日刊鹿島アントラーズニュース

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2018年6月23日土曜日

◆「半端ないって」伝説が話題の大迫勇也に実は「半端だった」過去がある(THE PAGE)



大迫勇也 ロシアW杯


 動画投稿サイトに偶然アップされた映像内のフレーズが、まさか9年もの歳月を超えてホットワードと化し、今年の流行語大賞候補とまで言われるとは、当時関わった誰もが思わなかっただろう。

 それは「大迫半端ないって」――。19日に行われたロシア・ワールドカップのグループリーグ初戦で、強敵コロンビア代表を撃破する大金星を西野ジャパンにもたらしたヒーロー、FW大迫勇也(ベルダー・ブレーメン)を象徴する枕詞として、サッカー界では有名な言葉だった。

 起源は大迫を擁する鹿児島城西(鹿児島県)が準優勝した、第87回全国高校サッカー選手権大会。2009年1月5日の準々決勝で2‐6のスコアで大敗を喫した滝川第二(兵庫県)のキャプテン、中西隆裕さんが号泣しながら「大迫、半端ないって! あいつ、半端ないって!」と叫んだ映像にある。

 滝川第二戦で2ゴールを叩き込んだ大迫は、いまも一大会における最多記録としてさん然と輝く10ゴールをマークして得点王を獲得。同時にアシストも10を記録し、超高校級フォワードの肩書きを引っさげて常勝軍団・鹿島アントラーズ入りした。

 あれから9年。後半28分に1‐1の均衡を破る勝ち越し弾を頭で決めたコロンビア戦の大活躍と、サランスクのモルドヴィア・アリーナのスタンドに躍った、「大迫半端ないって」の横断幕が何度もテレビ画面に映ったことで、瞬く間にネット上で話題を集めた。

 しかし、大迫本人は自分自身を「中途半端」なフォワードだと位置づけてきた。2015年6月のシンガポール代表とのワールドカップ・アジア2次予選を最後に、大迫が刻んできた日本代表の軌跡には、約1年5ヵ月もの空白期間が生じている。

 誰よりも大迫自身が、ハリルジャパンから遠ざかった理由を痛感していた。当時所属していたFCケルンで好調をキープしていた点が評価され、ハリルジャパンへの復帰を果たした2016年11月以降、幾度となくこんな言葉を口にしている。

「ゴール前でもっと迫力を出すことが、僕自身の課題だとずっと思っている。普通にプレーしていたら出せないものなので、もっともっと意識しながら、自然と迫力を出せるようにしないといけない」

 アントラーズでの5年間で得点数が2桁を数えたのは、リーグ5位タイとなる19ゴールをあげた2013シーズンの一度しかない。活躍の場をドイツに求めた2014年以降も然り。ケルンでの4年間の合計は15ゴール。最高は2016-17シーズンの7ゴールだった。

 数字で評価されるフォワードというポジションを考えれば、物足りない数字と言わざるを得ない。それでも大迫が重用されてきたのは、182cm、71kgとやや華奢に映る体にもうひとつの武器が搭載されているからだ。前出の中西さんは、件の映像でこう叫び続けている。
「後ろ向きのボール、めっちゃトラップするもん。そんなんできひんやん、普通」
 後ろ向きのボールとは、後方から送られてくる浮き球のパスのこと。巧みに収めたボールをすぐに自分の間合いに置き、相手を背負いながらもさまざまなフェイントを駆使してターン。相手ゴール前へ抜け出していく動きを、高校時代からすでに大迫は身につけていた。

 高校3年生に進級する直前の大迫を見出したアントラーズのスカウト担当部長で、いまも同職を務める椎本邦一氏は、名づけるならば「大迫ターン」の秘密をこう語ってくれたことがある。

「ポストプレーで相手を背負ったときに、見えない場所にボールを置いているのでは。自分の体やフェイントを使って、上手くボールを隠しているんじゃないかと。相手が置き去りにされる場面を何度も見ると、そうとしか説明できないんですよ」

 大迫自身も「ボールを収めることはできる」と絶対の自信を寄せていた。そのうえで体幹をさらに鍛え抜き、自分よりもサイズが大きく、屈強な外国人ディフェンダーが放つプレッシャーをはね返すのではなく、しなやかな柳の枝のように吸収しながら受け流すテクニックも身につけた。

 香川真司(ボルシア・ドルトムント)のPKによる先制点と、コロンビアのMFカルロス・サンチェス(エスパニョール)の一発退場への流れを作ったのは、大迫が新たに搭載した武器だった。

開始わずか3分。香川の縦パスに反応し、187cm、81kgのサイズを誇るDFダビンソン・サンチェス(トッテナム・ホットスパー)の激しいプレッシャーを背後から受けながらも倒れない。しかも体を巧みに反転させて前を向き、最後は左足からシュートを放った。
 これはコロンビアの守護神ダビド・オスピナ(アーセナル)に防がれたが、フォローしてきた香川がこぼれ球に左足を一閃。伸ばした右腕で弾き返したC・サンチェスが、主審から故意のハンドによるレッドカードを提示された瞬間が番狂わせへの序章となった。

「あとは相手ゴール前へ入っていく回数も、相手ゴール前でボールを受ける回数も、もっと増やしていかないと。相手ゴール前へ入っていくことで何かを起こせると思うし、相手の脅威にもなるので」

 こう語ってもいた大迫は後半9分には香川のパスに反応。巧みなターンから抜け出し、左足から強烈な一撃を放った。さらに同28分には相手を背負いながら絶妙のボールを落とし、あわや勝ち越しかと思われたDF酒井宏樹(オリンピック・マルセイユ)のシュートを導いた。

 このプレーで獲得した左コーナーキックから、大迫が劇的な決勝弾を決めた。MF本田圭佑(パチューカ)が蹴った速いボールに相手と競り合いながら、滞空時間の長いジャンプから頭をヒットさせてゴールの反対側へ巧みに流し込んだ。

 実は高校時代からヘディングを不得手とし、頭によるゴールが極端に少なかった。アントラーズ入りしてすぐに、空中戦で群を抜く強さを誇っていた元日本代表DF岩政大樹(現東京ユナイテッドFC)に志願して弟子入り。伝授された教えを試行錯誤しながら、時間をかけて自分のものにしてきた。

 日本代表へ復帰してから、15試合に出場して5ゴールをあげた。そのうち3つがヘディングで決めたものだ。加えて、コロンビア戦ではチーム最多となる5本のシュートを放っている。
 2試合に先発しながら、無得点に終わった前回ブラジル大会から4年。客観的な視点から自分自身の弱点を把握し、上手さに怖さを融合させたフォワードを貪欲に追い求めてきた大迫が、ロシアの地で枕詞通りに「半端ない」存在感を放ちつつある。

(文責・藤江直人/スポーツライター)




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