流れが掴めそうで、掴み切れない――。どちらにとっても、もどかしさが残るドローゲームだった。
10月7日に行なわれたJ1リーグ第29節。鹿島アントラーズと川崎フロンターレの一戦は、シーズンの結末を占うビッグマッチとなった。
前節に首位に立った川崎Fは、勝ち点で並んでいたサンフレッチェ広島が前日に敗れたことで、その差を広げる絶好の機会だった。一方の鹿島は公式戦7連勝中と勢いに乗り、リーグでも3位に浮上。首位チームとの直接対決をモノにすれば、厳しくなっていた逆転優勝の可能性が生まれてくるところだった。
ポゼッション型の川崎Fと、堅守からの鋭いサイドアタックを持ち味とする鹿島。両者のスタイルを考えれば、川崎Fがボールを支配する展開が予想された。
実際にポゼッション率では、川崎Fのほうが高かっただろう。しかし、そのボール支配は決して効果的とは言えなかった。後方ではパスをつなげたものの、アタッキングエリアにはなかなか到達しない。攻撃のカギを握る2列目にパスが入らず、自慢のパス回しは影を潜めた。
その原因について、中村憲剛は芝の影響があったと明かした。
「水も撒かれていないし、伸びていたので、簡単ではなかった。プロだからそんなこと言うなよと、みなさんはおっしゃるかもしれませんが、やっぱり日々自分たちがやっているグラウンドとは違った。もっと早くアジャストできればよかったんですが」
一方で、鹿島の鋭い対応も見逃せないポイントだろう。とりわけ際立ったのが、三竿健斗とレオ・シルバの2ボランチだ。厳しい寄せで相手に時間を与えず、広範囲に動いてスペースを渡さない。川崎Fのパスワークを遮断して、カウンターのきっかけを生み出していった。
「みんなで我慢して、最後の最後でやられなければいいと考えていた。ボールは相手が握っていましたけど、全体のプランとしては僕たちが思い描いとおりになっていた」
三竿が言うように、狙いどおりの試合を展開していたのは鹿島のほうだっただろう。
川崎Fにもチャンスがなかったわけではない。絶好機は前半終了間際。わずかにスペースが生まれた鹿島のディフェンスラインの隙を突き、小林悠がエリア内に侵入。相手DFに倒されてPKを獲得した場面だ。しかし、小林自らが蹴ったボールは鹿島の守護神クォン・スンテにセーブされる。このチャンスを逸したことが、川崎Fにとっては痛かった。
後半に入ると、鹿島に流れが傾きかける。サイドから押し込む機会が増え、レオ・シルバも背後のスペースを開けて、高い位置に攻め上がっていく。
もっとも、決定的な場面までは作れなかった。称えられるのは川崎Fの守備陣だろう。集中力を切らすことなく、相手にフリーの状況を作らせない。鹿島に劣らない球際の激しさを示し、身体を張ってゴールを守り抜いた。
「鹿島は、戦わないで腰が引けたりすると、あっという間に隙を突いてくるチームなんで。今日に関して言えば、全員が最後まで受けに回ることなく、引くことなく、ガンガン行っていたと思う」と、中村が振り返ったように、川崎Fは本来のサッカーができないなかでも、戦う意識を保ち続け、鹿島に行きかけた流れを力づくで引き戻したのだ。
すると、ふたたび川崎Fにリズムが生まれていく。きっかけは選手交代だ。ボランチの守田英正に代えて、FWの知念慶を投入。2トップに変更し、前線の起点を増やした。トップ下の中村をボランチに下げたこともあり、パスの流れも徐々にスムーズになると、鹿島陣内に攻め込む機会が増加。ただし、こちらも決定的な場面までは生み出せなかった。
そこには、鹿島のカウンターに対する警戒心があったからだろう。リスクを負って、攻めきれない。川崎Fのプレーからは、そんな心情が読み取れた。実際に鹿島は終了間際に鋭いカウンターを繰り出し、阿部浩之を退場に追い込んでいる。
そうした展開のなか、最後にふたたび鹿島の勝機が高まった。シンプルにサイドを押し込み、コーナーキックを立て続けに獲得。しかし、ボルテージが上がるゴール裏の期待とは裏腹に、ゴールネットが揺れる場面はついに訪れなかった。
「向こうはカウンターとセットプレーが狙い、というのがわかっていた。今までだったら、ポンとやられて、1−0で持っていかれるという試合だったけど、やられなかった。そういうタフさというのは、このチームについたと思います」
中村が振り返ったように、川崎Fの歴史には常に、「勝負弱いチーム」というレッテルが貼られていたものだ。しかし、昨季にリーグ優勝を成し遂げ、今季も成熟した姿を見せている。本来のサッカーができなくとも、異なるストロングポイントを示して、最低限の結果を手にする。したたかさがウリの鹿島との我慢比べで、互角に渡り合ったのは大きな収穫だろう。
一方の鹿島にとっても、ポジティブな勝ち点1ではなかったか。ACL、天皇杯、ルヴァンカップとすべての大会で勝ち進み、ハードスケジュールを強いられるなか、首位チームからポイントをもぎり取ったのだ。リーグ優勝の可能性は限りなく小さくなったものの、他大会でのタイトルラッシュが期待される、たくましい戦いぶりだった。
両チームともにシュートは6本ずつ。派手さはなく、娯楽性には欠けていたかもしれない。しかし、一瞬も気の抜けない緊迫感は最後まで保たれていた。相手のよさを打ち消し合い、とことん勝負にこだわり抜く。トップレベルのチーム同士が死力を尽くした、まさにプロフェッショナルな一戦だった。