードなど、やっぱり以前よりもやれたんじゃないかなと思いますので」

── 今回の代表活動では、上田選手と同年代の選手が中心となりました。年齢の近い選手が多いことで、何か特別な意識が出てきたりしますか?

「特にはないですね。自分も年を取ったなぁというか、中堅になったなぁという自覚はあります。今までは(チームのなかで)自分が若いとされてきたので、それがもう、今は若くない。主軸として動いていく年になってきたなという自覚はありますね」

── 同年代でよく会話をする選手は誰ですか?

「(三笘)薫くんとか、(3月の代表戦では)呼ばれてなかったですけど相馬(勇紀)くんとか、あとはキーパーの大迫(敬介)とか、伊藤洋輝とか......そのあたりですかね。(話す内容はお互いの)近況報告みたいな」

── 3月のコロンビア戦のあと、ラダメル・ファルカオ(ラージョ・バジェカーノ)との写真を自身のインスタグラムにアップされていました。昔から好きな選手だったのですか?

「小さい頃からの憧れでしたね」

── そのほかに子どもの頃に好きだった選手、参考にしていた選手はいましたか?

「いっぱいいますね。海外の選手は昔からいろいろ見ていました。小・中学生の頃は特にリーガが好きで、プレミアやブンデスも親と一緒に見ていたんです。ファルカオとか、あとは誰が好きだったかなぁ......シェフチェンコとか。フィニッシャーじゃないですけど、そういうタイプのフォワードが特に好きでしたね」

── フィリッポ・インザーギとか?

「インザーギも好きでしたけど、さすがにまだ小さかった僕にはプレーが渋すぎて(笑)。ほかにはジラルディーノとかバロテッリも好きでした。でも、挙げたらキリがないですね。バレンシアのソルダード、わかります? あと、その当時はビジャやトーレスも好きでした」

── 当時はそういう選手を見ながら、プロ選手になることを思い描いていたんですか?

「いや、目標にはしていましたけど、『自分は絶対にプロになれる』っていう自信はなかったです。プロになりたいというより、ただ『ゴールを取りたい』と。そのなかで少しずつ上に行きたいと思い、上に行くためにはゴールも必要で......という感じでした」

── 昨年はカタールW杯に臨む日本代表メンバーに選ばれ、コスタリカ戦では出場機会を得ました。率直な感想はいかがでしたか?

「あんまり力になれなかったな......という思いはあります。チームに貢献できなかったというか、結果に関われた感じはしていないですね」

── では、あの大会で最も得られたものは「悔しさ」も?

「そうですね、内面的なもののほうが大きいかな。正直、試合で得られたものはそんなにないと思っていて......。45分で交代したというのもあるし、自分のなかでは悪循環で、なかなか力を発揮できなかったのもあったので。

 世界で通用しなかった部分もあるんですけど、出場時間も勝ち取ることができなかった。周りからは『もう1試合出ていたら(結果は違っていた)』とは言ってもらえるんですが......。

 たしかにあのコスタリカ戦で90分(出続けたら)とか、次の試合も出してもらえていたら、という思いもあります。だけど、それはあくまで自分で勝ち取るものなので。

 その軌道修正も含めて、やっぱり.........ワールドカップはめちゃくちゃシビアな大会なんだなと。試合に使われないのはどの国でも起きている当たり前のことですので、チームのなかで自分の需要を生み出せなかったという悔しい思いはすごくあります」

── ワールドカップ後、森保一監督の続投が決まりました。上田選手にとって、それはどうプラスに働くでしょうか?

「正直、僕はあんまり変わらないのかなと思いますね。これまでいろんな取材を受けた時にも言っているんですが、ワールドカップや日本代表は本当にすばらしい環境で、選手にとって本当に名誉なことなんですけど、僕自身は日本代表に入るためだけにサッカーをやっているわけではないので。

 サッカー人生の一環として(日本代表やワールドカップを)考えているので、それも含めて自分のキャリアについてくるものだと思っています。だから、森保さんが監督でもそうじゃなくても、呼ばれる選手は呼ばれるし、呼ばれなくなる選手は呼ばれなくなる。そこは本当にシビアな世界なので、特にプラスということはないかな......と僕は思っています」

── 3月の代表シリーズで森保監督と何か言葉は交わしましたか?

「いや、ほとんど話してないですね。今の(所属)チームの状況について『どう?』みたいな話はしましたけど、具体的な話はしてないです」

── では、話をベルギーに移します。ブルージュでの生活はどのように過ごしていますか?

「そんなに大きい街ではないですけど、町全体が世界遺産になっているので、旅行客は多いですね。最初は自分も観光をしましたけど、今はたまに買い物に行ったりするくらいですかね」

── 言葉に関して、ふだんの会話は英語ですか?

「英語ですね。(来た時に比べて)多少は上達しましたけど、(英語で)インタビューに答えられるほどではないです。(チームメイトと英語で)ふざけあうくらいはできますけど」

── 言葉の不自由さは感じませんか?

「そうですね、もともとそんなに人といっぱいしゃべるタイプではないので(笑)」

── ベルギーに初めて来た時、カルチャーショックはありましたか?

「わかっていたことですけど、日曜日にお店がやってないとか。でも、圧倒的にみんなフレンドリーですよね。日本人と比べて、それは感じました。犬の散歩をしていても普通に話しかけてきたり、犬を抱き上げる人もいますし」

── 居心地は悪くない?

「居心地はいいですね。日本はご飯が美味しいという魅力がありますけど、ベルギーでは周りの目を気にしなくていいので」

── サポーターから声をかけられることも?

「増えましたね。街を歩いていても普通に話しかけられます。『こないだはナイスゴールだったな!』みたいな」

── サークル・ブルージュへの完全移籍は、どういう流れで決まったのでしょうか。

「海外移籍はしたいという思いがずっとあって、それはクラブとも代理人とも話していました。あとはタイミング次第、という感じだった時に、(2022年シーズンのJリーグ)前期に10点取ったことでいくつかのクラブから声をかけてもらったんです」

── ベルギーのリーグに関するイメージは何か持っていましたか?

「日本人選手が多いイメージはやっぱりありましたね。一発で(5大リーグに)移籍できればいいなとは思っていましたけど、そう簡単にはいかないので、オランダやポルトガルなどでステップアップの段階を刻むだろうなと。ベルギーは5大リーグに向けてのステップアップのリーグ、というイメージですね」

── 実際にベルギーに来てから、イメージに変化はありましたか?

「まずは第一に、文化が大きく違うなって感じました。自分のなかでの割り切りが必要だし、そういうところに馴染むのも最初は大変でした。

 文化が違うというのは、たとえば僕の主観になりますが、日本のサッカー文化では川崎フロンターレのようなポゼッションで何十パーセントも相手を上回り、パスも何百本もつないで、なおかつ勝つというのがよい──とされている気がして。『それがすばらしいサッカーだ』と。

 でも、サッカーの本質は試合に勝ち続けることだから。こっち(ベルギー)や特に今のチームではより合理的に、相手ゴールに迫る回数を増やし、相手に自陣ゴール前に入られる回数を少なくして、相手陣地でプレーすることが求められます。

『細かくボールをつなぐのはリスクだよね』『だからみんなでスペースを作る動きをして、なるべく相手のコートで、相手にうしろ向きでプレーさせて、より相手ゴールに迫るプレーを続けよう』という考え。そういう優先順位ですね。

 だから、綺麗(なサッカー)とか泥臭い(サッカー)の感覚もない。プレッシャーをガンガンかけて、前でボールを奪って、パスを出して、得点を決める。それを続けたら相手は点が取れないし、僕らはより多くのチャンスを得られる......という本質です。そこの文化がまったく異なっています。

 日本では『弱いチームはボールを持てない。だからプレッシャーをかけて走るチームになる』もしくは『強いチームはボールをつなぐテクニックがあるから、ゆっくり試合を進めてラクに勝つ』みたい風潮が見られますが、そこがまったく違う。ベルギーではボールを持つことが絶対にいいとされているわけでもないですし」

 日本とベルギーにおけるサッカー文化の違いを、上田は静謐に、そしてよどみなく話し始めた。続くインタビュー後編では、指揮官との関係性、最前線以外のポジション、そしてシーズン終盤に見せたゴールラッシュの背景について語ってくれた。

【profile】
上田綺世(うえだ・あやせ)
1998年8月28日生まれ、茨城県水戸市出身。中学時代は鹿島アントラーズノルテに所属するも、ユースに昇格できず鹿島学園高へ進学。2019年、法政大サッカー部を退部して鹿島に加入。同年7月、浦和レッズ戦でプロデビューを果たす。2022年7月、ベルギーのサークル・ブルージュへ完全移籍。日本代表はU-20から各年代で呼ばれ、2019年6月のチリ戦でA代表デビュー。2022年カタールW杯メンバーに選ばれる。ポジション=FW。身長182cm、体重76kg。

プロフィール
鈴木智貴(すずき・としき)
1981年生まれ、静岡県出身。2010年からドイツ在住。DFB公認B級(UEFA−Bレベル)指導者ライセンス保有。これまでに左右アキレス腱断裂と左膝半月板損傷を経験しており、手術歴”だけ”はプロ選手並み。




◆上田綺世が感じた日本とベルギーのサッカー文化の大きな違い「ボールを持つことが絶対にいいとされているわけではない」(Sportiva)





Ads by Google

日刊鹿島

過去の記事