日刊鹿島アントラーズニュース

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2015年11月2日月曜日

◆ナビスコ決勝、ワンサイドゲームの要因 小笠原が鹿島に行き渡らせた勝者の精神(SPORTS NAVI)


http://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201511010001-spnavi

両者に見えたメンタルコンディションの差


ナビスコカップ決勝は鹿島がG大阪に3−0で快勝し、17冠目のタイトルを獲得した【写真:アフロスポーツ】


 勝者は「強者」だった。ガンバ大阪を圧倒し、ナビスコカップを制した鹿島アントラーズのことだ。この日、鹿島が放ったシュートの数は、5本だったG大阪のおよそ5倍に相当する24本。CKの数を比べても、鹿島の12本に対し、G大阪はわずか2本にとどまった。3−0というスコア以上の快勝。G大阪の若きエースである宇佐美貴史は「何もさせてもらえなかった」と脱帽の体だった。

 ワンサイドゲームになった要因は何だったのか。9月、10月とほぼ休みなく戦ってきたG大阪の過密日程による影響(疲労)を指摘する声もある。しかし、G大阪のGK東口順昭の見方は違った。「前半、鹿島の圧力に押されて、疲れがあるように見えただけ。直近の試合から1週間も空いていた。過密日程は関係ない」と。守護神によれば、フィジカル(身)よりもむしろ、メンタル(心)のコンディションに差があった、という。

「ざっくり言えば『勝ちたい』という気持ちの面で相手が上だった」

 そう語ったのはG大阪の長谷川健太監督だ。また、指揮官はこうも話している。「選手たちに『勝てるだろう』という慢心があったかもしれない」と。決戦を迎えるまでの鹿島との公式戦は4連勝中だった。心のどこかに隙が生じたのか。真偽のほどはともかく、鹿島の気迫がG大阪を上回っていたのは確かだろう。その象徴が、圧巻とも言うべき「球際の強さ」だった。

 敵陣からガンガン圧力をかける鹿島のハイプレス(戦術)が十全に機能したのも、そのためだ。これに攻守の切り替えの速さと、相手に寄せる出足の鋭さが重なって、時に転がり、時に宙を舞うボールが、ことごとく臙脂(えんじ)のユニフォームに吸い込まれていった。事実、宇佐美は「想像していた以上にプレッシャーがすごかった」と、振り返っている。

G大阪・遠藤の珍しいエラーの連続


鹿島の苛烈なプレスに、遠藤は珍しくエラーを連発した【写真:アフロスポーツ】


 G大阪が一方的に押し込まれた要因の一つに、最前線で逆襲のターゲットになるパトリックの空転があった。昌子源とファン・ソッコの激しいチェックに遭い、高い位置でボールが収まらず、敵陣へ押し返せない。パトリックに当てた後のセカンドボールも、ことごとく鹿島に拾われた。パトリックに仕事をさせない2センターバックの働きも見事だが、鹿島の石井正忠監督は「前線からの守備が効いていた」と、グループによる優れた連動性を強調している。

 パトリックを狙ったパスそのものが、すでに「死んでいた」わけだ。送り手が苛烈なプレスに浴びて、苦し紛れのパスが頻発している。事実、反撃の始点となる遠藤保仁のパスワークに何度もバグが生じていた。41分の場面が象徴的だろうか。こぼれ球を拾い、前線で待つ宇佐美へ送ったパスがファン・ソッコに拾われると、その数十秒後には遠藤にボールを預けて前へ出た今野泰幸へのリターンパスを、プレスバックした鹿島の遠藤康に回収されてしまう。

 名手にしては極めて珍しいエラーの連続。遠藤がパスを送る寸前に圧力をかけていた柴崎岳の、小笠原満男のファーストディフェンスが「最速奪取」の伏線になっていた。イレブンが鎖にようにつながり、狙った獲物を仕留めるプレッシング戦術の教本だろう。そして、この“ハンティング・ワールド”の先導者と言うべき存在が、小笠原である。

 開始5分のワンプレーが暗示的だった。G大阪の米倉恒貴がタッチライン際で遠藤に視線を配った瞬間、企図を察知した小笠原は倉田秋のマークを捨てて遠藤に襲い掛かり、ボールを絡め取った。この日の鹿島が何をすべきか――。「苛烈なプレス」と「遠藤狩り」という二重のメッセージを込めたキャプテンのボールハントは、鹿島の攻勢を加速させるスイッチだった。

鹿島の攻撃に幅と奥行きをもたらした「横」と「縦」の動き

金崎(写真)と赤崎、2トップの働きも光った【写真:アフロスポーツ】


 ボールを奪った後のプロセスで光ったのは、2トップの働きだろう。金崎夢生と今大会のニューヒーロー賞に選ばれた赤崎秀平のペアだ。前半、G大阪のディフェンス陣は、縦横に動く2人のアクションに翻弄(ほんろう)されている。高い位置を取るG大阪のサイドバックの背後に流れ、反撃のポイントをつくった金崎の「横」の動きと、何度も最終ラインの裏へ抜けた赤崎の「縦」の動きが、鹿島の攻撃に幅と奥行きをもたらしていた。

 赤崎は無得点に終わったものの、鋭いラインブレイクから遠藤のスルーパスを引き出し、二度にわたって決定機を作り出している。同時にG大阪の最終ラインを押し下げ、先発出場した西野貴治をベンチに追いやり、敵の指揮官に早々と交代のカードを使わせた意味でも価値があった。1トップのパトリックが沈黙し、フォロワー(トップ下)の倉田が消えたG大阪のフロントラインとは、実に対照的だった。

 ベンチの用兵術でも上を行ったのは鹿島の方だ。先制した後にピッチへ送ったカイオと鈴木優磨の両翼が、鹿島の勝利を決定づける上で貴重な役割を果たしている。攻撃参加を企むG大阪のサイドバックをけん制し、1点を追って前のめりになるG大阪の背後を鋭く突いた。左翼の鈴木から右翼のカイオへ一直線に伸びる対角パスから、何度もチャンスを演出している。

 鈴木がヘッドで2点目につながるアシストを記録すれば、カイオは自ら持ち込んでダメ押しの3点目をマーク。目に見える結果(数字)を残したという点でも見事な働きだった。またG大阪がリンスを投入し、2トップに切り替えると、3枚目のカード(山村和也=ボランチ)を切り、守備の綻びを未然に防ぐ念の入れ方。高さも備える山村の存在は、2トップへロングボールを放り込むG大阪の最後の手段(パワープレー)への抑止力ともなった。

常勝・鹿島の新時代へ


誰よりもタイトルの重みを知る小笠原(中央)が、“勝者の精神”をチームの隅々まで行き渡らせた【写真:アフロスポーツ】


 キックオフ直後からG大阪を圧倒したゲームの入り方から、強化(攻撃)と補強(守備)のバランスを取るゲームの終わらせ方まで、実に抜かりがなかった。石井監督は「失点をゼロに抑える理想の形。うちらしいゲームができた」と、会心の勝利に喜びを隠さなかった。だが、最終的に「内容と結果」のつじつまが合ったポイントは、セットプレーにある。

 均衡を破った鹿島の先制点と、勝利を確信させる追加点は、いずれもCKから生まれたもの。1点目はゴール正面でフリーだったファン・ソッコがヘッドで押し込み、2点目もファーサイドでフリーとなった鈴木の折り返しを、金崎がヘッドで押し込んだ。マークを外しやすい相手の隙を逃さず、エアポケットに入った味方へしたたかにボールを送り届けるキッカーの技術と判断が大きくモノを言った。その立役者もまた、小笠原である。

「何が大事か、何をすべきか、よく分かっているつもり。こういう舞台は何回も経験している。そこが、鹿島の強み」

 小笠原は胸を張った。もっとも、世代交代の途上にある現在の鹿島に何度も決勝の舞台を味わっている歴戦のツワモノは数えるほど。従って「そこ(豊かな経験値)が強み」という鹿島とは、まさに小笠原自身を指していると言ってもいい。鹿島が手中に収めてきた、国内の3大タイトル(Jリーグ、ナビスコカップ、天皇杯)16冠のうち、実に13冠に貢献。誰よりもタイトルの重みを知る存在だ。この日、MVPに輝いたのは小笠原だった。

 試合を終え、36歳の大ベテランはクラブ史上17冠目、自身14冠目となる「聖杯」を天高く掲げた。小笠原の感染力が“勝者の精神”をチームの隅々まで行き渡らせた末の歓喜の輪。そこから、常勝・鹿島の新時代を告げる足音が聞こえてくるかのようだった。

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